2. そこにあるもの

『やだ、いやだよ! 死なないで、アルテミス……!』

 必死に縋りつく少年と、今にも息が止まりそうな、傷だらけの女性。

『……ごめんなさい、ハウル。それ、は、無理みたいなのよね……』

 泣き顔の少年に、女性はなんとか笑いかける。

『わたくし、転生するらしいの。だから』

 ――ごきげんよう。ハウル。いつの日か、また会いましょう。



「……また、か」

 ベッドの上で、白い髪の少女は、なんとも憂鬱そうに呟いた。起き上がり、金の目を擦る。

 彼女が、夢の中にでた「アルテミス」の転生した姿。灰色魔女、リースだ。

 最近、この夢を見ることが多い。

 さて、と気を取り直し、隣の部屋の「彼」を起こしに向かう。きっとまだ、夢の中だ。

 一応、ノックはしてから、部屋に入る。

 ベッドに眠るのは、落ち葉の色の髪をした、青年。深緑の瞳は、まだ閉じられていた。

「ハウルさん、おきて」

 ――そう。彼は、アルテミスを慕っていた少年の、永い時がたった姿だ。

 目を開けて、その瞳にリースを映すと――蕾が綻ぶように、やわらかく目を細める。

「……ああ。おはよう、リース」

 


 ハウルは、すべてを知っている。

 「リース・アルフィ」が、魔力を暴走させ、村を灰にし、魔女になったこと。彼女の師匠が、「アルテミス」の友人であったこと。

 リースが、アルテミスではないこと。

 それらをわかっている上で、大樹の精霊は、灰色魔女のそばで、彼女を守ると誓ったのだ。

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