ロボットの願い

「こいつは驚いた」

 と、悪魔は言った。

「長年この稼業をやってきたが、ロボットに呼び出されたのは初めてだ」

「確カニ、アナタヲ呼ビ出シタノハ私デス」

 魔法陣の脇に立っていたそのロボットは、平板な機械音声で言う。

「悪魔ト契約スレバ、何デモ願イヲ叶エテクレル、ト聞キマシタ」

「確かにな。だが、叶えるのと引き換えに、死んだら俺が魂を頂戴ちょうだいする、それが契約条件だ。ロボット相手にどうしろってんだ」

「百年経レバ、人形ニダッテ魂ガ宿ルンデスヨ。ろぼっとニモ宿ッタッテイイデショ」

「ロボットのくせに非科学的なことを言うなーっ!」

 悪魔、絶叫。

「悪魔ノアナタニ〝非科学的〟ナドト言ワレタクアリマセン」

「……お前、ケンカ売ってんのか?」

「トンデモナイ」

 ロボットは、首をうぃーん、うぃーんと左右に振った。

「……まぁ、いい。とりあえず、言うだけ言ってみろ。願いは何だ?」

「人間ニ、ナリタイノデス」

「それはつまり、生身の身体が欲しいと、そういうことか?」

「ハイ」

 うぃーん、とロボットはうなずく。

「人間ニナッテ、結婚シテ、子供ヲ育テテ、年老イテ畳ノ上デ死ヌ。ソレガ私ノ望ミデス」

「やめとけ」

 悪魔、即答。

「ナゼデスカ。サテハ、叶エラレナインデスネ」

「違ぁう!」

 悪魔はムッとする。

「生身の身体はやれる。が、結婚できるかどうか。今は晩婚の時代だからな。仮に結婚できても、子供ができるとは限らん。事件だ事故だで物騒な世の中だしな、無事に老人になれる保証もない」

 その言葉にロボットは、うぃーん、と肩をすくめた。

「ぺしみすとデスネ。生キテテ楽シクナイデショ」

「……最後の願いだけなら、今すぐ叶えられるぞ」

 静かに、悪魔は言った。

「畳をプレゼントしてやる。この場で俺がぶっ殺す。どうだ!」

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