chapter04 「労務費」って何!?

「せんぱ~い!お待たせ~」


「美琴~!こっちこっち!」


 ある晴れた日曜日。私は煉先輩とカフェでデートの待ち合わせをしていた。


「せんぱい!待った?」


「いや、俺も今来たところだよ」


 だがしかし、よく見ると先輩の目の前にあるコーヒーカップの中身は、全て飲み干されていた。


「いっ、いや、これは、その…ちょっと喉が渇いていたものだから…」


 相変わらず、先輩はウソがうまくない。


 きっと先輩のことだから、待ち合わせの30分前にはこのカフェに居たんだろうなぁ…


 私は、先輩の優しさに無言で甘えることにした。


「ご注文は!?」


 座ると同時に、店員が私に注文をとろうと話しかけてくる。


「そうだなぁ…それじゃ、チョコレートパフェを1つ!」


「かしこまりました。」


 注文をとり終わった店員が、店の奥へと消えていく。


「パフェだけでよかったのか?」


「ここのパフェ、割と大きいから!」


「それよりも、見て見て!!」


 給料明細を見せる私。


「…今回は随分と稼いだんだな…」


「友だちが骨折してバイトに出れなくなっちゃって…それで私がピンチヒッターで出たっていう訳なの!」


「なるほどな…ところで、この会社って、パン屋か何かか?」


「あれっ!?バイト先、教えていなかったっけ?先輩の言う通り、スーパーの中に入っているパン屋さんなんだ~」


「でも、給与明細を見ただけで、何でパン屋さんだって分かったの?」


「明細に「直接作業時間」「間接作業時間」「手待時間」って書いてあるだろ?これらの言葉は、通常「工業簿記」で使われる言葉だから、美琴が働いている会社が「製造業」だと言うのがわかる。そして、製造業で美琴ができる仕事と言えば、パン屋だろうなぁ、と思ったものだから…」


「さすが先輩!私のこと、よく分かってくれてるね!!」


「私が働いた時間を「直接」「間接」「手待」に細分化しているのは、私や他の従業員に支払ったして、、なんだよね!?」


「その通りだと思う。美琴の明細を見ると、直接作業時間に対する給料が多いから、美琴は会社では「直接工」として扱われている」


「確かに、骨折した友だちはバイト先のパン屋さんで実際にパンを製造する人材として使われてて、私もバイトに入っているときは、職人さんと一緒にパンの製造に携わっていたっけ…」


「そうか!だから、私がパンを作っている間の給料は、んだ!!」


「そういうこと。工業簿記では、従業員や工場の工員に支払った賃金や給料のことを「労務費」と呼んでいて、だ」


「そして、「労務費」は「」と「」の2つに細分化されるが、なんだ」


「ていうことは、かな?」


「そういうことになる。美琴がもらった給料のうち「間接作業時間給与」「手待時間給与」が「間接労務費」に該当する労務費だな」


「「」は、開店前に店の前を掃除している時間とか、繁忙時間になって販売員の手伝いをしていた時間とか、直接パンの製造に携わっていないけど、作業をしていた時間に対する給料のことで、手待時間給与は、パンも製造していないし、お客さんもいないから販売員の手伝いなんかもしていない、仕事ができるようになるまで待っていた時間に対して支払われる給料のことだよね…」


「これ以外に、間接労務費に該当する労務費ってあるのかな?」


「「間接工賃金」「従業員賞与手当」「法定福利費」「退職給付費用」「本社従業員や販売員に対する給料」などがあるな」


「なんだか、いっぱいだな…」


「「間接工賃金」は、修繕・運搬・清掃などののことだ。「従業員賞与手当」は、従業員に支給されるボーナス(賞与)や諸手当のことを指している」


「「法定福利費」は、を指していて、「退職給付費用」は退職金の支給に備えて設定された退のことを指す」


「こんなたくさんの人件費が、会社や工場ではかかっているんだ…」


「そうなんだ。だから、人件費は直接であれ間接であれ、製品の製造原価に加えておく必要があるんだよ」


「確かに…しね!」


「そういうことだ。だから、これから出てくるチョコレートパフェも、緻密な製造原価の計算があってだな…」


「お待たせ致しました!チョコレートパフェでございます!」


 私たちの前に、まるで山のようなチョコレートパフェが登場した。


「…それで、一人前なのか?」


「そうですよ~これで250円って、安いと思いません?」


「…明らかに原価割れしている…このカフェも、長くないかもな…」



chapter5 に続く

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