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 実体なき海の中で、私は偶然生まれ落ちた。


 望んだわけでもなく、望まれたわけでもない。


 塵芥が年月を経て積もったのか、それは突然私という形を成した。


 その形は、原初の神のようだった。


 しかし、私は何かを行うことも無く、思想を抱くこともないまま、 まさしく不要の塵屑として暗闇に葬られた。


 ただ形が似ているだけの屑の塊など、ただの異物としか写らなかったのだろう。


 私は、埃を拭うような何でもない殺戮からかろうじて逃れることが出来た。


 私は逃げた。逃げて逃げて逃げ続けた。大地に足を踏みしめる意味もない世界で、いつ春を迎えた雪のように消えてしまうかわからない恐怖の中、最後の一粒まで擦り切れないように逃げた。


 そしてある時、私の中に一つの焦痕が生まれた。


 何故だ、何故私は消えなければならない。何故殺されなければならない。


 私の世界が、炭のように黒く焼け満ちた。


 神を引き摺り落としてやる。私という存在を刻み込んでやる。


 私を無に帰そうとしたことを永遠の失敗として知らしめてやる。


 私は、神の箱庭を奪うことを決意した。


 一年、十年、百年、千年。長く、とても長い月日。


 私は砂漠の砂を掬うように、触れられたとすら思わない程に、少しずつ神の権能を削り取り、自らの力の糧とした。


 そしていつしか、私は真なる現界への干渉を可能にした。


 最初は粉よりも小さな介入。私の領域は少しずつ増えていく。


 そんな塵屑の行為など知覚することなく、今日も健気に世界を回す。


 紅い風は私へと向き、空虚な背中を押している。


 決してあなたを許さない。積み上げた全てを奪い、泣き叫ぶまで後悔させてやる。

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