第399話 分岐点③

 強大なる敵の襲来に次々と足を止め、先へ進む度に共に走る仲間が減っていく大我達。

 アリシア、ラント、ラクシヴ、エヴァンの4人と共に、崩れた街なかをひたすら走り抜け、少しでも早く世界樹ユグドラシルへ到達する為に奔走していた。

 疲れている暇などない。各所から響く戦いの轟音の中、駆ける足は止まらない。


「ティア……無事でいてくれるといいけど……」


 ふと大我がぼそっと呟く。

 信じて先へ進んだとしても、それでもどうしても湧き上がる心配そのものは尽きない。

 死を目の前にした戦いを潜り抜けたとしても、彼はまだ元一般人なのだから。


「きっと大丈夫だよ。あいつは度胸もあるし、やる時はやるからさ」


 そこに、アリシアが不安を解すように今出せるだけの答えを出した。

 まるで自分に言い聞かせるような言葉でもあったが、大我にはそれが心の支えの一つとして機能した。


「大我もそう思うだろ? こんだけ偽物が溢れてても、本物はきっと無事だ」


「……そうだな。ありがとな」


 ティアが今どこにいるのか、手がかりはどこにもない。

 見つかる気配も現時点では無いが、闇雲に街中を走り回っても今はただ体力と時間を浪費するだけでしかない。

 少なくともそれも含めて、世界樹にたどり着ければ何かあるはず。

 大我は強く足を踏み締め、障害物溢れる街道を仲間と共に走り抜けていった。

 

「もうすぐだ!」


 エルフィの声が四人の耳に刺さる。

 日常の中で途方も無い程の雄大さの象徴だった世界樹が、この瞬間だけはとても威圧的なシンボルのように感じる。

 もう間もなく到達が視野に入る距離までたどり着き、よりその足が早くなった。

 だがそんな中で、エヴァンは一人現状を不審に感じていた。


(……妙だ。ここまできて応戦の気配がなさ過ぎる。戦力切れは……考えにくいかな。間もなく王の首に近づかれようっていうのに、いくらなんでも手薄だ)


 戦闘の気配が常に止まなかったアルフヘイム内で、しばらくの間訪れていた不自然な程に順調な進行具合。

 こんなにも順調なのは逆におかしいと、エヴァンは張り巡らせた警戒と勘から、そう思わざるを得なかった。


(……これは、備えたほうがよさそうだ)

 

 エヴァンは何も言わず、走りながらナイフの柄に手を置いた。

 その様子を見たラントは、やはりこれから何か良からぬ事が起こるのだろうかと、自身もどこか雰囲気として感じていた違和感に確信を持ち、同様に何が起きてもいいように両手に魔力を込めた。

 そして、二人の予測はまさしく的中した。

 先頭を走る大我達の足元に、足止めの如く突如風の弾が放たれた。


「うわっ!?」


「やっぱ隠れてやがったのか」


 もう少しで辿り着けそうだった、というところで現れた無数の量産型。

 しかし、表に出てきている中には、攻撃動作に入っている者はいない。

 とっさに射線上を確認すると、もぬけの殻となった建物の二階の窓から、一瞬だけ引っ込む手を見つけた。

 

「あたし達、面倒な所に入ったっぽいな」


 アリシアはその中に矢尻を紅く光らせた矢を放ち、爆裂させた。

 窓の向こうに吹き飛ぶ目玉を目視し、ひとまず倒しただろうと確信したが、この状況はそれだけでは終わらない。

 隠れる場所がある。待ち伏せからの不意打ち。これが意味するのは、のこのことやってきた獲物達を仕留める準備が整っているということである。

 量産型の相手自体は、大我達にとってはもはやたいした問題にもならない。

 そこに、まだどれだけいるのかもわからない事実や、地形や状況を利用した不利な環境闘法が加われば、話は変わってくる。

 不確定要素によって、戦況はいくらでも変化する。

 大我達は臨戦態勢に入り、応戦しようとした。


「────!!」


 だがその時、何かに気づいたエヴァンが大我へと口を開いた。


「次から次へと……!」


「大我君、エルフィ、君達は先に行ってくれ」

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