第390話 騎士の矜持、憧れへの道筋 9
同時刻。アルフヘイムの人々が集まった避難所では、度重なる轟音に怯え驚きながらも、人々は大我達の勝利を願い続けていた。
「いやあっ! あ、あ、あぁぁ……いやぁ……誰か……助けて……」
中には、目の前に訪れた凄惨な光景が脳裏に蘇り、恐怖がぶり返し震え始める者もいる。
そのような住人の様子を察知したミカエルは、すぐに側に駆けつけ、介抱した。
「大丈夫です。ここは安全です。もう皆を傷つけさせない。安心してください」
「ああ……あ……ぁぁ……ぁ…………」
両肩を優しく抱え、じっと目を見てここにいるという意思を向ける。
パニックに陥った獣人の女性は、彼の力強い眼と、両肩に乗っかった力強くも優しい手に、少しずつ落ち着きを取り戻した。
心配が無いであろう状態にまでなんとか戻っただろうと判断すると、ミカエルはその天使のような美貌によって何倍も魅力の増した笑顔を向けた。
「落ち着いたみたいでよかった。ここは僕達が全力で守る。だから、僕達ネフライト騎士団を頼ってほしい」
「は……はい……ありがとうございます……!」
なんとか立ち直った獣人は、胸の奥に良い意味でのざわつきを覚えながら、隊員の案内で腰を落ち着けられる場所に運ばれていった。
「…………このままだと、少し危ないかもしれないね」
アルフヘイムを発生源とする無数の轟音に、空気の振動。
彼らが必死で戦ってくれていることを強く伝えてくる。
ミカエルは、今いる場所からずっとずっと先にそびえる世界樹を見ながら、仲間達の無事を祈った。
「バーンズはまあともかく……エミル、団長、どうかご無事で。二人がいたからこそ、今の騎士団があるんだから」
彼に願いを向けられたエミルとリリィは今、それぞれの刃をぶつけあっていた。
敵同士として望まぬ形で衝突している今、それを見守ることしかできないエウラリア。
その戦いの中で、勝利の意思を固めたエミルは気迫に満ちており、向かう刃に立ち向かい受け止めながら、少しでもチャンスを作り出そうとしていた。
「一発一発が重い……!」
リリィが振るう剣は、常に正確過ぎる程の鋭さがある。
己に届くであろう剣は見事に避け、回避行動からノータイムで距離を詰めてくる。
一瞬気を緩めることすら許されない。攻めて打ち崩そうにも、どこにも隙が見当たらない。
かといって守りに入れば、防御の上からでも衝撃が強く伝わる斬撃が放たれる。
息の詰まるような攻防の中で、エミルはどこか強い違和感を覚えていた。
「やはり団長は強い……だが、違う……!」
エミルは一旦頭を整理するべく、腹部目がけて炎刀の鋭い横斬りを放った。
リリィはそれに反応し、事前に防御態勢を取る。
だがそれはフェイント。斬撃が到達するその前に、あえて体勢を崩して右足を上げ、防御の上から思いっきり蹴り飛ばした。
「…………!」
リリィ側に怯む様子は無いが、いくら団長と言えども物理法則には逆らえない。
蹴りの威力とその反動によって、両者それぞれ大きく離れた。
(ようやく余裕が生まれた。だがこれからどうする……いや、考えるんだ。今感じていることを言葉にしろ。私は今、団長に何を思っている……!)
なんとか冷静に思考を纏めようと、与えられた時間で、己の身体を以て得た情報を整理していく。
その中で、エミルはあるおかしさに気づいた。
(…………そうか、防御の判断がいくらなんでも鋭すぎるんだ!)
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