真夜中のアイツ

「腹減った……」


 時計を見れば午前一時を少し回った辺りだ。

 夕食を食べたのが少し早かったせいか、こんな深夜にも関わらず

空腹が男を襲う。

 男は横たわらせていた体を重そうに起こし、面倒くさそうにキッ

チンに向かった。


「この辺にあったはずなんだけど……」


 一人ブツクサ言いながら戸棚をゴソゴソしている。


「お、これこれ」


 男が取り出したのは小さめのカップ焼きそばだった。最後の一つだ

ったそれに慣れた手つきでお湯を注ぎ時間を待つ。

 時計を眺めていると、ふいに職場で聞いた話を思い出した。


 『夜中に一人でキッチンに居るとアイツが襲ってくる』


 良く聞いていはいなかったが、このフレーズだけが脳裏にこびり付

いていた。


「なんか思い出しちまったな…… 気持ちわりぃ。っと、時間時間」


 出来上がったカップ焼きそばをシンクに捨てようとした時、アイツ

は突然やってきた――。


 ボコンッ


「どわっ!? ……あーっ! やっちまった!」


 無残に落ちた麺を見つめながら男は呟いた。


「アイツって、この音の事だったのかよ……」

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