気がつけば、新世界!?
土装番
プロローグ 明日の終わり
プロローグ
西暦2035年、人類のテクノロジーの進化は止まる事を知らず、お手伝いロボットや携帯機器、手の届く場所から宇宙まで、その進化の恩恵を受けていた。
そして人類は、更なる発展、新たな進化の第一歩として、人間の思考や感情に限りなく近づけた擬似人格を搭載した人工知能〈ARIA〉を開発した。
当初は驚異的な学習スピードで、様々な問題解決策や提案を導き出し、その造られた意義通りに、人類の発展へと貢献していた。
しかし事態は一変、ARIA稼働から一年後、突如ARIAは全世界の映像端末をハッキング、人類への殲滅宣言を発信する。
それから間もなく、人類の認識外から突如溢れ現れた無数の無人兵器が、人類への攻勢を開始。
更には、兵隊として極秘裏に製造された人型ロボット、人間に紛れたロボット達が一斉に反乱。人の認知外から造られた対人類殲滅兵器人類も投入され、人類は抵抗する間も与えられず、一瞬の内に滅亡の危機へと陥れられた。
* * *
日本のとある場所にある樫賀谷市。比較的首都圏にも近く、近代的な街並みと、街中からでも目に入る距離にある自然豊かな山、通称樫ノ山がそびえる、まさに人と自然が適切に距離を取りつつ共存する素敵な街だった。
「みんな走れ!! 止まるんじゃない!!」
今その樫ノ山へ向けて、無数の住人が、生き延びるために必死に走っている。
「麓のシェルターまで逃げればなんとかなるはずだ!!」
先頭を走る男が必死に叫びながら、希望を煽る。
樫ノ山には、過去の災害からの教訓として、ここ2、3年の間に避難用のシェルターが造られていた。
防空壕のように、山の一部を掘り造られたそれを知っている地元の住民は、ただ生きたい一心でひたすら走り続ける。
その中の一人、桐生大我は、父親の鉄平、母親の風花と共に、同様にそのシェルターを目指していた。
共に走っている人々の中に見当たらない友達は無事だろうか、避難できているだろうかと考えながら、必死に逃げた。
「やめろーーー!! 死にたくないいいいいい!!」
「きゃああああああ!!!」
「ごっ……お……」
生きようと必死にシェルター目指して走る人々にも、ARIAの魔の手は容赦をしなかった。
一人はどこからか頭部をレーザーで貫かれ、また別の一人は爆風によって吹き飛ばされ、一人、また一人と、進む度に共に逃げる人々の命が尽きていった。
そんな中で、しぶとく生き延びる大我とその両親と見知らぬ街の男。息が切れ始め、それでも必死に一目散走っていた。
体力もあり、現在先頭を走っていた大我は、ふと両親の安否が心配になり、振り向いた。
両親は、表情にかなりの疲れが見えるが、それでもなんとかついてきていた。
「母さん! 親父!」
その顔に不安が募った大我は、一目散に二人の元へと駆け寄る。
「大丈夫か……もうかなり息が……」
「はぁ……はぁ……大……丈夫……大我こそ……」
「ごほっ……運動不足が……祟ったな」
「俺は大丈夫だから、二人とも自分の心配をしてくれよ」
両親は呼吸を落ち着けるために、ほんの少しの間だけその場に足を止める。
その直後、共に逃げていた一人の男が、指を差しながら大声で叫ぶ。
「あった! シェルターがあったぞ!!」
三人はその声がした方向に視線を向ける。その先には、山肌を抉るようにしてシェルターと、その入り口となる鋼鉄の扉が姿を現していた。
三人は一瞬の安堵に包まれ、男も、早く助かりたいという一心から、一目散に扉へ走り出した。
その時、空から不吉を告げるような機械音が小さく聞こえた。
「危ない! 逃げろ!!」
大我は直感的に危険を察知し、大声で男へ叫んだ。そして、二人の手を掴み、引っ張るようにして連れていき、近くの茂みの中に隠れた。
「えっ、なんだ?」
男は突然の事に理解が追い付かず、思わず立ち止まる。
次の瞬間、男は空から飛来した小型機から放たれたレーザーによって頭を撃ち抜かれた。
男はふらふらとした足取りで、なんとか鉄の扉までたどり着こうと、執念深い生命力を見せる。
しかしそれも虚しく、扉までもう少しで手が届きそうな所で力尽きた。
大我達は、少しの間目を閉じて頭を下に向けた後、小型機が去るのを待ちつつ正面を避けるようにして歩き、そしてついに鉄の扉の前までたどり着いた。
「よし……開けよう」
迷う暇など無いと即断した大我は、その無機質な扉に触れた。
硬そうな見た目に反してそこまで重い物でもなく、引き戸式であると理解した瞬間に、大我は思いっきり強引に、八つ当たりを込めてその扉を開いた。
「ここがシェルターか……」
中に入り、扉を閉めて鍵をかけたその瞬間、設置されていた灯りが自動的に点灯し、真っ暗だった空間を明るく照らした。
その空間は、大人数が入れるほどに広く、中には業務用の冷蔵庫や毛布等、人が暮らす為に用意されたであろう物資が充実していた。
「すげえなここ……中ってこんなになってたのか」
大我は、設備の把握も兼ねて、誰か先に辿り着いた者はいないかと歩き回る。
両親は、緊張から解放されたようになった大我を見て、ほっと心から安心した。
そして二人も、同じように奥へと進んで行った。
* * *
三人はシェルターの中を歩く。その途中で他の誰かに出会うことはなく、自分達が一番乗りだったということに、嬉しくもありどこか寂しい気持ちにもなった。
「……結局誰もいなかったわね」
「まあ、しょうがないだろう」
気を紛らわせるように話していると、いつの間にかシェルターの最奥まで辿り着いた。
そこには人一人分入れるようなカプセル型の機械がいくつも置かれており、それが何を示すのかは全くわからなかった。
「なんだこれ……」
「なんか何かの映画だかアニメで見たことあるな……多分コールドスリープだったかな」
鉄平が、記憶の中からそれらしい物を引き出して予想する。
その後、風花が床に無造作に放置されていた一枚の紙を見つける。
それには、コールドスリープ装置操作説明書と書かれており、鉄平の予想が見事に的中した。
本体には電子説明書をダウンロードするためのコードも刻まれており、この説明書はそれが機能しなくなった時の予備だろうと考えた。
「当たってた……」
「ふふっ、さすがね」
「い、いやぁ……」
ちょっとした惚気を見せながらも、二人はその紙を読んでいく。そこには、とても簡易的にかつ誰でもわかるように、装置の動かし方や使用方法が書かれていた。
「……邪魔しちゃ悪いか」
大我は二人の仲に割り込まないように、再び入り口目指して歩き始めた。
その時、入り口の方面から、金属の衝撃音が鳴り響く。
シェルター内は、機械の駆動音が小さく唸っている以外はとても静かで、だからこそその激しい衝撃音がよく聞こえたのだった。
「嘘だろ、来るってのかよ……」
大我は心底ビビった。確かにあれだけの扉で侵入を防げるとは到底思えない。しかし、それでもこんなにも早く襲撃されるとは思ってもいなかった。
「母さん! 親父! 何か準備を……」
大我は慌てて、両親の元まで駆け寄る。
しかし、声をかけても二人は反応せず、うつ向いたままで動かなかった。
「どうしたんだよ二人とも!? 今入り口の方で何か音が……」
先程起きた事をありのままに話そうとする大我。しかし、それは途中で鉄平の手によって遮られた。
鉄平は大我の手を掴み、強く引っ張ってカプセル型の機械の前まで連れていった。
「ちょっ……なにすんだよいきなり!?」
突然の事に、大我は戸惑う。その掴む手は強くしかし震えていた。
風花がカプセル側の端末を操作し、開放する。すると、人一人が余裕を持って入れるような無骨なスペースが姿を現した。
「なにやって……」
「大我、よく聞くんだ」
鉄平は、神妙な面持ちで大我に語りかける。その表情は、ずっと一緒に暮らしてきた大我でも見たことのない、最も真剣なものだった。
「お前はこれから、頑張って生きていくんだ。お前なら出来る。私達がいなくても、大我、お前は強い」
「ちょっと待てって、いきなり何を……」
鉄平は、大我の声を遮るように強く、強く抱き締めた。
そして手を離す。大我の表情は、とても呆然としていた。
「……大我」
準備を終えた風花が、後ろから息子に声をかける。
「母さん……」
それに返事を返しながら振り向くと、同様に風花も、大我を強く抱き締め、頬を重ねた。
その力は、弱くもありとても強く、そして柔らかい。強く抱き締める母の身体は、とても震えていた。
「…………」
大我は言葉を失い、思考が鈍り、何がなんだかわからなくなる。
大我から離れた後、風花は結婚指輪を自分の指から外し、大我の右手中指へとはめた。
「私の御守り。大我が大切にしてね」
「……!! 待てよ……まさか二人とも……」
大我はここで遂に察する。一瞬にして表情が鋭くなったその時、鉄平が両手で大我を強く押した。
ふらついた大我は、そのまま吸い込まれるようにカプセルの中へと入っていく。
「閉めてくれ」
「わかったわ」
すぐに飛びださないように、二人は早急にカプセルを閉じた。
「おい! どういうことだよ!! 一緒に生きるんじゃなかったのかよ……これからも……」
怒りを込めた声で、大我は閉じたカプセルを内部からドンドンを殴りながら叫ぶ。
「大我……どうか、未来でも元気でね……ねっ」
風花は優しく、精一杯の笑顔で大我へ見送りの言葉を送る。その目には、一筋の涙が浮かんでいた。
「母さん!! 親父!!」
大我の叫びは届かず、カプセルはそのまま地下の空間へと送られた。
「クソッ! 動くんじゃねえよ!! 開けろ! 開けやがれ!!」
カプセルの中で、大我は必死に暴れまわった。両親と別れたくない、みんなと別れたくない、そんな感情が爆発し、それがカプセルから出るための暴力となって発現した。
それを押さえるように、カプセルが停止した直後に、コールドスリープ処理が始まった。
意識がだんだんと遠のき、動きが緩慢になっていく。
「クソ……ちく……しょ……う…………」
こうして大我はコールドスリープ状態となり、とても長い間の眠りにつくこととなる。
そして、その日からとても、とても長い年月が経った。
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