第493話

 その一撃は、ラントの想定を超えた重さを持っていた。

 今までの中でも接近の速度があるのは、体感と判断によって解っていた。それによって、おおよその威力も判断していたはずだった。

 大我の力はよくわかっている。自分と同じように鍛錬を積んでいた以上、今までに見てきたそれよりも上のパワーを考えていた。

 だが彼は、そのひとつ上の段階へと到達していた。ラントの身体は思わず後方へと吹っ飛びそうになったが、右足を後ろに下げて全力で踏ん張り、押し出されるのを耐えた。


(この威力……! まだこんな力隠してやがったのか……?)


 こんなにも一気に力が跳ね上がるわけがない。何か特別な何かがなければ起こるわけがない。

 それが起きたのが、出会ったばかりの大我だったが、今はそんな事情はどこにもないはず。

 何かカラクリがあるはずだと。ラントは全身の出力を上げて力を拮抗させながら、戦士の目で睨みつけ押し続ける大我の姿をなんとか観察し始めた。


(そういうことか……!)


 そして、その仕掛けは、まずは音、そこから視界を介してすぐに解った。大我は今、移動中だけでなく、足元で何度も爆発を起こして推進力を作っていたのだ。

 一撃の威力が上がったのも、足元の爆発を接触の直前に大きくしたか、それとも連続で起こして速度を乗せたか。ともかく、彼は己の技の使い方を少しだけ新たに組み立てて、変則的な瞬間的強化を作り出したのだ。

 こうして力の押し合いをしている間にも、大我は指輪を輝かせながら、何度も足元を爆破させている。

 自分の力に相乗させて、地面に大きな穴が空くほどに何度も何度も、まるで彼の意地がそのまま現象になったかのような爆発を重ねた。

 並の相手ならば、もう既にぶっ飛ばされている頃だろう。だが、ラントは致命的な油断もせず、着実に己の攻める時を待ち続けていた。


「ぬぐぐ…………うおおおらぁぁぁ!!!」


「うおわっ!?」


 そして、ラントの中で時が来たと確信した。必要としていた長時詠唱の段階を超えたと認識したのだ。

 さらに、大我は力の押し合いに全力を注いでいる。これは最大のチャンスだと、ラントは力を入れたまま足と身体を少しずつ下に方向を向け、力の流れを傾けていく。

 直後、一気に両手の力を抜いて、身体をするっと下へスライドさせた。

 大我の力は一瞬にして行き場を失い、前のめりに倒れてバランスを失った。

 真下に潜り込み、大我の身体に蹴りを加えつつ、相殺させ続けていた推進力を敢えて乗せながら、巴投げの形で放り投げた。

 一気に空中へ放り投げられた大我の身体は、思わずバランスを失い慌てふためくが、すぐに気持ちを建て直して体勢を変え、すぐに地面に着くと同時に受身を取って事なきを得た。


「ふう……柔道の授業受けててよかったぜ」


 最終的に受け流されはしたものの、それでも攻め手に回ることはできた。大した傷はもらわず、再度体勢を立て直せたのもあり、流れは傾きつつある。

 と考えるのと同時に、大我の脳裏にはもうすぐ来るだろうという覚悟が決まっていた。長時詠唱による強力な魔法が来るだろうという時を。


「…………今のはやられたぜ、大我この野郎が」


 既に立ち上がり右手に握り拳を作っていたラント。

 速攻にしてやられたという悔しさから口の悪さが出るが、これも彼を一人の相手として認めたからこそ素直な気持ちだった。

 ラントは、右拳に長時詠唱で練り上げた魔力を込めて、拳の先を地面へと向けた。

 大我は、視線や感覚の意識を、ラントと地面、それぞれに散らして心を構えた。

 

「だがな、この先の全てをどうにかできるんなら、やってみやがれ!!」

 

 ラントは、思いっきり右の拳を、深く陥没させ地核を叩かんばかりの勢いで地面に叩き込んだ。


「『グランドシンパスッッ!!!』」

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