第361話 あなたが誰であっても 3
世界樹ユグドラシル内部。
バーンズとイルの衝突とほぼ同時に発生した、大我達とセレナが接続された巨大兵器との迎合を、ノワールは天から見下ろすかのように観察していた。
「ふふ、万が一の為に戦力を確保しようとしたのはやはり正しかった……というべきかしら。元々は全部、秘密裏に用意しておいた駒で全て終わらせるつもりだったけど、見事に突破されちゃったものね」
世界樹を通して映し出される、ホログラム上の映像。
ノワールの視線は、巨大兵器の上のセレナを差していた。
「もしもの時の為に新たに製造した、巨大防衛兵器『ユミル』。実際はまだ未完成だから完全には至ってはいない……けど、ちょうどパーツがきたから突貫工事ながら組み合わせたけど、それなりに正常な動作はしてくれてるわね」
彼女の言うパーツとは、セレナのことである。
ノワールは量産兵に彼女の確保を命令。
瀕死の所を回収し、そのまま目覚める前に下半身を分離。
接続部から強制的にユミルと繋げ、制御中枢として使用。
結果、実質的に自由意志を剥奪され、ただ兵器の稼働を行う為の部品として扱われてしまったのだった。
「『偽神の天眼』もそのまま使える。兵器としての性能は申し分ない。不安要素は残るけど……今はそうも言ってられないものね。ティア量産のリソースも全て使って新しい戦力を製造しても、おそらく一体が精一杯」
現在ノワールは、偽ティアの量産を一時停止し、ユミルに次ぐ新たなる戦力を製造しようとしていた。
兵の数はもう十二分に確保したから、あとはそれを運用すれば問題はない。
導き出したその判断から、後に突貫的に新たなる強力な単体兵を作り始めていたのだ。
大我達がユグドラシルへ向かう今、完成まで残り98%程。
完成後即投入を視野に入れつつ、ノワールはこれからどのように対処すべきかを常に思考していた。
「全てを塞き止めることはおそらく不可能。だが、そこまで行けばあとはどうにでもなる………ふふっ、さあ貴女はどうするのかしら、アリア」
神の座を奪った者が、それを取り戻そうとする神に重ねた敵意を向ける。
ノワールは、積もりに積もった怨念と気力を以て、向かう大我達に牙を剥く。
* * *
巨大防衛兵器ユミルとセレナが強制合体した、言わばユミルセレナが流星の如く降り注がせた火球。
大我はそのうちの、ルシールへと向かっていた一発をエルフィと共に弾き、衝撃によって吹っ飛ばされた。
両者ともに痛みを覚えながらゆっくりと立ち上がるが、どうやら大きな怪我は負わずに済んだらしい。
「大丈夫ですか!?」
「いってて……だ、大丈夫だ。ありがとよエルフィ、お前が助けてくれたんだろ」
「うう……お礼は後にしてくれ。けど、思ったより相当ヤバそうだ」
大我が受けた火球の威力は、自身が想定していたそれを上回るものであり、紅雷拳一発とエルフィの援護で相殺したとしても無傷で済むようなものではなかった。
発生する衝撃に対して、マナのバリアの強度が足りない。それは大我が咄嗟に張った分では、うっかりすれば貫通してしまう程。
それをエルフィが、瞬時に大我の腕と拳を覆うバリアを強化。
発生する影響を限りなく小さくしたのだった。
だが、エルフィの表情は一旦の安堵に包まれるどころか、より緊張感を増していた。
「あの魔法、一発が相当な威力してやがった。俺も大我も、絶対に真っ向から打ち消せるようにってぶつかったが、それでもこうなった。たいした詠唱も無い上に、あんな広範囲にぶち込んどいてこの威力。間違いなくやばい」
突如地下より出でた強大なる敵。たった一度の攻撃で、大我達に強烈な印象を刻み込んだ。
(しかもたぶん……こいつは火力がまだ抑えられてるはずだ。起動したばっかだからなのか、小手調べなのか、それとも完全じゃねえのか。どれにしたって、このパワーはまずい……!)
一度回避に徹した後、再び大我とエルフィ、ルシールの元に集まってくる仲間達。
そのエルフィの分析を耳にした後、最初に言葉を発したのはアレクシスだった。
「…………よし、わかった。大我、お前達は先に行け。ここはあのデカブツを、俺達が食い止め倒してやろう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます