capture04 資質-秘書の心構え-機密を守る

 ある日の、学校に向かう途中の電車内にて…


「それにしてもうちの会社、やっとアプリを更新することになったな!」


「ああ、あの今大人気のスマホ向け位置情報ゲームアプリか?」




「お姉!前の人たちって…」


「しっ!黙って聞いてみましょ…」




「しばらく更新していなかったからな…ユーザーからは更新を望む声があちらこちらから出ていたしな!」


「これで更新されれば、離れていたユーザーも戻ってくるだろうし、会社の業績もまたうなぎのぼりだな!」


「開発している俺たちの身にもなってもらいたいもんだけどな…」


「その分、給料たくさんもらってるじゃないか!」


「…それもそうか!!」


”間もなく~西九王子~西九王子です。お忘れ物なきよう、お降り下さい~次の停車駅は…”


”プシュー…ガラガラガラ…”


「おっ、もう着いたな!」


「さっ、降りようぜ!!」


”スタスタスタスタ…”


「私たちも降りましょう!!」


”パタパタパタパタ…”


「…お姉!さっき私たちの前に立っていたサラリーマン風の人たちの会話って…」


「ええ…間違いなく、あの人気アプリの話だったわね…」


「アプリを更新するって言ってたけど…」


「『業績がうなぎのぼり』『ユーザーが戻ってくる』なんてこと言ってたから、相当大掛かりなアップデートになるはずよ!!」


「私もダウンロードした直後は頻繁に起動していたけど…最近はご無沙汰だったっけ…」


「それにしても、あんな情報を公共の場で堂々とするなんて…案外、開発元の会社の情報セキュリティ体制もなってないわね…」


「…確かに…もし私たちがSNSで『◯◯社の社員と思しき人たちの会話』ってことで、さっき話した内容をUPなんかしたりしたら…」


「ええ…炎上することは間違いないだろうし、会社の業績が上がるアップデートということは株価も当然上がるはずだから、この情報を知った上で株の取引きがなされたりしたら、と言われても文句は言えないわね…」


「足達先生が、秘書の授業で『秘書から漏れた機密事項が全社に影響を与え、株価変動などの社会的影響を与えることもあるから、だ』って何回も言ってたけど…」


「機密事項って、さっきの人たちみたいに、秘書じゃなくても知ることがある訳だから、だよね!」



***



 真琴さんが足達先生から教授された通り、機密事項が秘書の口からもれてしまうと、それが全社に影響を及ぼし、さらには株価変動などの社会的影響を与えかねません。


 従って、美琴さんの指摘通り、機密事項の取り扱いは秘書という職業に限らず、一般社員についても、


 会社に関する機密事項には…


・人事異動や組織改編などの事前情報

・企画や開発、新製品などの情報

・合併や新会社設立の情報


などがあり、上司に関する機密事項には…


・家族情報

・持病や病気などの健康情報

・交友関係や私的行事に関する情報

・自宅や携帯の電話番号やメールアドレスなどの個人情報


などがあります。


 これらの情報を秘書は知りうる立場にあり、その運用には細心の注意が必要となります。



***



「だけど、人って秘密にしなきゃいけないこと程、人に話したくなったり、知りたくなったりするよね…」


「そうね。だからこそ、『強固な意志を持って機密を守る』ことが秘書には求められるって足達先生はおっしゃっていたわ」


「そうなると、秘書って仕事をする人って、上司以外の他の人とは、あまりおしゃべりしない方が良いってことになるのかな…」


「それは逆ね。秘書は上司と周囲のパイプ役になることが求められるから、周囲との積極的なコミュニケーションは必要になるわ」


「そうか…だから、になる訳か…」



***



 美琴さんの言う通り、人は秘密にしなければならないもの程、人に話したくなるものですし、逆に聞きたいものです。


 ですが、会社の機密事項は、上司やその秘書等、知っていて良い範囲というものがあります。


 それを守るためには『強固な意志』が必要となり、それに加えてとなります。


 例えば…


・周囲に『自分は機密を知る立場にない』ことを普段から示しておく

・離席時は、机上の書類を裏にするかしまっておく

・パソコン画面に機密事項を表示する際は、周囲を警戒する

・重要な文章はむき出しで持ち歩かない

・文書やデータは、必要な時以外は社外に持ち出さない

・社外持ち出しの際は、電車の網棚等に置かない


といったようなことが考えられます。



 また、『強固な意志』で機密を守るためには…


・他部署の地位の高い上役だから…

・世話になった前上司だから…

・口が堅いから…

・自分から聞いたと言わないなら…

・核心に触れない程度に…

・会社に無関係の友人、家族だから…


等といった、となります。


 偉い人のサポートをする人が秘書と言われるのは、昔からそういった仕事をする人は、密の文を取り扱うことが多いから、とも言われています。


 秘書に限らず、ということが、社会人全般に求められるのです。



***



「さ~て、どうやらあのアプリも近々更新されるらしいし、久しぶりに立ち上げてみようかな~」


「…ただ、あのアプリって、電池の消耗が凄く激しいんじゃなかったっけ!?」


「そうだった…」


「程々にしておきなさいよ…でないと、電源落ちて先輩と連絡取れなくなるわよ!?」


「…それは嫌だし、今日は携帯バッテリー持ってきてないから、遊ぶのは程々にしとくよ…」



capture05 に続く



~検定問題にチャレンジ!~



 人事部長秘書A子は、親しくしている営業部長秘書B子から『営業部長がR支店長になるといううわさを聞いたが本当か?』と尋ねられた。A子はこのことを少しは知っている。このような場合、A子はB子にどのように言うのが良いか。次の中から『』と思われるものを一つ選びなさい。

(第108回 秘書技能検定 3級問題より)



「1.少しは知っているが、すまないが教えることはできない」



「2.人事の書類を自分は見ることができないので分からない」



「3.気になるなら営業部長に直接確認すればよいのではないか」



「4.人事のことは発表まで秘密なので、B子であっても話せない」



「5.自分から教えることはできないので、他の人事部員に聞いてもらいたい」



 『』な選択肢は…

























「2.人事の書類を自分は見ることができないので分からない」



~解説~



「A子は人事部長秘書なので、他の人より先に知る機会があるからと尋ねられたのでしょう。しかし、人事のことは、正式発表前はどのような場合でも口外してはいけません。知っていても分からないと言うなどが適当ということになります」

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