EP10 約束はできるだけ守りたい。だが飽きてしまってはしょうがない。
ん・・・?やっと意識の戻らなかった二人が目覚めたか・・?
結構長い間床に転がされて放置されていたが、まぁ良いか。話がちょっと聞ければそれでいいし。
イファリスがこいつらの血霊病を治してから実に5時間以上の時間が経っていた。俺たちはその間に、エルフの囚人たちから魔法について色々教えてもらったり、ドワーフの囚人から宇宙戦艦について教わったり・・・・。
とにかく多くの情報。主にこの監獄の外の情報について教わっていた。そして今日も、囚人に与えられていた仕事とやらをすっかり忘れていたことは内緒だ
(内緒だじゃないんですけど・・・。)
「お・・・おぅ。」
(私は知りませんよ?あなた達がお仕事に出てこないからほかの囚人たちの仕事が増えて、怒り散らしているとか?
あなた達がお仕事に来ないから?他の派閥が全部敵に回っているとか?F1の囚人が28Fに攻め込もうとしているとか?
私は全く知りませんよ?そもそも私たち刑務官はノータッチだし?あなたが勝手なことをしているだけだから?あんまり酷い様だと?
むしろ私が?あなたにペナルティを与えなければならないとか?そんな事は?全くもって?存じ上げませんの事よ?)
・・・マジか・・・!?今ここにきてペナルティって何があるんだ。
「ペナルティについて詳しく。」
(最低でも一週間独房入りとか?電気ショック毎日二時間とか?仕事量倍増とか?各部屋のトイレ掃除毎日とか?たったそれだけなんですけど?)
いかん。相当キレていらっしゃる。ずっと疑問形で感情の爆発を我慢していらっしゃる。
「判った。じゃあ今日終わらせる。みんな分かったな。こっちに来られる前にこっちから行くぞ。」
最悪全部終わってからなら、ペナルティも仕方あるまいよ。しかし悪いことしたな。後できっちりお詫びでもしないとな。
(ちょっと?今日って何?今から戦争やるってこと?うちの娘達を引き揚げさせるまで待ってよ!)
「え?なんで引き揚げさせる?こっちで使っていいって言ってなかったか?」
(戦争には参加させないとも言ったわ。ミミル!カリバーン!すぐに刑務棟に戻りなさい。他の物にはこちらから連絡します。今すぐよ!)
「「了解です所長!!」」
あーーー・・・あの二人振り返ることなく行ってしまったな・・・。戦力そして結構期待していたんだが・・。俺の勘違いだったな。
「雨宮の。しょげるなよ。俺たちが居りゃ十分だろ。」
「まぁそうなんだがな?他の雑魚囚人をどう守りながらやるかってことでな?」
そんな事を話していると、起き上がった二人のF8囚人たちが話しかけてきた。
「アンタがここのボスかい?」
「まぁ一応な。何か役に立つ情報はあるか?」
「無い。情報なんか集めるだけ無駄だ。F8は吸血鬼しかもういないしF9もそうだ。ゾンビみたいになった奴らばっかりだ。
F8から下は全部F1の手下にになっている。F10~F20は女しか居ないし。その上の囚人たちは論外。全員で当たってもF1の奴一人にすらかなわん。
そのくらい戦力に違いがある。ハナから戦争になんかならんよ。一方的な虐殺があるだけだ。」
・・・マジで?なんか聞いてる話と全然違う気がするんだが。どこ情報だこれ?
「ござる?こいつらの言うことに信憑性はあるのか?」
「拙者も調べたのでござるが、正直雨宮殿より強い囚人など存在しませぬぞ?それに・・・。拙者も含めてここF28には、ちょっと収監された理由の不可思議なものばかりですからな。
拙者と同じように自らの意志でここに居るものも少なくありませぬし。雨宮殿がここに来ることを知っていたものも多い。」
「成程。皆そんなんだったのか。」
「先ほどわれらに魔法について教えてくださったエルフのイケメンなど、とあるエルフ氏族のトップでござるからな。市原殿は知っているのではござらんか?」
「おぅ。知ってる。冥王星宙域に居るサターンエルフの中心人物。フェルマータ・バスケス・サターンだな。一度だけあったことがある程度だがな。」
一度後ろに引っ込んでいたフェルマータが前に出てきてくれるようだ。
「僕も君の事は知っているよ。オーラアローの名手ジェイク・イチイバル。もう一度会ってみたいとは思っていたのだがなかなか忙しくてね?まさかここにいるとは思っても見なかったから驚いたよ。
ここには他にも色々いるようだし、軽く紹介した方がいいかな?」
「手短に頼む。なんだがケツに火がついているようだしな。」
「ではまず、私の秘書のようなものを二人。デオ・ディブローグ・サターン。そして、バルバル・ライサンダー・サターン。」
「「お見知りおきを。」」
「それから、商業連合国の、スパイ集団バックヤードのエーススパイ、エックス・甲賀。」
「バラしてくれるなよ・・・・。そういう事だ。協力はするように言われている。死なない程度にな。」
「さらに、帝国近衛軍諜報部隊の、シン・ドラウバル。」
「・・・。いつからバレていたのかは知らんが、そんなふうに紹介されるのもな・・・。まぁ、あいつと同じだ。アンタと俺が死なない程度には協力する。」
「さらにさらに。太陽系連合軍警察潜入捜査部隊のフルドゥ・オパイティー。」
「フルネームで紹介するな!!!気まずいったらないぜ!俺も他のと同じだ。危なくなったら逃げるからな。」
「・・・まだいるのか?」
「もちろん。今ここに居る五百人のうち、99%は潜入捜査員ですからね。」
・・・ん?なんか俺結構無駄なことをいっぱいしたような気がするな?
「それならそれで言ってくれればよかったのに。」
「そういう訳にもいかないでしょう。それぞれ立場というものがありますし・・・。何より、偶然とはいえ、捜査員ではない残りの1%を全滅させてしまいましたからね?あなたが。」
あぁ・・・やっぱり。何だかそんな気がしていたんだよなぁ・・・。
「次は自分が死ぬかもしれないと、皆気が気ではなかったのですよ。それに、ここから先そういうことがあってしまっては、人類の統一にも影響が出ます。」
・・・?そらみみ?
「なぁ?なんだ?その人類の統一って?初耳ですが?ござる?こいつってひょっとするとおかしな宗教とかやっているのか?カルト的な。」
「はて・・・?そのような情報は拙者はつかめてりませんが。まぁ頭のねじの一本や二本、有って無いようなものでござるよ。」
ソレもどうかと思うが。あまりよろしい方向ではないなぁ。
「失礼な。私はただ、太陽系に近づく脅威について、少し情報を持っているだけです。」
「ほぉ。それはどんな?」
「実は・・・。この世界は異世界からの侵略を受けているのです!!!」
周りからどっと笑いが起こった。・・・?あぁ。ネタだったのか?ちょっとドキッとした。
「な・・何を笑っているのですか!笑い事ではありません!事実なのですよ?!」
・・・。知っている奴もいるのか?俺は新庄や仲間たちの方を見てみるが、首を横に振っている。
成り行きを見守るか・・・?いや・・・。のんびりしている時間は無い。
パンパン!
「お話はそこまでにしよう。これ以上時間はかけられない。ファムネシア。どう攻めるほうがいい?」
ファムネシアは一度頭の中で考えを巡らせてから、こちらを見て発言した。
「相手は物量も、質も相当な者であると推測できます。しかし。現場の・・・ごザルさんの情報、認識と、刑務官側の認識に大きな齟齬があるようです。」
「そのようでござるな。しかし拙者の情報は常に新鮮でピッチピチでござるぞ。他の者たちも拙者と同じ意見のものが多いと思われますぞ?」
「しかし、刑務官は常に監視をしているのではないですか?」
「ここにいる者たちをごらんなさいでござる。これだけ諜報員が居ても気づかないのでござる。信じる方がどうかと思うのでござるが。」
ゼルミィ・・・。通信が切れていてよかったな。あいつきっと泣くぞ。こんな大失態。
「そうだな。ござる情報を採用しよう。」
「了解しました。では一点突破で行きましょう。こちらには比類なき攻撃力、殲滅力があります。それにいざとなればナノマシンを使いましょう。」
「やはりそれがベターか。いや。パワーイズマスト!それがベストだな!」
「はいっ。」
「拙者もそれでいいと思うでござるよ。そもそも加減も殿次第でござるし。どうにでも出来るでござろう?」
確かにな。半死半生でも皆殺しでも、やろうと思えばできる話だ。
「なあ雨宮の。こういう時は作戦名が必要なんじゃないか?」
「中二か!でも悪くないっ!」
うーむ。そうだな。インパクトと実態を兼ね備えた作戦名・・・。よし。
「ゴホン。ではこれよりパワー・オブ・テラーを発動するっ!力と恐怖で押さえつけてやれ!邪魔な奴らは皆殺しだっ!」
「ではみなさんさっそく作戦を開始します。エレベーターより主力班、非常階段よりそのほか全員による強行突破を図ります。女囚の皆さんは一足先に行って非常階段を開けておいてください。」
「承知しました。そこの五人セット!行きますよ!」
アンジー。さすが女囚のボスだな。
「アンジー。後で合流しよう。先に下で待っている。」
「はいっ!」
華のような笑顔とはこのことか。思わず引き込まれるな。
アンジー。そして五レン・・・。五人はエレベーターに向かっていった。
「じゃあ俺たちも行くか。そっちはあんたに任せるよ。」
「このフェルマータ!粉骨砕身の覚悟で参ります!!」
「砕けちゃダメだろ・・・。まぁ適当に頼む。」
「ではみなさん、少し狭いですが、エンカウントすることも考えられますから、気を付けていきましょう。」
そういうフェルマータとともにデカスが動き出した。
「おいデカス?」
「この腕輪がなきゃ連絡取れないだろ?俺はこっち、ゲイルは女囚たちのケツについて行ったぜ?」
そういえばいないな!手の早い・・・いや手は出ないかあいつヘタレだし。
「じゃあ一階層で会おう。」
「「「「「オウ!」」」」」
残りの、新庄、テツ、とべっちゃん、切嗣、千里、ファムネシア、俺はエレベーターホールにつくと、F10に止まっているエレベーターを確認したが、そのまま下に行くようだ。
少し出遅れてしまったな。そしてそのままエレベーターはF1に止まった。
・・・・・・上がってこない。
「なあ。止められてね?」
「そうだな。」
「そもそも俺はエレベータに入らんぞ。」
エレベータ―で行く案は失敗だ!
「だめJAN!上がってこないよ!迷惑な奴がいる!絶対扉締まらないように足挟んでいるよ!」
そっか。エレベーターってそういうもんだよな。もうやっちまうか。時間も無いし。
「ふーーー。っと。ナノマシン達。やっーーーておしまい!」
「おい雨宮!何をしたんだ!!」
「センサーの反応を無視して締まるようにした。」
「ゲッ!それってあれだろ?足挟んで扉で千切れるとかそういう・・・」
そう。センサーを切ってしまえばあとは・・・。上の階へ行くボタンが押してあるのなら箱は動く。扉が閉まった後に働くセーフティも念のために切った。という事は・・・。
若干ホラー。どんな箱がここに上がってくるかと思うと。・・・ちょっと俺は楽しみ。
千里は若干引いているな。あいつはホラーとかダメな奴だったか。
「何が上がってくるの・・・・。」
「そうだな・・・。こう膝で扉を抑えて楽しようとしているなら、膝から下だけ運ばれてくるんじゃないか?」
「イヤー―――――――――!!」
あらら。ファムネシアの後ろに隠れてしまった。
そんな間に戻ってきたエレベーターの中には・・・。
「「「「「「「「「「でめごるぁ!何やってくれてんだ!」」」」」」」」」」
野郎がみっちり詰まっていた。なにこれキモイ。しかも扉が開いた途端重量オーバーのサイレンが鳴り響いている。
そのせいで動かなかったのか。無理やり動かしてみたらこんなうっとおしい絵面。誰特?
そして空いた扉の足元には肉片と血液がべったりくっ付いていた。
「ぎゃぁーーーー!!血っ!血っ!!銀河君分解して!分解して――――!!」
分解して―って。どんなんやねん。
「そうね。どうせこの中に居るやつらはその他大勢だろうし。全員分解してしまうか。ふーーーーーーーーーーっとぉ。」
まぁ綺麗。口の中からまるで妖精さんでも飛び出したかのようにって、単にきらきらした息(ナノマシン)が飛んで行っただけなんだけど。
一番前に居るやつから順に、キラキラと光る粒子になって俺の中に入ってきた。そして最後の一人が消えた時、抑えていなかったエレベーターの扉が閉まった。
資源は無駄にしない。これ宇宙の鉄則。生きた人間も死体も、分解したものはすべてエネルギー資源として美味しくいただきました。
「あっ。」
「おーーーい!!」
あーー。ちょっと浸っている間にまた降りて行っちゃったわぁ。失敗失敗。
またさっきみたいなのが来るのかなぁ?あの絵面はちょっと二回目は勘弁してほしいわ。
おっ。閃いた。
「エレベータの箱の上に乗って降りようか。」
「何でそういうことになった雨宮!」
ちちちっ。分かっていないなぁ。テツが一人乗ればもうこんなエレベーター何て一発で・・・ってまた上がってきた。
「おいっ!また上がってきたそ!」
「切嗣そんなに慌てるなよ。テツここ潜って行けるか?」
「行けない事は無いがなぁ・・・ちと狭いぜ・・・?」
「狭いなら・・・。」
よいしょっと!
自慢の怪力で扉を十字に拡張してみた。若干天井がへっこんだのもご愛敬。これならいけるだろう。
「どぉよ!」
「これならいけるが・・・。」
「銀河君来たよ!」
結構なスピードで上がってきたエレベータの箱だが・・・きっとまた・・・。
しかし中身が空でも、テツが乗ればそれだけで普通サイズの人間用のエレベーターはもう耐えられんだろう。よっぽどこいつが軽くでもない限りは・・・。
しかしこの見た目で実は65キロですとか無いわな。五メートル近くあるし、どれだけ少なく見積もっても五百はあるだろう。
それに俺の設定した体重の二人合わせて、約九十キロ、そして俺も八十はあるし、他のメンツも六十五は固い。そしてこのエレベーターの重量制限は六百五十キロ。
狭いんだよな。そしてちっさいんだよ。用途に合わせてなんだろうけどな。
よしタイミングを計って・・・・。
「みんな一斉に飛び乗るぞ。3・2・1・いけっ!」
どん!
ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ!!
「いーーーーーーやーーーーーーー!!!!」
今のは誰の声だ!!
千里とファムネシアは俺の両腕にしがみついているから間違えるはずないし・・・!
「タスケテ――――――――!!!!」
この空気が振動するようなデカい声は!!!
「おちるぅううううううう!!!!」
「「「「「「テツうるさい!!!」」」」」」
あいつも絶叫マシンとかダメな奴だったわ。すっかり忘れてた。強靭なあの体を以てしても克服できなかったのか。
三半規管の訓練が甘いな・・・。
「テツ!!叫んでばっかりだと怪我するぞ!すぐ着く!みんな堪えろ!」
どおおおおおおおおおおおおおおおおぉん!!!
ふう・・・。今まで全く意識していなかったが、この監獄の中はどうやら1G普通にあるようだ・・・。
強靭な体でよかったぜ。
「ぐふっ・・・あ・あまみや・・・?何か俺たちに言う事は無いか・・・・?」
「銀ちゃん・・・。問題は無いんだが・・・問題は無いんだが・・・。」
「お前らみんな冒険者だろ。気にすんな!」
「「「大丈夫だけど納得いかないんだよ!!」」」
仲いいな!・・・みんなそろったのは久しぶりだなぁ・・・。よく考えると。そんなに折り重なって・・・。
箱に飛び乗ってから、絶叫し、暴れたテツのせいで、女子二人以外はテツの下敷きになっていた。俺?俺は離れてみていたよ?
「ほらテツしっかりしろ!もう着いたぞ!」
「ひでぇよ雨宮の・・・俺が絶叫系ダメだって知ってただろうに・・・。」
「さっき思い出したんだよ!・・・。お前が死んでからは結構長かったからな。ちょっと忘れてたわ。」
若干1Fの扉より下だな。メンテナンススペースってやつかな?ちょっと上から血が落ちてきている。
「登るか。」
「テツ!あの扉の下に手が届くでしょ?ほら早く!」
1Fの扉は開きっぱなしになっているが・・・人の気配がしないな・・・?
ってあそこに手をかけるのか?勇気あるなテツ。
「こうか・・・ぬぁ!!!キタネっ!!」
千里・・・恐ろしい娘・・・。あいつ分かっててやったろ絶対・・・。
血まみれになった両手を俺に見せるテツに若干引きながら、ナノマシンで綺麗にしてやった・
「まだぬるぬるしてる気がする・・・。ちょっと肉片触ってしまった・・・。」
「意外と繊細だなお前・・・。ほら、上も多分ちゃんと綺麗になってるから。」
「はいよ。」
そして俺たちは一人づつテツの背によじ登り、1Fにたどり着いた。
1Fも他の階層と、変わらない景色が続いていた。変わっているとしたら若干部屋の感覚が広いか・・・?というのと。
右足の膝から下の無い死体がエレベーターの目の前にあるくらいか。
「こいつの脚だったのね。なむ。」
「不憫な奴だなぁ。」
パンパンと仏さんに手を合わせて息を吹きかけ分解する。お前も俺の糧になるといい。
「おーい!!雨宮のー!扉の周りを広げてくれー!!でられーん!」
あんまり壊すとまた怒られそうだが、もう結構やっちゃってるし今更か。っていうか俺が治せば万事解決じゃないか?
今思いついたわ。
「よっ。ほっ。ほら上がって来い。」
俺は手を差し出すような真似はしない。なぜなら何だかまだ手が汚い気がしているから。いや。俺が綺麗にしたんだけどさ。
水って大事だな。後石鹸も。気の持ちようだが、それも大事ってことだな。
「よっこいせっと。おや?誰もいないじゃないか?」
(雨宮!デカスだ!F10を降りたところで下の奴らと出くわした!急いでくれ!あまり堪え切れる気がしない!)
・・・?何をそんなに慌てているのか?各国のエリートだろ?大丈夫なんじゃないのか?
「デカス!何があった!」
(吸血鬼だ!F1の奴らが全員、吸血鬼になっている!ものすごい数が押し寄せているんだ!!長い時間は抑えきれない!!)
こんなこともあるのか!という事はまだ実態のしれないF8の吸血鬼がラスボスってわけか!・・・?
「F1に来てしまった!!エレベータもぶっ壊しちまったぞ!」
(なにい!どうすんだ!)
ほんとにどうしようか?上に上がる手段が・・・・・・・ん?そう言えば、刑務官たちはどこに引き上げていったんだったか?
「新庄、とべっちゃん。刑務官はどこに引き上げていったんだ?刑務棟ってどこにあるのか知ってる?」
「刑務棟・・・。刑務棟・・・。そうだ!確かF1には刑務棟に繋がるところがあったはずだ。」
「そうだな。俺も見たぞ?カードが無いと開かない扉があるんだ。」
俺も見たぞって。まぁテツはここに居たらしいから分かるのか。
「じゃぁそこからならいけるか?」
「お待ちくださいマスター。」
ん?なんかこのやり方がもう板についてきたな?服の裾が伸びてしまいそうだ。
「どうした?」
「もっとナノマシンを使いましょう。・・・時間の無駄です。」
無駄!・・・・確かに!・・・俺は何でもっとナノマシンを使ってこなかったのか!あ。
そうか・・・エネルギー問題を指摘されてから、消極的になっていたんだな。出来る限り自力で補おうとしてしまったのが返って仇になったな。
無駄な時間だったな確かに。よし。逃げられても困るし、エレベーターは・・・そうだな。このままでいいか。
どうせ血霊病になった奴を放っておけないし、非常階段で行くか。その前に。
「ナノマシンでF8の扉が開かないように固めておくか。」
「その意気ですマスター。」
「そうだろ?」
親指をおったててファムネシアに答えた。後はちょいと急いでいかないとな。
「非常階段から上がる。全員の神経伝達をぶった切ってやれば動かなくなるだろ。」
「流石に吸血鬼だしな。そんな状態の奴が動いたらもう只のゾンビじゃないぜ。」
「いや死んでないから。」
千里の冷静なツッコミもキレがよくなっている、切嗣も千里も余裕が出てきたな。
俺たちは急いで非常階段、エレベーターホールの真裏に当たるところまで来たわけだが・・・。
「ねぇ・・・何の臭いかわからないけどすっごい臭いね。」
「マスター。臭いです。」
「ファムネシア。その言い方だと俺が臭いの発信源みたいだからやめような。」
この臭いは若干覚えがあるような?っていうか。濃い血液の臭いだな。後、脳症。混じると臭いのな―。
「ふーーー!!とりあえず俺の周囲は臭くなくした。さぁ上がろうか。」
「そのナノマシン私にも寄こしてよ!」
あれ・・・?
「千里とファムネシアは同じことが出来るだろう。俺の眷属だそ?ナノマシンの管理権限もある程度付与しているからできるだろ?」
「え・・・?聞いてない!初耳!でもできるっぽい。」
「ポイじゃなくて出来るの。」
すると、千里を中心に柑橘系のフローラルな香りが漂い始めた。
「ここまでする必要あるか?」
「良い匂いの方がいいわよ!」
「まぁいいか。」
上の方では怒声や殴り合う音が響いている。時々女の声も聞こえるから、アンジーも合流しているのだろう。
毎度後手後手になっているのは、俺がナノマシンを使いこなせていないからだな。反省しなくては。
「片っ端から分解していく方が楽だが。」
「今回は私にやらせて!折角ナノマシンの使い方が分かったんだから、やってみたい!」
さっきの臭いで味を占めたのか、千里が手を挙げて詰め寄ってきた。
「どうするつもりなんだ?意識が無くなればいいんでしょ?じゃあこうよっ!」
うわっ!物理攻撃!千里はナノマシンで階段の手すりを変形・・・改造し、全自動撲殺機を作った。
死ぬんじゃない?あれは・・・。
「おい雨宮千里!死ぬんじゃないのか!?」
「千里?見るからに頭蓋が陥没しているのですが?」
「止めた方がいいかこれ?」
「銀河君!どうしたらいいのかわかんない!」
「ノープランかよ!」
俺は急いで全自動撲殺機を分解し元の手すりに戻した。その流れでナノマシン達に最初の案を実行させた。
「崩れ落ちたぜ?あいつら。殺したのか?」
「そんな訳にはいかないだろう?意識はあるが動けなくした。さっき言っていたやり方でな。」
「運動神経だけ切ったのか・・・。」
「正確には堰き止めただけだがな。すぐ元に戻せる。さぁ行くぞ。」
突然動かなくなった操られた囚人たちに戸惑いながらも上に居たほかのメンバーは、せっせと手足を縛り拘束していった。
「よぉ!とんでもない事になったな!」
「ゲイルも無事だったか。」
「ちょっと引っかかれてぐらいよ!」
ん?引っかかれた?
「お前そのひっかき傷に、あいつらの血が掛かったりしてないだろうな?血霊病になるぞ?」
「ん!?んんん!!あの乱戦の中じゃわかんねぇよ!」
スキャンしてみるか・・・。
ーーーーーー
ゲイル・セイハート 29歳独身 獣人クオーター
状態 病気(血霊病)
疲労(重度)
ーーーーーー
アカーン!これあかん奴や。
「ゲイル!お前もう下がってろ!!感染してるし!!すぐ治してもらえ!イファリスだったか?あの娘に見てもらえ!」
「ゲッ!マジか!」
「そのせいかもしれないが、疲労も重度になっているから気をつけろよ?」
「あぁ・・・なんだか体が重いな・・・。」
ゲイルはござるに肩を狩りて上の階へ戻っていった。他にももしかしたらいるかもしれないな。
「他は大丈夫か?」
「わかんねぇ・・・気にしてられなかったからよぉ・・・。」
「仕方ないな・・・相手が後どのくらいいるのかわからんが、皆はここで引き返してくれ。」
「でもよぉ!」
「操られでもしたら目も当てられん。後ろから襲われて反撃しない自信は無いぞ?」
そういうと各国のエリートたちは上の階へ戻っていった。結構な人数が疲労感を訴えているようだ。
感染者も少なくなさそうだな。
「病気を治療できる奴はそっちに専念してくれ。俺たちはF8に乗り込む。」
きっと凄く恐ろしい強さを持った敵に違いない。これだけの囚人を従えるなんて、吸血鬼恐るべし。
「気を引き締めていこうか!」
「銀河君が狂った・・・?」
「マスター。ナノマシンによる精神の鎮静化を・・・・。」
「酷くないか!!?」
二人顔を寄せ合って酷いことを言い出した。ぐぬぬ。そのうち覚えておれ・・・。
そして俺たち主力部隊はF8の扉を開けたのだが・・・。
「誰もいないな。」
「そんなはずは・・・。入れ違いになることもあり得ないだろう?」
「移動スキルを所持している可能性はあり得ます。」
「その可能性もあるが、それにしてもなぁ。俺が来たときはまだ結構人がいたはずなんだが。
半日以上たっているとはいえ、全く人が居なくなるなんて、有り得るのか?」
・・・確かに切嗣の言うこともわかる。こいつがスキルを使うときは、かなりのエネルギーを消費するらしいしな。
数百人を一度に動かすなんてことまず出来ないと思うが・・・。
「銀河君みたいにナノマシンを使う可能性は?」
「それだけはあり得ない。今現在この世界に存在するすべてのナノマシンは俺の管理下にあるからな。新たに別のナノマシンを作り出しでもしない限り不可能だ。」
「それはそれで凄い事だな・・・。」
とべっちゃん。そんなに呆れるなよ。オーバーパワーなのはわかっているさ。
「・・・ゼルミィには悪いが、手っ取り早くいかせてもらうか。俺もこれ以上時間をかけたくない。」
「雨宮。何か他に懸念が?」
「いや。飽きた。」
こればっかりは性分だ。仕方ない。俺の行動理念は面白いかどうか。これだけだ。
俺は近くのコンソールに息を吹きかけ、監獄戦艦ヘルフレム全体の完全掌握をナノマシンに命じた。電子的な事には時間があまりかからないらしい。
ナノマシンも進化しているのだろうな。あっという間に俺の脳内に船内の完全なマップが表示される。目標は居るな。二人か。いや、三人。他の奴は刑務棟の入口に殺到しているみたいだな。
こっちはほっておこう。少し痛い目を見てもらわないとな。
「どうよ雨宮?」
「見つけた。855号室だ。中に三人いる。」
「三人?吸血鬼野郎と後は誰だ?」
検索・・・。むぅ?情報なし・・?ともう一人は、ジェラール・バイクマン・・。海賊か。
「一人は情報なし。よっぽど目立たない程度の奴か、別世界の存在だな。もう一人はジェラール・バイクマン。海賊だそうだ。」
「雨宮の。バイクマンはF1のボスみたいなやつだ。俺は面倒何で無視していたが、そこそこの力のあるやつだぞ。吸血鬼とはいえF8程度ではどうにもならん奴だろう。」
「マスター。情報の無い存在が気にかかります。急ぎましょう。」
ーーーーーーーーーーー
855号室前
死体だらけだな。まさしくブラッドバス。血の海だな。非常に不快なにおいが充満している。
「うぇぇ。銀河君私もう帰りたいよ・・・。」
「どこに帰るところがあるってんだよ。突っ込むぞ。」
俺は前蹴りで扉を蹴破って室内を確認した。
二メートルほどある大男が一人、こいつが海賊か。そして小柄な男が二人。一人は海賊にアイアンクローを喰らって持ち上げられている。
もう一人の小柄な男はこちらに気付くと紫色の煙を吐き出した。
「マスター!ウィルスです!撤退を!」
俺はとっさに後ろを向いて他のメンバーを外に突き飛ばしたあと、ナノマシンで鉄板を作り部屋をふさいだ。
「迷惑な体質をしているんだな毒男。」
「へへっへっ。残ったのは命取りだったな?俺のウィルスは致死性だぜ?つまり・・・」
「問題ない無毒化した。」
ナノマシンにかかればたかが細菌。どうってことは無い。うちの娘達は最強ですのよ。
「で・・出まかせを!俺のスキルは人種には特に効くんだ!」
「普通の人種には。だろ?獣人にも効かないし機人種にも効かない。デーモンにもエルフにだって効かない。」
「・・・・うぐ・・・。」
「人種にしか聞かないウィルスしか使えないんだろ?」
「ほぅ?そいつは良い事を聞いたぜ。じゃあ俺にも効かないんだな!」
そういうと海賊の男は持ち上げた吸血鬼の男をぶん投げて、毒男に叩きつけた。
「ぐぅえっ!」「がっ!」
毒男は気絶したようだな。
「この吸血鬼野郎はなかなかしぶとくてな。F1に居ないのが不思議なぐらいだぜ。」
そこでやっとおれの方に向き直ったが、二メートル越えって言っても俺も似たようなものだから、そんなにデカいという感覚は無いな。
「ほう?お前が噂の雨宮銀河か。ここを乗っ取るんだってな?俺を差し置いて?」
「差し置くも何も。もう俺の物だからな。物理的に。も電子的にも。」
ピリピリと肌を伝う空気に熱がこもったような気がした。怒りか?殺意が無いな?
「ふん。口だけは達者なようだな。」
「俺にはただお前が哀れにしか見えない。もう喋らない方が自分の為だぜ?恥ずかしい。」
煽り耐性はあまりないと見える。さっきより怒気というか、ピリピリがキツくなってきた。
まぁ。只それだけなんだが。
「死にたいようだな。」
「ごめん。もう喋らないでもらってもいいかな?可哀そうになってきたわ。同情して涙が・・・。」
うむ。これで完全にキレたかな?かぁいそうなこ・・・。
何を我慢していたのかは知らないが、両手は出血を伴うほど力の入れようだ。爪が肉をつぶしているんだろう。噛み締めた歯からも血が出ている。
リンゴを噛むとお尻から・・・。じゃないな。
「何プルプルしてんの?お漏らしした?しちゃった?ごめんね―怖かったねー?僕ママのとこに帰れるかなー?おじちゃんが送ってあげようかー?」
見るからに血の流れが変わったのが分かるな。両手は力を込め過ぎて真っ青。顔は力み過ぎて真っ赤になっている。
「ゴロズウウウウウウウウウウウ!!!!!!」
おー!!獣人だったか!!獣化って初めて見たわ!!かっこいいJAN
「GURRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!」
でもこいつ・・・正気をなくしてないか・・・?白目剥いてるし。顔面の形も変わったな。狼・・・?にしては妙に目がデカいな?
・・・・?この目はまさか・・・。
「昆虫のハーフとかってありなのか?」
間違いないこの目は・・・ハチだ。
完全に獣化した奴は、ケツの下からデカい腹が現れて、その先には見覚えのある針が見え隠れしている。そして背中からは、昆虫独特の二対の薄羽が生えていた。
「こいつは驚いたな・・・。てっきり脊椎動物系の獣人しかいないものだと思っていたぜ。」
完全に獣化したからだろうか?さっきよりも冷静になっているような感じだ。というより、本能で俺に対して恐れを抱いているような気さえする。
さっきから口元からは黄色い泡を吹きだしているし目はギラギラどこを見ているのかわからない。だが腹がデカすぎて足で立っていられないのか羽でずっとホバリングをしている。
このまま見合っていても勝手に力尽きそうだが・・・。
「SYUIIIIIIIIIIIIIIIIIIIII!!!!」
おー。威嚇してる威嚇してる。めっちゃ腰が引けてきているな。しかし昆虫か。昆虫は追い詰めるとほぼ確実に最後の一撃を狙ってくるからな。気を付けよう。
「どうした?本能が逃げたいって叫んでいるぜ?後ろは宇宙空間だがな?ぶち破って逃げてもいいんだぜ?
その位の力はあるんだろ?」
見るからに焦りだしたな。獣っぽさが残る部分から汗が噴き出してきた。口から出る黄色い泡も尋常ではない。
「あっ。」
しまった!追い詰め過ぎたか!
俺が一歩踏み出した瞬間を狙っていたのか、一瞬のうちに天井に頭をしこたまぶつけてまで、俺に針を突き刺すべく腹を突き出してきた。
「まぁ。躱す必要も無いんだが。」
産毛のようなものにおおわれた腹に自分の手をめり込ませ、摑み止めた。痛覚はあるのだろうか?けっこう深くめり込んでいるようだが・・・。
「これって針だけ引っこ抜いたらどうなるんだろうな?昔針には内臓がくっ付いているから、針を刺したら自分も死ぬしかない・・・みたいなことを聞いたことがあるんだが?」
そう言うや否や、俺は突き出された返しのついた針を、つんつんつついてみると、もんどりうって本体?獣人の体の部分がビクンビクンしだしたことに驚いた。
「痛いのか・・?ひょっとして?」
そしてつんつん。も一つつんつん。
ビクンビクンと、反射神経だけで体が動かされているような症状に少し面白くなってきたが・・・。
「そろそろ終わらせてやるか。最後に一度だけ聞いてやる。俺の手下になるか、死ぬかどっちがいい?どっちでも選んでいいぜ?
選びたい放題だ!」
そう言うと、奴の体はみるみるしぼみ、飛びだしていた蜂の腹や羽は体の中にしまわれたようだ。
元の人の姿に戻った奴は、綺麗なDOGEZAスタイルだった。
「手下になります!!!。どうか無礼を許してください!!!」
「これにて一件落着ってか?」
それはそうと・・・。
「ジェラールって言ったか。お前この毒男と仲間なのか?」
「とんでもございません。私目はこ奴にそそのかされて手下を上に攻め入らせたところ、吸血鬼に全員手下をかすめ取られただけでございます。」
DOGEZAスタイルを崩さないまま状況報告をしてくれた。
そそのかされて・・・ね。
「こいつがF1に来たのはいつぐらいだ?」
「わかりませぬ。気が付いたらF1に居りました。誰もこやつの名前も出自も何も知らないのでございます。」
「本人に聞くしかないか。」
俺は気を失った毒男に近づくと、息を吹きかけ、乗っ取りをかけた。
この男の顔はどこかで見たことがあるような気がする・・・。
ーーーーーーーーーーー
F10にて
あ”ーーーーー。体がだるい・・・・。かゆ・・・うま・・・。
「大丈夫ですか?すぐに解呪します。」
おぉおぉおぉおぉおぉ?なんだなんだ!!?この体の内側から力が沸き上がる感覚は!!
「はい。もう大丈夫ですよ。あまり無理をしないようにしてくださいね?」
天使か!?このゲイル・セイハート。君に惚れたぜ!
「俺と結婚してくれ!!!」
「ハイハイまた今度ね。」
うぐっ!!振り向きすらしなかったぜ!
「そんな事を言わずに!!俺と結婚すると今なら特典がついてくるぜ!?」
しまった・・・。ついノリで意味の分からないことを・・・。
「特典とは・・・?」
釣れた!?ちょろい・・・のか?
「俺の嫁になるともれなく!俺の借り上げた俺専用のトレーニングジムが使いたい放題です!」
「賃貸ですか・・・話になりませんね・・・。」
「えっ」
すると天使は他の奴の解呪に行ってしまった。
「安月給じゃ賃貸が精いっぱいなんだよぉおおお!!!!」
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