第342話 いざ、アルフヘイムへ 6

「こっちの馬車に移れ! うわっ!?」


 ラントが身を乗り出し声を出すも、爆風によって仰け反ってしまう。

 外で戦っていた劾煉とラクシヴが、今最も脱出しやすい状況。

 この揺れ、衝撃。どれだけ耐久力に優れていても、足からやられては危険極まりないと直感で感じ取る。

 迷うことなく、ラクシヴは両腕をもう一方の馬車へと伸ばし、蜘蛛の糸のように吸着させる。


「うわっとと!! あ、危ねえべや……」


 伸びた腕を一気に縮ませ、反動で飛び移った。

 勢いによって身体が離れてしまうのを、同時に両足を付着させて阻止し、無事に乗り移った。

 同じく、劾煉も斜め前方へと身体を飛び出し、圧倒的な握力で馬車に掴まり、風と勢いに煽られながらも見事な筋力と身のこなしで移動を完了した。


「騎士団の三人は!?」


「大丈夫だ! 私達に怪我はない!!」


「こいつら、つくづく楽させてくれねえな。俺達の足をぶっ壊しやがって」


「医療魔法具は無事……と。ええ、これならなんとかなります」

 

 危険を察知し、すぐに最低限の装備をまとめて飛び出した、ネフライト騎士団の隊長三人。

 爆発の威力は凄まじく、ミカエルの財力と繋がりを以て作られた堅牢な馬車でも、無数の偽ティアの威力が重なり、木っ端微塵に吹き飛ばされてしまった。

 その爆発に巻き込まれず、三人は前方へと移動し、それまで馬車を引いていた馬の背中へと乗り込む。

 ガイウスもこれ以上は持ちこたえることはできないと判断し、同様に乗馬を敢行した。

 馬車を牽引していた馬二頭。馬車を引く為の装備も破壊し、軽くなった脚がより速度を上げていく。

 それぞれ一頭につき二人。エミルとガイウスが手綱を引いた。

 そしてガイウスの手元には、取り外した魔法具の宝石があった。


「見んの久しぶりだな副団長の乗馬姿! あんな下手だった頃とは大違いじゃねえか!」


「当然だ! 鍛錬は一日にしてならずだからな!」


「それ相応に怪我もしてましたけどね」


 危険性は増したが、より機動力の上がったネフライト騎士団側。

 一方のアリア側は、数が増えたことにより天井のスペースが圧迫。

 ラクシヴはスペース的に問題はないが、あとの二人への邪魔になりかねないと、劾煉は側面に掴まり、風を受けながら正面を見据えた。 


「大丈夫か二人共!?」


「問題ない」


「私も問題ねえッスよ。けど、ここからがかなり怖そうかな」


 一方の破壊により、その攻撃はアリア側へとやや傾きを見せる。

 だが、それだけで終わるタマでは決してない。

 横並びの走行形態を縦一列に直し、ネフライト騎士団側が先陣を切る形となる。

 それはまるで、姫を護る騎士の如く。


「申し訳無い皆様。私がついていながら馬車が破壊されてしまうとは、このガイウス、一生の不覚」


「いえ、問題ありません。むしろ息子さんと共に、ここまで牽引してくださってありがとうございます」


「近寄るんじゃねえ! 久々の馬の上でやりにくいんだからよぉ!!」


「……私も手を出さなければいけませんね。医者なのに……」


 エミルとガイウスに集中してもらう為に、バーンズとエウラリアが共に揺れる上から奮闘する。

 バーンズは大剣を使わず、突っ込んできた偽ティアの頭部を掴んでは首が折れる程の勢いで投げ、片手の裏拳や叩きつけで一撃で吹っ飛ばす。

 エウラリアは携えた剣一本で、隊員の殆どにすら見せたことのない、正確無比なる無駄のない一閃で、確実に腕、脚、頭部と、致命的な箇所を切断。

 後方の馬車に一部がぶつからないようにしながら、確実に足を進めていった。

 

「妹野郎! もう少し耐えろよ!! この空気、もうすぐだ!」


「名前くらい呼んでよね! それに、言われなくとも、お兄ちゃんに情けない姿は見せらんないでしょ!!」


 迅怜とアリシアの奮闘。


「片腕でも、貴様等程度ならば事足りる!」


「ぶっ刺して吹き飛ぶなら……薙ぎ払う!!」


 飛び移った劾煉とラクシヴの助力。


「クロエ、まだ大丈夫?」


「勿論。このくらいでへばってたら、銀界の魔女に名前負けしちゃうもの」


「よく言うぜ運動不足姫がよ。だが、俺もその心意気には負けてらんねえなぁ!」


 車内からのクロエ、エヴァン、アレクシスの助力。

 どれだけの量産兵を差し向けられても、彼らに一切の折れる様子は無い。

 目指すアルフヘイムに辿り着くまで、ひたすら走り続ける。

 そして、先頭を走るガイウスとエミルから、大きな声で皆へのメッセージが与えられた。


「皆様! 間もなく解散ポイントに到着します!」


「やはり門は閉じられている。みんな! 迷っている暇は無い! 武器を取れ!」

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