第400話 分岐点 ③ 2
その提案に、大我は目を丸くした。
エヴァンはその反応を承知で、次に理由を簡潔に説明した。
「世界樹までの距離は残りわずか。おそらく、各所に防衛の要を敷いているのは間違いない……が、ここまで来てこれくらいの相手を寄越すのなら、僕達との戦いで戦力は大きく削がれてると思ったほうがいいだろう」
まるで隠れ住まうモンスターが次々と顔を出すように数を増やしていく量産型。
エヴァンの話は、ピリピリと張り詰めるラントとアリシアも耳を傾けていた。
「ならば、各所で乱戦の起きている今こそ、一人でも世界樹に辿り着き決着をつけたほうがいい。下手すれば、戦力を集結させられるという事態にもなりかねない。そうすれば、もうどうにもならないだろう……だから、大我君。君が行ってほしい」
「それなら、俺よりも強いエヴァンさんも……」
エヴァンは、黙って笑顔を向けた。
そこには、誤魔化しではない言葉にならない気迫のようなものがあった。
迅速に早く移動してほしい。そして、エヴァンでなければならない何かがあるのだろう。
大我はそれを心で理解し、四人に背を向けた。
「わかりました。みんな! 悪い、俺が先に行ってくる!!」
「おう! 早く行ってこい! お前に先行かれるのは癪だが、後で追いつくからな!!」
「あたし達の心配はしなくていいからな! お兄ちゃんと一緒にいて負けると思うなよ!」
「僕も最大限応戦すっけんね!」
非常に飲み込みが早く、ラント達はそれぞれの言葉を送り、先陣を切って先に進む大我とエルフィの背中を見送った。
彼を邪魔する気配を発していた量産型には、アリシアが矢を放ち先んじて射抜き潰した。
大我の姿が小さくなり、曲がり角に入って見えなくなると、皆はこれまでの人生で最大とも言えるような覚悟を決めて武器を構え直した。
「あいっかわらず、柄じゃねえこというよなラント」
「はっ、文句言ったのがせめてもの抵抗だ。でもよ、こんな状況を考えたら見送るしかねえだろ」
ラントは改めて、無数の瓦礫とその向こうの建物を見据える。
うじゃうじゃと湧き出した量産型。その数は、大我が離れた後で身がすくむ程に増えていった。
まるで、ジャングルに迷い込んだ獲物を猛獣の群れが狙うように。
「二人は大丈夫? あれに行けそうなん……?」
「問題ねえよ。むしろ、まだまだ足りねえくらいだ。俺達の友達をここまで利用しやがって」
「偽物は徹底的に潰さないとな。一人でも残ってたら、ティアに合わせる顔もない」
一体一体ならまだしも、どれだけ戦えば尽きるのかもわからない脅威的な数は先が見えない。
それでも、二人は勝つことだけを見据えていた。
ティアのために、先に進んだ大我のために、自分たちのために。
それに感化されたラクシヴも、まだ自分の見えない限界に挑む気持ちで気合を入れた。
そして、エヴァンも同様に勝つ気で大我を送り出した。だが、彼の眼には、数ある量産型ではなく、ある一点に向けて視線が釘付けになっていた。
(…………こんな有象無象の敵だけじゃない。明らかに向こうから異様な戦意を感じる。まるで皆殺しでも企んでいるかのような)
エヴァンの感じた予感は正しかった。
まだ姿を表していない。しかし、彼らの元へ向かう一体の人型兵器とも言える存在があった。
それは、現状のリソースからアリア=ノワールが造り出した最強の戦士。
名もなき戦士の存在を察知したが故に、大我を先に送り出す判断をしたとは言っても過言ではない。
少しでも分散するほうがいい。一体の戦意を自分にだけ向けさせれば、最も被害を少なくできるはず。
エヴァンはそれらを考えた上で、こうして留まったのだった。
「僕の全力、出さなければならないかもしれないな」
現状最も世界樹に近い場所で起きた乱戦。
しかし、それが明かされるのはまた別の話となる……。
そして視点は、改めて先へ進んだ大我とエルフィに移っていく。
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