第335話 決戦準備 11
そうして、避難所のとても短い猶予はそれぞれに過ぎていった。
騎士団第3部隊の能力を駆使した避難民の確保と、アルフヘイムへの可能な限りの偵察による情報収集。
避難所の設備増強と治療は引き続き行われ、少なくともこれからを過ごすことによる命の危機は無くなったも同然となった。
だが当然、襲撃の心配が無くなったわけではない。
様子見や牽制なのか、常に大きな隙間が空くことなく続く偽ティア軍団からの攻撃。
それらは騎士団の第1、第2部隊の隊員達が、エミル、バーンズ両隊長の指揮管理のもとに応戦していた。
「単体で応戦できないと判断した時は、付近で戦う隊員と連携を取るんだ! 此度の戦いでは一瞬の迷いが命取りとなる! そして数は確実に向こうが上! 決して捨て身にはなるな! 生き抜く事を目指すんだ!」
「もっと一撃に力を込めて叩き斬れ! だが力み過ぎるんじゃねえぞ! おいそこのお前ら! ダック! レックス! ブラッカお前らのことだ! 気張るのはいいが前に出過ぎるなよ! ちゃんと連携取れ!」
これまでに無かった未曾有かつ大規模の戦い。
短い間ながらも、より厳しく実戦を経た戦いを積むことで、人々を守る騎士団のレベルははっきりと向上していった。
そしてそれは、より気合の入る大我達も同様である。
「そうだ。しっかりと、全身を以て力の流れを意識せよ。それ即ち攻防何方にも通ずる極意となる」
「意識しろ……頭の中に叩き込め……! よっ、ほっ……うわっ! …………いや、こっから…………よしっ!」
痛みも引き、怪我から回復した大我は、同じ生物かつ人間としての戦闘技術を身に着けている劾煉に、希望通り師事を頼んでいた。
劾煉がアレクシスに頼み、いくつかの障害物と、飛び道具として扱える木と岩の円柱形を用意し、指定したコースを大我に走らせる。
途中で無作為に投げられるそれを、接触する感覚を覚えつつ受け流し、破壊できる物は正面から確実に砕き吹き飛ばす。
これまで無意識に、感覚的に行っていた力の流れに従う動きをしっかりと頭の中に捉え、どんな危機にも焦らず自分の力量で対処できるようにする。
これまで大我は、常に全力で、与えられた身体能力とそこから目覚めた持ち前のセンスを駆使して戦い抜いてきた。
強い仲間にも助けられ、がむしゃらに立ち向かい、それでもなんとか切り抜けてきた。
だが、この先の熾烈極まること間違いないアルフヘイム侵攻に於いては、そのままのスタイルでは確実にスタミナ切れを起こしてしまうだろう。
それをなんとなく自覚している、自分が足手まといにならないようにしなければと考えていた大我は、短時間で改善点を整理する為に組まれた劾煉のメニューに必死に喰らいついていた。
「流れる力に、空気に、感覚に身を任せろ!」
「付け焼き刃でも基本の型を忘れることなかれ! 基本とは言わば種であり、そこから木が成り実が成る! 迷いが生まれたなら、常にそこに立ち還れ!」
(少しでも……少しでも……強くなるんだ! 俺の新しい居場所を取り戻す為、みんなの居場所を取り戻す為! そして、絶対にティアを助ける為に!!)
その一方で、護衛によって生まれた偽ティア達の残骸を調査し、戦闘を行った者達から情報を集めていたミカエルと第3部隊隊員は、新たな不安要素を抱えていた。
「一日を経るごとに、戦い方や武器が変化している……向こうも独自の変化を遂げているというわけだね。これは可能な限り情報収集に徹して、共有しておくべきかな……頼んだよ、みんな」
「了解」
先のわからぬ恐怖に煽られながらも、それに立ち向かうべくそれぞれに日々が過ぎ去り、積み重ね、ついにアリアが決めた5日後の朝となった。
天が不安の混じる闘志を表すように、その日の天気はやや曇りの見える晴れ模様。
つい一週間すら満たない過去に暮らしていた故郷の遠い姿を背にした、ルシールの姿を借りたアリアの元に、神伐隊、ネフライト騎士団、未だ成長を期待される者達、そしてたくさんの人々が集っていた。
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