chapter06 「為替手形」って何!?※日商簿記検定3級・全経簿記検定3級出題範囲から削除
※このエピソードで語られている内容は、2016年度より日商簿記検定3級の出題範囲から、2017年度より全経簿記検定3級から削除されました。
尚、全国商業高等学校協会主催の簿記実務検定(全商簿記)では、2級に「自己受為替手形」と「荷為替」が出題範囲として残されています。
また、全国経理教育協会主催の簿記能力検定(全経簿記)では、2級に「自己受(宛)為替手形」「荷為替」が出題範囲として残されています。
「煉せんぱい!いますか~?」
ある日の放課後…
今日は部活が休みのため、私は煉先輩のホーム教室まで足を運んだ。
「お~い煉!かわいい後輩がお前のことを呼びに来たぞ~」
「えっ!何なに!煉君のカノジョ!?」
「…」
「俺にカノジョなんていないぞ!って、美琴か!?どうした?こんなところまで来て!」
「また、簿記のことで分からないことがあって…」
「そうか…りょーかい!若林先生に、パソコン室の鍵を開けてもらって、そこで待っていてくれ!ここじゃ、余計な横槍が入りそうだからな!」
「おいおい!余計な横槍ってなんだよ!」
「わかりました!パソコン室で待ってますね!」
私は職員室にいる若林先生を訪ね鍵をお借りすると、パソコン室へと向かった。
「待たせたな美琴!」
「いいえ!私もついさっき鍵を開けたばかりです!」
「美琴ちゃん!いる?って、部長さん!お疲れ様です」
「紗代!どうしたの?」
「今日一緒に帰る約束してたじゃない!」
「もうそんな時間なんだ!ごめんごめん。ちょっと煉先輩に聞きたいことがあって、パソコン室を先生に開けてもらったんだ。ねぇ紗代、先輩に聞きたいことを聞いてからじゃだめ?」
「私は構わないけど…聞きたいことって、昨日の簿記の授業で、美琴ちゃんが頭を抱えていた、あれのこと?」
「あれって、何のことだい?」
「この前、簿記の授業で「
「なるほど…まず、為替手形の前に、約束手形だが…」
「はい!約束手形は、自分が振り出して相手に渡した時は「支払手形」という負債が増加して、受け取った時は「受取手形」が増えます!」
「その通り。約束手形は、振出人、つまりは手形の支払人と、受取人の2人が登場するよな。約束手形の場合、振出人と支払人は同じ人になっているけど、これを別々の人にしたのが「為替手形」なんだ!」
「確かに、授業でも為替手形には登場人物が3人いました!」
「例えば、俺が美琴から1,000円を借りていたとして、紗代には1,000円貸していたとする。美琴から1,000円返すよう催促されたが俺の財布の中には10円しか入っていなくて返せない。美琴が同じ状況だったら、どうやってお金を返そうとする?」
「紗代に貸している1,000円を返してもらって、私にその1,000円を返す、かな…」
「まぁ、普通ならそうするよな。でも、俺が紗代にこう言ったらどうだろうか?「美琴から1,000円返すよう言われているから、紗代は俺に返さず、美琴に1,000円渡してくれ」」
「なるほど!紗代から私に1,000円が渡るのか。これなら、私は先輩から1,000円返してもらったことになって、紗代は先輩に1,000円返したことになる。先輩は何もしないでお金を回収して返したことになる。頭いいですね!」
「このやり取りを可能にするのが「為替手形」なんだよ。さっきの例で考えると、沢継商店は嶋尻商店に買掛金があって、三枝商店には売掛金がある。嶋尻商店に買掛金を支払うため、三枝商店に為替手形の支払人になってもらった為替手形を振り出して嶋尻商店に渡す。嶋尻商店の買掛金がなくなり、三枝商店には手形の支払人になってもらったから、売掛金をなくす…という訳だ」
「沢継商店は、買掛金という負債と売掛金という資産がそれぞれ減少したから
(借方(左側))買掛金
/
(貸方(右側))売掛金
という仕訳になる。」
「三枝商店は、手形の支払人になったから、支払手形という負債が増加して、沢継商店への買掛金が減少するから
(借方(左側))買掛金
/
(貸方(右側))支払手形
という仕訳になる」
「簿記では、為替手形の支払人は「引受人」とも言って、問題でも「為替手形を引き受けた」という言葉が出てくるから注意しておくといいな!」
「はいっ!そして、私のお店は、先輩への売掛金を為替手形で回収したことになるから、受取手形という資産が増加して、売掛金という資産が減少するから
(借方(左側))受取手形
/
(貸方(右側))売掛金
という仕訳になる」
「2人とも大正解!ただ、現実問題として、為替手形はそのほとんどが今の例のように使われることはないらしいんだ!」
「まあ、確かに便利だし頭のいい使い方だと思いますけど、引受人が「いいよ」って言ってくれないと、振出人は為替手形を振り出せないですもんね!」
「今のように、電車や車といった移動手段が発達していなかった江戸時代には、現金を郵送する危険性を排除するために、為替手形を使った代金決済が行われていたらしい。時代劇で有名な水戸黄門も、路銀を受け取る手段として、為替手形を使用していたらしいぞ!」
「確かに、大判小判を運ぶのは大変でしょうし、唯一の郵送手段は「飛脚」でしたもんね…黄門様も使っていたのかぁ…」
「先輩!今は為替手形がほとんど使われていないのに、何で制度自体は存在しているんでしょうか?」
「今、社会で為替手形は「自己受為替手形」という形で使用されることが多いらしい」
「自己受為替手形?」
「???」
「2人が知らないのも無理はない。自己受為替手形は、各検定の上位級で出てくる内容だからな…「自己受為替手形」は、漢字の通りで「自分で振り出して自分で受け取る為替手形」のことなんだ」
「「自分で書いて自分で受け取る」そんなことが可能なんですか?」
「ああ。例えば、なかなか売掛金を払ってくれない相手から売掛金を回収したい時なんかに使うんだ。「お金は振り込まなくていいから、○月×日支払日の為替手形の引受人になってくれ」って連絡するんだ。で、その手形を自分でもらってしまう、という訳さ」
「なるほど!その場合は、振出人だけれども、手形を受け取っているから…
(借方(左側))受取手形
/
(貸方(右側))売掛金
という仕訳になるんですね!」
「ご名答!あとは、自分の会社の別の支店に為替手形の引受人になってもらう「自己宛為替手形」っていうのもある」
「別の支店といっても、会社の外から見れば同じ会社のことだから、結局は支払手形という負債が増加することになる…約束手形を振り出したのと同じように処理すればいいんですね!」
「なるほどね!そんな使い方ができるなら、為替手形って制度は残しておく必要がありそうですね!」
「そういうことさ。手形についてまとめると…
○○手形を受け取った
→ 受取手形(資産)の増加
約束手形を振り出した&為替手形を引き受けた
→ 支払手形(負債)の増加
為替手形を振り出した
→ 売掛金 の減少
最低この3つを覚えておけば、手形の仕訳はバッチリさ!」
「そうそう。手形は最終的に「当座預金」から決済されるから、「支払日が到来し」とか「満期を迎え」なんて言葉が出てきたら、手形をなくして当座預金を増減させることも忘れずにな!」
「手形は「小切手」の支払日有バージョンですもんね!先輩!よく分かりました。ありがとうございます」
「よかったね!美琴ちゃん!!これで、明日の簿記の小テストの追試はばっちりだね!」
「えっ!追試!?」
「いやいや!先輩何でもないんです!!さぁ、紗代!早く帰りましょう!買い物に間に合わなくなる!先輩!また明日です!」
「ちょっと美琴ちゃん!まってよぉ~」
「…」
…
Chapter 7 に続く
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