第425話 共に在る未来 24
「…………ただいま、みんな。心配かけた」
細胞との死闘を経て完全に枯渇しきっていた大我の身体。
それを、アリアが与えた肉体強化、さらに副作用として生まれた食物の吸収力が、彼を劇的に回復させたのだった。
「よかった……よかったぁ……うわああああああ…………」
ティアは、ここにいる者の中で最も彼の復活を喜び、涙を流した。
同時に、彼への贖罪の念が強く心を蝕んでいた。
ゆっくりと、大我の方へと走り出し、彼を声を上げて泣きながら抱きしめた。
これだけ胸が苦しかったことが今まであったろうか。
そして、嬉しかったことがあっただろうか。
どれだけ身勝手だとしても、大我が生きていてくれた。それがひび割れそうな心の傷を直したのだ。
「ごめんなさい……本当にごめんなさい……私の、私のせいで……こんなことに……あぁ…………」
「別に気にしてないって、ティアのせいじゃない。けど、あの世はちょっと見えかけたな」
大我は軽く笑いかけながら、優しく、ティアの背中を叩いた。
何も起こっていないし気にしてもいない。かなり痛かったが、自分の意志じゃないことは彼がよくわかっている。
これ以上、自分を責めないでほしい。その意志も込めて、心の底からの言葉を向けた。
「……だからさ、もう大丈夫だ」
「うう……ぁぁぁ…………」
彼の底無しの優しさが、沁みるように痛くもあり、それ以上に温かい。
ティアはしばらく、大我の側で泣いていたかった。
そして、彼の相棒であるエルフィも、大声を上げて喜びたい衝動を抑えながら疑問をぶつける。
「大我、本当に……もうなんともないのか……?」
「……実を言うと、まだ身体が重い。けど、さっきのやべーくらい苦しかった時に比べりゃ何億倍もマシだ」
「あの世見えたって言ってたけど、それって……」
「あの後さ、光が見えたんだ。どこなのかもわからない場所でさ。そしたらその先に色んな人がいた。俺の友達、先生、近所の人……両親も。そこに行ったら、幸せになれんのかな、死んだ皆とまた一緒に過ごせんのかなって、一瞬そう思った」
話す大我の顔は、少しだけ寂しげだった。
だが、そこに後悔の色は全く見えなかった。
「でも、俺の腕を誰かが掴んでくれたんだ。とてもあったかい手だった……そこで思い出した。俺にはまだやらなきゃいけないことがある。このまま投げ捨てて死ねるわけが無いってさ」
「……それで、こっちを選んでくれたのか」
「ああ。母さんも親父も、俺を送り出してくれたよ。なら、両親に恥ずかしい姿なんて見せられないもんな」
それを聞いたエルフィは、崩れそうな表情を我慢しながら涙ぐんだ。
ほんとうにおまえは……おまえってやつは……。
どんな言葉をぶつければいいのか、最高の言葉が全く見つからない。
しかしその中でたった一つ、絶対にこれだけは言うべきという言葉だけはあった。
「うう……ありがとよ……大我…………本当に……俺……お前の相棒でよかったよ…………!」
ありがとう。
エルフィにはもうそれしか言えなかった。目の前の人を、友達を、親しい人を放っておけない最高のお人好し。
そんなやつの側にいられて本当によかった。エルフィは心の底からそう思った。
「それと……お前が治してくれたんだろ、ラクシヴ。ありがとう。まさか心臓やられても生きてるなんてことがあるとはな……けど、大丈夫か?」
命の大恩人でもあるラクシヴにも、今のうちにお礼を伝える大我。
しかし彼女は今、極度の緊張を続け、気力を全て使い果たした結果、人型から大きく緩んでスライムのように崩れていた。
「んえーーー……だーじょうぶぅ……ぼきゅのことは、まっときゃなおるからぁ……わたいのこおはきにしなーで……」
今まで以上に不安定で、ぐでぐでな口調になっているラクシヴ。
それでも彼女の自我が保たれているのは、ラクシヴだからこそ。
皆の存在で自分は助けられた。周囲で数え切れない程の敵と戦う、駆けつけてくれた皆の奮闘と、どんどん増えていく残骸は、死に近づいてからの時間の経過を強く示していた。
「……よし! 俺も戦うぞ!! このままボーっと見てるだけじゃ情けねえ!!」
大我は右拳を左の掌にぶつけて気合を入れた。
その闘志に一番驚いたのはティアだった。
「ま、待って大我! まだ身体は……」
ティアは、彼が全快というにはまだ遠いことを肌に感じていた。
彼女がなんとかかき集めてきた食料と水分でも、完全に回復するまでには至っていない。
本当に戦い続けられるのか、心配になっていた。
「大丈夫だ。戦えるときに戦わなきゃ絶対に後悔する。こんなど真ん中で、ただ見てるだけなんてそれこそできねえよ!」
大我は当然、止まる気はない。そしてそれは、ティアも薄々気づいていた。
彼はそういう人。みんなの為に身を粉にして戦える人。
だから、自分が言った程度で簡単には止まらない。
そう思った上での気遣い。やはり無駄だとわかっていても、言わざるを得なかった。
「やっぱりそういいますよね、大我は」
「……まあな。ティア、手伝ってくれるか」
「もちろん。私も、前よりもっと戦えるようになりましたから」
「よし、んじゃあ……」
「待ってくれ、大我君」
戦いに加勢しようとした大我を止める声がした。
その主は、エヴァンと、そしてアリアだった。
「大我君。君はここでの戦いに赴くよりも、一刻も早く、世界樹の中へ向かってほしい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます