第457話
少しの時間が経ち、落ち着きを取り戻したノワール。
その表情からは、まるで憑き物が落ちたように、染み付いた憤怒と憎悪の感情の多くが抜けていた。
そして大我は、話したいことは全て終わったと立ち上がり、背中を向けた。
「俺の用事は終わりだ。話したかったことは全部話した」
「…………大我」
搾り出すように出てきた、名前を呼ぶ声に、大我はもう一度振り向いた。
「────ありがとう。私は……もう感謝してもしきれない。このまま破壊されてもいいと思えるくらいだ」
「お礼は受け取るよ。けど、罪を償ってもらう分、まだまだ破壊はさせない。それがせめてもの報いだ」
大我は、己の気持ちとやるべきことを区切りつつ、感謝の言葉をしっかりと胸に受け止めた。
幾多の事象の元凶だとしても、心からの感謝を無碍にすることはできない。そんなことをすれば、どこか自分の気持ちが許せない。
全てを終えて、二人と一匹が待っている場所に戻る為に出入り口の目の前に来た直後、大我は最後に、もう一度だけ振り向いた。
「……出来る限り、たまにお前のとこに行くよ。また、話をしよう」
「…………ありがとう、大我」
大我の奥底にある、後ろ暗い気持ち。それは、この世界の異物であり、似たような気持ちを抱いたノワールとでしか共有できないもの。
だけども、そんなこの世界でたった一人の相手には、憎悪を滾らせるだけで終わってほしくない。
だからこそ、またいつか話したい。今度は殺し合いを介さず、真正面から一対一の相手として。
その意思を示した後、大我はここから去っていった。
そして、たった一人になったノワールは、ずるっと床に仰向けになり、ぽつりと呟いた。
「……………………完敗だ」
* * *
話を終え、元の中心部へと戻ってきた大我。
そこで待っていたのは、一匹だけで留守番をしていたエルフィだった。
「お待たせ、エルフィ。二人は?」
「ぶっ壊された脚の修理だよ。もうそろそろ戻ってくるんじゃねえかな。んで、大丈夫だったのか? お前の方は」
「ま、見ての通りだよ。話もつけてきたしな。その上で、少しアリアとも話をしなきゃなんないけど」
「まあとにかく、何事もなくて良かったよ。んで、何話すつもりなんだ?」
「それは…………おっ」
今から話そうと思っていたことを口にしようとした直後、中心部から離れたティアとアリアがちょうど良い所で戻ってきた。
ティアの脚はしっかりと修復されており、傷ついた服も見事に直され元通りの状態になっていた。
「大我ーー!!」
ティアはとても嬉しそうに走り出し、思いっきり大我に抱きついた。
彼女の顔には、色んな感情がこもった笑みがあった。
「よかった……直ったんだな。思ったよりすごい早かったけど」
「うん。私も驚いた……たまに世界樹で直してもらうんだけど、こんなに早かったのは初めて」
「約束通り、脚は直しておきましたよ。大我、話はついたのですか?」
戻ってからアリアは、すぐにエルフィと殆ど同じ言葉で質問を投げかけた。
「……まあな。それで、俺からお願いがあるんだ。あいつを……ノワールのこと、破壊せず罪を償わせてやってくれないか」
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