第402話 共に在る未来 1

 攻撃を外し、地面にぶつかった剣がゆっくりと持ち上げられる。

 そして、改めて大我の方を向くと、その剣の切先を突き立て、真っ直ぐな瞳で口を開いた。


「外した……だけど、次は外さない」


 空耳などではない。明確なる敵対宣言。

 それを見たエルフィは、現状最も考えたくなる可能性を捨てることができなかった。


「あれもまた偽物なんじゃねえのか……? 第一、ティアがあんなに剣を振るって……」


 エルフィの予想は至極当然なものだった。

 ここまでたどり着く過程で、数え切れない程の量産されたティア達を見てきた。

 そしてそれをひたすら破壊し立ち向かってきた。

 このような事態になる前に、偽物は本物のように一個体の如く振る舞うことが出来るのも確認している。

 ティアとずっと一緒にいて築き上げてきた信頼が、その結論を導き出させた。

 だが、大我の体感は違っていた。


「──違う。俺も最初はそう思ったけど、ああいつは……本物だ」


 目の前にいるティアは、耳飾りが片方つけられていない。

 しかしこの判断方法は、時間の経過したならば意味を成さないだろう。引くだけならば簡単にできる。

 大我はそれとは別に、ずっと一緒にいたが故に覚える直感的な感覚と、その瞳に宿る意志の強さが、彼女が本物であると感じさせた。

 だがそれ以上に分からないのは、本物ならばなぜ敵対しているのかということ。

 その疑問の先に連なる答えには、一切の優しさは存在していない。


「ようやく……ようやく私は戦う力を、みんなと一緒に並べる力を得られた。だから……私がここで食い止めてみせる!!」


 ティアは決意を胸に、より強く剣を握る。

 そして、迷う気配も見せず大我目掛けて走り出し、思いっきり刃を振り下ろした。


「くっ!?」


 大我は、持ち前の反射神経でそれを見切り、無傷で交わしてみせた。

 しかし、その斬撃の圧は、大我の予想を超えるものだった。


(速い!? ティアの攻撃とは到底思えない!!)


 その振りは、まるで剣を学び続けた者のような鋭さがあった。

 大我の耳には、彼女が武器の訓練を密かにしていたなどという情報は全く入ってきていない。

 仮に誰にもバレずに特訓していたとしても、この技量は異常すぎる。

 そしてなにより、どうしても引っかかって仕方がなかった、つい先程の言動。

 一体この現状はどういうことなのか。考えようとするが、ティアの絶え間ない斬撃が思考の時間を与えなかった。


「はあああああっ!!!」


「ぐっ……落ち着け……よく考えろ……!」


「何がどうなってんだよもう!」


 エルフィもこの現状に混乱し、一体全体どうすればいいのかわからなくなっていた。

 偽物だというのなら、迷わず吹き飛ばすことができたのに。

 頭を抱えてもどかしさから声を出した後、エルフィは両手を掲げて風の塊を作り出した。


「悪い、少し我慢して……」


「やめろエルフィ!! 手を出すな!!」


 ティアに風魔法を放つ準備をし始めたエルフィに、大我が血相を変えて叫びその手を止めた。

 その言葉に籠もった気迫に、エルフィの手は思わず止まった。


「そこです!!!」


 刹那、ティアの横斬りが今にも刃が届きそうな位置まで迫っていた。


「────っ!!!」


 大我は舌打ちをする余裕もなく、咄嗟に足元にマナを込めて爆発。

 微妙に身体を後方に傾けつつ右足に力を入れて、一瞬で距離を離した。

 ティアの刃は間一髪、わずかに右腕を掠める程度に収めることができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る