迷光少女 Stray light girl

大太犬尤

第1話 自閉都市渺茫

電脳幽霊街ゴーストタウン、、、ゴミ溜め 吐き溜め 文化の最果て。よく言われる事だ、だが連中には文化なんてモノは分からない。文化というのは僕らが猿だった頃、洞窟の中で仲間達の煩い喧騒からのがれ一人静かに壁に向かって絵を描いたヤツから産まれたんだ。分からないヤツらとはそもそも、生物学的に分類が違う。


この都市は完全に自閉している、外からフラッと話しかけたって会話は成立しない。というか話したくねーよという意志を会話を成立させない事で示す、スマートなワザだ。

世の中コレが分からないヤツ意外と多い。

それはさておきココには様々な芸術がある。

素晴らしい夢を見せるデザイナーズドラッグ 。懇ろになった女に好みの人格データをインストールして過激に遊ぶ人形劇ドールソフト 。それらの購入を可能にする地上のサーバーを光速で交錯するソフトウェア"bladerunner" 。だがしかし、ココがゴーストタウンと呼ばれる所以、それはこの共感覚幻想マトリョシカだろう。


コノ場所で、僕達は同じ夢を幻視る。

この幻想都市は内部に向かって拡張していく、いずれ来るパンクに向かって細分化する論理で僕等はバベルの塔にバベルの塔を一捻りして虚空に挿入、ハジマリとオワリの上を無限に廻り続ける二重螺旋の都市構造を綴っていく。


僕はコノ都市の壁に描かれる夢幻の芸術に夢中だ。虚無的で刹那的、意味も放棄した屈折した論理と人の声帯では発話できない冒涜的な音節のナンセンスな狂奔冗句ジョークを書く"犬儒学派ディオゲネスクラブ"。

かつて描かれた名画や前時代の女優、ランダムに更新される女達の自傷画像を勝手にスプラッターに彩り複製し羅列する、"腐爛熟塩漬朒フランシスベーコン"。

幻覚の街並みの更にソノ奥に見た人間のトラウマを刺激するサブリミナルを走らせている"森贄モリニエ"。

三つ目の畸形の甲虫のロゴを使って至る所にリンクを貼り、加工した戦地の音声データをリアルタイムで配信し続ける"In Utero《胎蔵界菩薩》"なんかもいる。

そのどれもが挑発的で、こういった有名どころ以外にも様々な試みをしているヤツらがいる、それについて何の役にも立たない批評を繰り返す。炎上マーケティングに薪をくべ続ける集まり それが拝火教徒、そしてそのサービス、焚火教団sns_bonfire.netだ。

もちろん僕も拝火教徒ユーザであり、結構長いことやってる。不毛の大地の不毛な遊び。現実豚の餌における"愚能死す主義二元論"にも負けず劣らずの場所だ。でも、ココが僕の居場所。誰もが何にもなれうる夢の中で不眠症の僕らは、ウツラウツラと、焚火を囲んで夢の残像を追っている。


そしてその日も僕は、電脳幽霊街ゴーストタウン没入ディペンデンスした。幽霊街の焚火にフラフラと彷徨う幽霊、それが僕だ。



廃棄された大手ドラッグディーラーの取引所が在った格子点グリッドの裏、フリーアドレスが羅列した、忘れ去られていく論理階層のソノ壁に"SHE《彼女》"はいた。

よく出来ていると思った。電子の妖精なんて、蠅も寄ってこないような甘ったるい表現が浮かんだ。いつか忘れたぼくたちの、ayanamiray《非可視光線》との第三世界の権現か?なんてこった、オールアポロジーズ! 僕等はみんな虚勢をはって去勢された反生殖主義の肉食主義なエブリワンイズゲイな男の娘じゃないのかい?


"SHE"は同時多発的だった。聖なる焚火にくべられた一本のスプレー缶は爆発炎上。

そしてソノ煌々とした誘蛾灯に群がっていく、不眠症の蛾が踊る。二度とは戻れぬ入れ子人形の幽霊の街。


彼女SHEは、闇の中で惑う乱反射するストレイライト。閉ざした心の壁に描かれた、いつかの僕等の夢の少女だったんだ。


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