6. 輝く闇を

 クローディアは、魔女達の中では「異端」だ。

 多くの魔女は、精霊を使役することに何の躊躇いも持たない。それが当たり前であるかのように。彼女も、魔女になる前はそのことに疑問も持たなかった。

 それがある時、その行いが「当たり前」に思えなくなった。

 ――その想いが、彼女を魔女にするきっかけとなった。



 千年を生きるクローディアが、今まで一人も弟子をとらなかったのは、ほとんどの魔女が、「精霊を使役するのはおかしい」などと考えない、または考えられない者ばかりだったからだ。

 クローディアは、相手の考えの一部を読み取れる能力を持つ。その能力で、相手の価値観を読むのだ。

 多くは、彼女と対極な考えだ。稀に、そうではない者はいる。だがそれらは、「無知」だからこその考えや、どこか「合わない」と感じてしまう。

 だから、いつの間にかクローディアは、「魔女嫌いの魔女」などと囁かれるようになった。



 クローディアを、一番近くで見守ってきた精霊、ジジ。

 会って間もないのに、大事なことを話したわけでもないのに、リースを弟子にしたことには、心底驚いた。

 好奇心が過ぎる、と思っていた。すぐに取り消すだろう、などと思っていた。

 ……クローディアが、他人を受け入れたことが、少し嬉しかったのは、秘密だが。

 話してみると、なりたてのリースは、「無知」に近かった。だが、それ以上に「自我」が強かった。

 クローディアが、試すように「お目付役」、「使い魔」などと言うと、最後にリースは「大切な相方」と言い換えた。なかなかに、的を得た表現だ。

大切なひとを灰にし、魔女になった少女。

 リース・アルフィは、人の身でありながら、瞳に魔力の欠片の色を宿していた。それが人の世では、どれほど嫌われる要素になるのかは、ジジもクローディアも容易に想像できた。

 それでも、人だった身の彼女には、生に執着する意味が――母が、いた。

 幼き少女は、「自分がいなければ、母は楽になる」などとは、考えなかったのだろう。

 人の子らしい愚かさだ。けれども嫌いではない、などと思う。

 けれどリースは、人の身でなくなった時に、自分が「守られていた」という現実に気付いた、とクローディアは話した。更に言えば、嘆くだけでは何の道も開けないことも、理解しているという。

 千年を生き、千のひとの心を視てきた主のいうことなのだから、本当のことだろう。



 ――ふと、リースについてを考えているうちに、彼女に対しとても強く、ある感情を抱いていることに気づいた。

 波の音や、川の流れ、風の歌で、感情や激情が安らぐように。

 クローディアの内にいつからかある、どす黒い感情を。

 夜空の星々が、月の魔力をあやすように、――大切なことを覚えたリースが、行き場のないクローディアの闇を、どこかに導いてくれたら――と。

 「精霊」である自分では、「主」と対等にはなりえないから……なんて。クローディアが聞いたら叱られそうな話だが。

 そんな幻想に近い想いを、自分が考えていた……いや、考えている、のか。

「……期待を、してしまっていいかのう? 灰色魔女、リースよ」

 ふぉっふぉっふぉ、と、「夜空」という輝く闇を見上げて、やわらかく朗らかに笑う、老人精霊が一人。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る