第161話

「おいマジかよ、もうあれ奇襲じゃなくて強襲だろ……」


 一人を狙った襲撃から、一気に建物ごと叩き潰すというスケールの変動に唖然とするラント。

 そんな中、大我とバーンズははっと懸念材料に気が付き、真っ先にメアリーに問い詰めた。


「メアリーさん! あの中に俺達以外の客は!?」


「何か館内マップのようなものはないか!? まだ誰か残っているならば、今すぐにでも助け出さなければ!」


「えっと、本日は皆さん以外のお客さんはいませんけど、中にまだ3〜4人程いたような……それと、マップは館内受付にあります。地下室も一階だけ……」


「大我、ラント、お前等は中に残った従業員を探して連れ出してくるんだ。俺達はあのデカブツを叩き潰す」


 自分達だけを襲ってくるだけならいざしらず、このような他者を巻き込んでの凶行に入るような者には容赦はいらない。

 バーンズとイルは巨人への対処を優先し、武器も持たず隙間を縫うように動けるエルフィのような存在もいる大我達を、一般人の救出部隊として送り込む判断を下した。

 大我達はその意志を汲み取り、全力で宿へ向けて突っ走った。

 

「――――――!!!」


 どこに目があるかもわからない機械の巨人は、身体の向きを接近してくる大我達へと向ける。

 全体の動作にはっきりとした知性は感じられないが、どうやら敵と認識した者へ反応するだけの脳はあるようだ。

 巨人は無数の鉄屑が乱雑に入り乱れて形を成したような太い右腕を、ハンマーのように振り下ろそうと緩慢に振り被った。

 その右腕の二の腕部分へと、一発の赤く巨大な衝撃波が放たれる。

 正確な軌道は真っ直ぐと狙い反れることなく腕に命中し、爆発を起こした。

 巨人の身体がゆらりとよろめく。


「おいデカブツ!! お前の相手は俺達がやってやる!! せいぜい腕振り回して頑張れよ!!」


 一定距離を縮めつつ、巨人にはっきり聞こえるように挑発をぶつけるバーンズ。

 それを耳に入れた巨人は、ターゲットを先制攻撃してきたバーンズ達へと変更し、両手を地面について破壊された宿から飛び出してきた。

 その姿は、先入観として下半身があると思われていたが、巨人の身体はみぞおち部分で止まっており、両腕を移動手段としても使うようなタイプの存在であった。


「ああいうタイプか……煽りに乗るだけの知能はあるみたいだな。だが、近くの大我達よりも先制した俺達を優先するか。なら、やりやすいことこの上ない。イル、その少年とメアリーを守りながら加勢してくれ」


「了解。二人とも、決して私から離れないでくださいね」


「は、はい!」


「……わかった」


 睨むそれとは違う強い眼差しで、決して離れないようにと口にするイル。

 少年はそれを耳に入れ、現状と合わせて無駄に動いてはいけないと察して素直に従った。


「ところで、あなたの名前教えてくれませんか? この後話をするならば、知っておかないと呼びにくいですから」


「……ルーク=ウッド」


「いい名前ですね。よろしくねルーク」


 元々は確固たる意志を持って大我達の元へとやってきたルーク。

 だが、そこにいた美人な女騎士に名前を呼ばれ、照れることになるとは思わなかった。

 ルークは変な声を漏らさないようにしながら、黙ってイルの後ろへついた。


「ようし、出涸らしはちゃんと処理してやんねえとな!」


 バーンズの大剣が炎を纏い、イルのレイピアが触れる地面を凍らせる。

 臨戦態勢が整えられたその後ろで、メアリーは巨人ではなく、その二人の姿をおろおろした顔でずっと見つめ続けていた。



* * *

 


 ほぼ同時期。崩壊した宿の入口へと到着した大我達は、かろうじて半壊状態の歪んだ扉をストレート一発で叩き壊し、強引に突入した。

 外観の通りに内部も潰れ崩れ壊れ切っており、メアリーに案内され、一時的にでも休憩しに入ったときの面影はどこにも見られなかった。

 

「これじゃマップあっても役に立たないな…………誰か、誰かいませんか!!」


 大我が声を上げて、生存者の安否、存在を確認する。だが、外の轟音がどうしてもノイズとなり、向かうべき方向を定めることができなかった。


「エルフィ、お前の耳にも何か聞こえなかったか」


「いやなにも。多分この辺りにはいねえな」


「だったら……地下か」


 二人の行動と結果からおおよその見当をつけたラント。

 今立っているフロアの足元をコツコツと殴り、空間の存在を確かめる。


「大我、同時に地面をぶん殴ってそのまま地下に行くぞ。いちいち階段探す余裕はねえ」


「俺もそう思ってたところだ。合図で叩き込もう。フォロー頼むぞエルフィ」


「任せな!」


 迅速な判断と意見の一致。

 大我とラントは右の拳を地面に向け、弾丸を装填するように右腕を引く。

 補助を任されたエルフィは、二人に落ちても無事でいられるように風魔法を付与させた。

 どれだけ足場が悪くても、高さがあっても、これによってゆっくりと関係なしに降り立つことができる。


「「1……2……3!!!」」


 二人同時のカウントダウン。同時に放たれた拳の銃撃は、豪快な破壊音と共に土埃を撒き散らした。

 呼吸が乱れる前に風魔法で周囲の視界を確保しつつ、ゆっくりと足場へと誘導した。

 やはりというべきか、地下室は荒れた光景を作り出しており、一見すれば人一人の気配すら危うい廃墟のような状態だった。


「本当に残ってんのかこれ……」


「それを考えるのはあとにしよう。今は探す方に集中だ」


 できればどうか逃げていてほしい。もしまだここにいて逃げ切れず、そのまま事切れてしまったならずっと寝付けないだろうし気分もとても悪い。

 助けられるなら助けるべきだと、大我達は声を出して生存者の有無を確認した。


「…………です…………っちです…………!」


「聞こえた! 向こうだ二人とも!」


 もっとも耳の性能が良いエルフィが、小さく聞こえてきた助けの声に反応する。

 その方角を指で指し示し、自ら羽根を羽ばたかせて先頭を飛ぶ。

 大我とラントは、何があってもいいようにと全身に力を入れつつ、救助対象が待つ場所まで崩壊した道を走っていった。

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