頭が怖い
「一汁一菜」
そうは言うものの、一人暮らしを始めてからは、味噌汁は作らない。
代わりに麦茶を飲んでご飯を食べる。私にとっては、麦茶は一年中欠かせない。寝付きが悪い私はあまりカフェイン摂取が出来ないのだ。
他に何人か人間がいるなら味噌汁を作るだろうが、一人暮らしだと面倒だ。今の私は、外食以外では味噌汁を飲まない。
「頭、かゆいなぁ」
私は子供の頃、苦手な味噌汁があった。今は亡き母の手料理はたいていは好きだったが、あの二つだけは我慢ならぬものだった。
鮭のアラの味噌汁、そしてタチの味噌汁だ。
鮭のアラ、それも特に頭。目が怖い。そうでなくても、私は魚の頭が怖いのだ。だから、いまだに魚をさばけない。
タチとは、スケソウダラの白子だが、これが実に脳味噌に酷似したおぞましい姿形をしている。私は、これらの味噌汁の具を食べられずに残していた。
「なんて贅沢な」
そう非難されるのは百も承知。私は魚卵と白子が大嫌いなのだ。匂いを嗅ぐだけでも耐えられない。
社会人になってから、ある清掃会社に就職した私は、ある大学の医学部の解剖室の掃除の仕事をした事があるが、一緒に作業していた別の会社の人が気分を悪くして早退した。そのものズバリ、脳味噌の標本があったのだ。もう、あの会社には戻りたくない。もちろん、クビになった理由は他にあるけどね。
「全く、絵に描いたようなブラック企業だったよ。社長は新人さんと不倫していたし、課長らのパワハラモラハラもヒドかったし」
それはさておき、とにかく私は魚の頭が怖い。脳味噌みたいなタチも怖い。そういえば、今の私は頭皮がボコボコしている。近所の美容室でシャンプーしてもらい、自分の頭皮がどのようになっているのか訊いてみたけど、特に問題はないらしい。だけど、どうもボコボコが気になる。
昨日見た夢では、私は髪の毛が全部抜けて、頭皮が脳味噌の表面みたいにねじれていて気持ち悪かった。起きたのは、午前三時。中途半端な時間に起き、トイレに行き、再び布団に潜り込む。なかなか寝付けず悶々とし、六時過ぎ。
私は適当に昨日の残り物をおかずにしてご飯を食べ、仕事場に行った。今の職場の空気は悪くない。
「柴田さん、お昼食べに行こ」
「はーい」
昼休み、私は牛丼屋で牛丼を注文する。今の私はここで味噌汁を飲む。大丈夫、目玉も脳味噌も入っていない。私は牛丼を平らげ、ワカメの味噌汁を飲み干して店を出た。
札幌もだんだんと暖かくなっていく。花見シーズンはまだまだ先だが、今年も円山公園をぶらつこう。ジンギスカンの匂いを嗅ぎながら。
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