悪魔の本分

 私の職業は、悪魔である。

 悪魔の職務とは、他者を不幸にすること。この一事に尽きる。

 小さいところでは、神社のおみくじで大凶を引かせたり、靴のひもを切ったり、目の前を黒猫に横切らせたりすることから始める。誰にも入手させないために、野原中の四つ葉のクローバーを先に抜いてしまったりもする。

 もう少し大きいところだと、バイト先で給料を貰ったばかりの学生を秋葉原に拉致らちして全額DVDに注ぎ込ませたり、ミステリを読んでいる人の隣りで犯人の名を呟いてみたり。

 さらには、徹夜で卒業論文を書いている学生のパソコンをウィルスに感染させたり。新婚ホヤホヤで幸福感に浸りきっている妻に夫の愛人(しかも男)の存在を教えてやったり。

 とにかく、一人でも多くの他者を不幸にすることが私の仕事なのだ。そのためなら、私は手段を問うことはしない。日々熱意を持って、職務に励んでいる。

 そんな私に、ある日上司が言った。

「今月も、君は『不幸者獲得数』が月間ノルマに到達していないじゃないか。どうしてできないのかね」

 私は答えた。

「私がノルマを達成すると、あなたが幸せになるからです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る