第423話 共に在る未来 22

 あちこちで鳴り止まない破壊と衝突の音。雨の如く散らばっていく金属の残骸。

 実力差自体は圧倒的。だが、いつ終わりが来るのかもわからない物量の波が、絶えず押し寄せ続ける。

 潰されることはない。だが、終わりも未だ見えない。

 ある程度の戦闘能力を保証された機械人形と、現世界では規格外の行動を取る兵器が、休む暇も与えず攻撃を続ける。

 仲間達の奮闘に助けられ、被害を被らずにいる大我。

 彼もまた、苦しみがいつ終わるのかもわからないまま激痛に叫び続ける。

 そんな彼の左手を握るティア。手の力が伝わる度、彼女の握る手も強くなっていく。

 自分が刺しておいて、都合のいいと思ってしまう。自責の念が、どれだけ考えても湧き出してしまう。

 だがそれよりも、今は大我が峠を超えることを祈っていた。


「っ……………」


 苦しみのたうち、握られた大我の左手の握力が強まり、ティアの手に響くような痛みが伝わってくる。

 ティアはそれに対して決して手を離すことはなく、ぎゅっと力強く、そして優しく握り続けた。

 少しだけ、あまりの痛みに顔が歪みそうになったが、大我はこれ以上に苦しんでるんだと、痛みを受け止め唇を噛み締めた。


「大我……頑張れ……絶対に死ぬんじゃねえぞ……!」


 エルフィも同じように、大我の側を絶対に離れないようにしてくっついていた。

 ずっと一緒にいた、そして彼の相棒の一部も授かっている自分が側にいてあげられなくてどうする。信じ続けられなくてどうする。

 多く言葉にすることはない。一人と一匹は、愚直に、全霊の願いをこめて願い続けた。

 しかしその最中、自動兵器のうち一体の砲口が、エルフィとティアの方へと向けられる。

 二人の意識は大我に集中している。その攻撃の気配に気づく様子はない。

 そして放たれようとするレーザー。それを防いだのは、気づいた瞬間に右足で思いっきり地面を踏み抜き、壁を作って防御したラントだった。

 防いだ直後、アリシアがその一体の砲門と、わずかに開いた機構の隙間に矢を放ち、爆散させた。


「気をつけろよお前ら!! せっかく直りかけてんのに、吹っ飛んだら意味ねえんだからな!!」


「ここはあたし達に任せて、しっかりついててあげなよ!!」


 友達の気遣いがティアの胸を打つ。今にも泣いてしまいそうになる。

 その気持ちが彼女の手に移り、大我を想う気持ちへと変換されていく。

 大切な友達との絆が、より思いやりの心を温かく、強くしていく。

 そしてそれは、確実に、苦しみ続ける大我へと届いていた。




 大我の傷が塞がり、苦痛に叫び始めてからどれ程経っただろうか。

 まるで何時間と経過したかのような感覚。見守る自分達でさえこう感じているのだから、大我にはどれだけ長い時のように感じられたのか。

 ティアとエルフィは、片時も離れず、彼を支え続けた。

 そして、その時は訪れた。

 全身の肉が千切れんばかりに暴れていた大我の身体が、ついに落ち着きを取り戻し、地面にぐったりと倒れたのだ。


「大我!? 大丈夫!?」


 一気に力を失い、地面に沈んだ姿に慌てた声が漏れ出したティア。

 少なくとも心ではいない。彼の呼吸はか細いながらも、ゆっくりと肩と胸が動いていた。

 そして、絞り出すような声で、大我は小さくつぶやいた。


「……………ず…………」


「どうした大我……」


「み……ずが…………のみたい…………うう…………」

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