第426話 共に在る未来 25

 止めたエヴァンが出した提案。それは、仲間達に今この場を任せて、その内に本丸であるアリア=ノワールを攻めるべきだというものだった。


「今、こちらの戦力は十二分に足りている。心強い加勢もたくさん来てくれた。これは、こちらに取っても思ってもみない幸運だよ」


 ルイーズやメアリー、サカノ村のゴブリン達と、かつて大我が出会った者達の予期せぬ加勢が、確実に追い風となっている。

 その一方で、アリア=ノワール側からの戦力がどこまで残っているのかわからないのもまた事実だった

 しかし、実力の面では既に事足りている。

 大我が新たに加わることで過剰戦力になり、何より本丸を攻める際に最も必要になるであろう人物の体力が、復活したばかりなのにさらに削れてしまっては、勝利の可能性が減ってしまう。

 ならば、今仲間達が抑えている間に突入するのが懸命だろうと判断したのだった。


「大我さん、本当に治ってよかったです。エヴァンの意見には私も賛成です。それに、ユグドラシル内に入ると、ノワールの力はさらに強くなります。いってしまえば、私自身の力の影響がより大きくなります。ハッキングへの耐性は避難所でも付与できましたが、中へ入ればそれだけでは足りません」


「だから、俺達だけで突っ込むってことか」


「はい。私とエルフィには、自由に稼働できるようにプロテクトが予め施してありますりなので、大我さんとエルフィ、そして私で戦いに赴くことになります」


「僕でも厳しそうだからね。悔しいが、中では力になれそうもない」


 三人で挑む最終決戦がこの先待ち受ける。

 だが、大我の不安は未だに拭えなかった。

 本当にこの三人だけで戦えるのか。ノワールが何も準備していないとは到底思えない。

 まだ身体の重さや違和感は残っている。一人でどれだけ勝負ができるか。

 戦いへ向かう覚悟と共に、比例して不安が膨れ上がったその時、そんな空気を一人の声が割いた。


「────私も、一緒に行かせてください」


 ティアだった。

 彼女は心の底から、大我の力になりたいと名乗り出た。


「……しかし、私達以外が入れば、ノワールの影響を受けるのは間違いないでしょう。それに……」


「……いや、待ってくださいアリア様」


 エルフィは何かを思いついたようにティアに近づき、改めて彼女の頭に触れて電子頭脳内を閲覧した。

 そして、予想通りといったような顔で、アリアの方を向いた。


「ティアには、おそらくノワールが与えたであろうプロテクトがインストールされてました。これを多少弄れば、たぶん俺達と同じように中でも自由に動けるようになります」


「それじゃ……!」


 ティアは喜んだ。今度は刃を向けるんじゃない。ようやく力になれるかもしれないんだと。

 ノワールがインストールした剣術は、未だ彼女の中に残っている。戦いの術は彼女に残っている。

 だからこそ、自分を利用した相手への許せない想いも含めて、戦いたいと決断したのだった。

 だが、大我達はどこか、それぞれに浮かない顔をしていた。


「どうしたんです……?」


「……ティア、かなり言いにくいんだけど……あの中に入ればその……色々と、知ることになる。世界樹の中身がどうなってるのかとか。知りたくなかったようなことも知ってしまうかもしれない。それでも…………一緒に戦うか?」


 大我は彼女の肩を持って、説得ではなく忠告として口にした。

 ティアはそれを、優しく肩から手を退けつつ、優しくも覚悟を決めた眼で言葉をぶつけた。


「そんなの、関係ない。私はノワールが許せないから戦います。大丈夫、どんな秘密があったとしても、私にとっての世界が変わるわけじゃないから」


 ティアは最後にはにかんで見せた。

 それは彼女の心の底からの感情表現でもあったようだが、同時に未知なる戦いへの自分でも感じたことのない感情を抑えているようにも見えた。

 ティアの覚悟を耳にした大我は、その確固たる意志を無為にはできない。

 そして内心、一緒に戦うと言ってくれた時、大我は嬉しかったのだ。心の大きな支えが、また一つ強固になった気分だった。

 共に在るというなら、ノワールを倒す為に一緒に戦おう。

 大我は、その意気を受け止めた。


「わかった。一緒に行こう」


「……よしわかった! んじゃあちょっと待ってろよ。すぐに準備終わらせっから!!」


 エルフィも彼女の言葉を受け入れ、早速プロテクトのアップデートに取り組んだ。

 アリアは今でも複雑な気持ちだったが、この事態に、世界の秘密を隠すかどうかを気にしている余裕はない。そう判断した。

 



 そして、アップデートが終わり、それぞれの準備が整った。

 周囲で斬撃、爆発、雷撃、打撃、轟音が絶え間なく続う戦乱の空間。

 大我、ティア、エルフィ、アリア。それぞれが見据えるのは世界樹への入口。

 彼らが間もなく決行しようとする進撃を、エヴァンによって先の攻勢を伝えられた、戦いの中にいる仲間達が声を出して応援をぶつけた。


「大我ァ!! 負けたら承知しねえからな! 俺に負ける前にやられんじゃねえぞ!!」


「ティア!! 絶対に無理すんなよ!! あたしが祈ってるから、任せる分勝ってこいよな!!」


「小僧共!! この世界を任せたぞ!!」


「神殺しを挑むか。其の意気や良し」


「大我さん!! ガンバレ!!」


「本当ならば我々が負うべきだが……皆の未来、任せたぞ」


 皆の声が力になる。これが本当の決戦となる。

 一緒に戦ってくれた仲間達がここまで導いてくれた。それを絶対に無駄にはしない。

 全ては、アルフヘイムを、世界を取り戻す為。


「よし…………いくぞみんな!! ノワールをぶっ倒してやる!!」


「うん!」


「おうよ!!」


「必ず取り戻します!」


 こうして、それぞれに深い傷を負った勇者達は、共に在る未来を目指し、最後の戦いへと足を踏み出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る