第3話 アルモ家での1日
─AM6:00─
朝日を浴び、ゆっくりと目を覚ます。
今日は久々にぐっすり寝れた。
隣の部屋の人が暴れている。
兄だ。
兄はバイトを今週一杯はやるつもりだったらしい。
「─ア゙ァァァァァァァァ」
兄の悲鳴が聞こえる。
そして、大慌てで部屋を出ていった。
ワルガキでもさすがに遅刻は焦るのか?
いや、焦らないだろう。
兄ちゃん案外根は普通なのかもしれない。
真面目なときもあるし。
でも犯罪には手を染めないと言えど、学校では問題を起こす。
授業妨害、喧嘩、行方不明等...
そう思うと、兄の性格は本当に不明だ。
─AM7:00─
トントン
「修司様、お食事の用意ができました。」
「分かりました。」
読んでいた本を本棚に戻し、部屋を出る。
と、同時に美奈も部屋を出る。
「あのベッドすごくフカフカだった。」
美奈が幸せそうに語る。
思えば今まで避難所生活だったからな。
久々にぐっすりと寝ることができた。
美奈と喋りながら歩いていると、ラバス出現。
彼の威圧感は常時半端ない。
こちらを見ているだけだろうか。
しかし、僕らからすればめちゃくちゃ睨まれているようにしか見えない。
「お、おはようございます。」
「よく寝れたか?」
「はい、お陰でぐっすりと。」
「そうか」
今のラバスから昨夜の涙が想像できない。
するとルートアも出てきた。
彼はわりとイケメン風の男性であるが、こちらも不思議と威圧感がある。
2人の威圧の合算値が凄いことになっている。
ヤバイよヤバイよ、逃げたいよ。
美奈も顔がガッチガチだ。
「おはようこざいます、父上。」
「ああ」
2人が恐怖の挨拶を交わす。
彼らにとっては普通かもしれないが、こちらからすれば、ラバスとルートアの会話は喧嘩腰にしか聞こえない。
一触即発の会話だ。
するとルートア目線が僕らに。
目がギョロリ。
ひぇーーーー!
震えが止まんねぇーーーー!
するとルートアはこちらに視線を向けた。
「おはよう修司君」
ルートアの顔が微笑んだ。
その瞬間、彼の威圧感が引っ込んだ。
そんな彼は、普通に好印象の持てる男性であった。
これはあれだろうか?営業スマイル?
しかし、ラバスに目線を戻した瞬間笑顔は消え、再び威圧感が放出された。
なんだ?2人は仲が悪いのか?
そんなこんなで食堂に着く。
食堂には1人の男の子が座っていた。
エルダだ。
彼は驚きの顔でこちらを見る。
「あれ?修司先生、どうしてここに?しかも美女なんて連れちゃって。」
ん?美女?
ああ、美奈のことか。
エルダの言葉に美奈は照れている。
ちなみにエルダは僕らがアルモ家で暮らすことを知らない。
ひとつ屋根の下に居たのなら気づくでしょ?と、思うかもしれないが、昨日は1日中部屋に引きこもっていたそうだ。
親うざいとか顔見たくないとか思うお年頃なのだろうか?
席について昨日のことを話すと、彼は少し嬉しそうだった。
僕...ではなく美奈が一緒に暮らすことに。
なんだ?エルダは女好きか?少年のくせに?
少年といってももう中1だが。
エルダは現在貴族中学に通っている。
授業は基本午前のみ。
習うのも基本学問。
魔術を習わないのは、貴族の身分であれば魔術師は雇う、もしくは家庭教師をつければいいという理由からだ。
一応、少しは魔術を習うそうだ。
特に学校では文系要素の強いことを中心に習っている。
その後帰宅し、午後から僕による理系科目の授業をするのだ。
しかし、僕らもこれから魔術師学校に通うため、生活パターンがガラリと変わる。
僕らはこれから1日中魔術師学校に通うらしい。
休みは週1で、わりとハード。
僕の授業もそれで取り止めになるそうだ。
エルダは残念そうにしている。
僕もだ。
何だかんだで彼に教えるのは楽しかったからな。
しかし、これも仕方がない。
僕らも依頼を引き受けたからには、任務を全うしなければならない。
まあ、夜に余裕があればちょくちょく教えられればいいと思ってる。
魔術師学校に通い始めるのは、兄がバイトを辞める翌日、5日後だ。
それまで、たっぷりとエルダに勉強を叩き込もう。
食事後、僕は美奈を誘って書斎へと向かう。
これから魔術世界の英語、通称魔語の勉強をするのだ。
こちらの世界で生きていくのなら、ましてや将来冒険者となるのならできるようにならなければならない。
ということで、とりあえず午前中は魔語のお勉強。
メイティア王国では幸いにも魔語と日本語両方が通じる。むしろ、日本語の方が通じる。
おかげで魔語の教科書はすぐに見つかった。
が、これはかなり気が遠くなりそうだ。
まず、魔語自体が独特であること。
一応、平瀬に住んでいるときから魔語には触れていたため、最低限のことは分かる。
しかし、魔語も日本語と同じく感情表現豊かな言語だ。
完全習得は死ぬまでかかるだろう。
ましてや、母国語である日本語ですら完全習得してないのだから。
そんな感じで、僕らは魔語の勉強を始めた。
―2時間後―
なんか魔語の勉強が楽しい。
大変だと思っていたけど、案外単純だ。
とは言うものの、美奈は完全に飽きている。
目がとろんとしていて眠そうだ。
なんて思っていたら、美奈が突然何かを思い出したかのように立ちあがり、部屋を出ていった。
45分後、美奈が手に袋を持って帰ってきた。
何かを買ってきたらしい。
パッと見た感じ本だ。
参考書でも買ってきたのかなと感心していると、袋の中からマンガが出てきた。
勉強を放り投げてマンガだ。
見たことないマンガだ。
一応メイティア王国では、日本の漫画家に憧れてマンガを描く人もいる。
そういった人の作品だろうか?メイティアにはマンガとかアニメとかといった店が結構ある。
もしかしてこっちの世界にもアから始まり、ニメイと続き、最後がトで終わる店とか進出していたりして。
いやいや、そんなことより魔語の勉強だ。
事は一刻を争う...のかどうかは分かんないけど、早いことに越したことはない。
美奈が隣で楽しそうにマンガを読み、ゲラゲラ笑う様子を横目で見ながら、僕はひたすら魔語の習得に励むのであった。
腹減った...
昼食を終え、しばらく魔語の勉強をした後、エルダの部屋に向かう。
ちなみに午後は美奈は魔語の勉強に顔を出さなかった。
コンコン──
「修司です」
「あっ、いいよ、入って」
「失礼します」
エルダの部屋は綺麗だ。
きちんと整理整頓されてるし、掃除も隅々まで行き届いている。
そんな綺麗な部屋の中で一際目立つ場所。
巨大な本棚だ。
エルダはわりと勉強熱心だ。
ゆえに、そういう堅苦しい本がたくさんあると思っていた。
もちろん0ではない。
が、この部屋にはあるものがびっしりと並んでいる。
それは、マンガ、ラノベ、アニメボックス...
エルダはあれである。
オタクだ。
しかもかなり重症かもしれない。
なぜか?巨大な本棚にはおそらく巨大店舗の売り物を全て買い尽くしたであろう量がある。
ちなみに、ポスターやら色々飾っている部屋もあるらしい。
オタクにとっては神々しいだろう、聖地だろう。
まるで秋葉原の一角をそのままコピーして持ってきたみたいだ。
そんなことはどうでもいい。
とりあえず気を取り直して授業を始めよう。
と思ったとき、部屋のドアが開いて誰かが入ってきた。
美奈だ。
「エルダくぅん!マンガ読ませて~」
おいコラ!駄目に決まってんだろうが!お前は魔語の勉強しやがれ!というか何だその喋り方は!礼儀がなっとらんぞ礼儀が!
なんて思っていたら
「もちろんだよ美奈さん!好きなだけ読んでいってくれ!1日中いてくれても構わないさ!なんせ僕の図書館は24時間営業だからな!」
あー、これ、完全にエルダは美奈を気に入ってますわ。
そして、美奈は完全にそこに付け入ってますわ。
ちなみに言うと、美奈は中学2年である。
年が1年しか離れてないので、案外親しみやすいのかもしれない。
だからマンガ読みに来ていいって許可が出たのかもしれない。
「わーい!エルダ君ありがとう!大好き!」
「いやぁ~」
芝居のうまい妹である。
一応美奈はいるが、授業を進める。
が、授業を進めていると聞こえてくる。
「アハハハハハァ~」
時々聞こえる爆笑の嵐。
もう少し場をわきまえてほしい。
外では一応わきまえてるのに、家での態度は予想がつかない。
何回か嵐が襲ってきたのでキレそうになるが、エルダ止めてきた。
彼女が楽しそうで何よりらしい。
僕らは嵐の中、授業を終えた。
「授業内容入ってきた?」
一応確認はとる。
あれでは理解できてなくてもしょうがない。
「大丈夫です」
「本当に?」
「はい、普通に分かりやすかったです!」
「ならいいけど...まあ、分かんなかったらまた声かけて。」
「ありがとうございます。」
家庭教師としての日数も残り少ないから楽しみたいというのに...
僕はブツブツ不満をいいながら美奈を引っ張り出して部屋を出た。
「修司兄ちゃん!引っ張り出すことはないでしょ?」
「あのね、僕らはエルダの両親に助けてもらって今ここで暮らしてるの。もうちょっと立場をわきまえてくれ。」
「はーい」
美奈は少し悲しそうな顔をしていた。
「嘘泣きしても駄目だぞ」
「チッ」
なっ、美奈が舌打ちをした。
恐ろしや。
ちなみに、その日は夕食を除いて、寝るまで魔語を叩き込んだ。
エルダは少し寂しそうな顔をしていた。
お前らどんな間柄だよ!
まだあって1日だぞ!
意気投合しすぎだろ!
いや、美奈が付け入ってるだけか。
エルダ、可哀想に...
そんなこんなで、アルモ家での初日を終えた。
─AM3:00─
トイレに行くために部屋を出る。
ゴンッ─
何がドアに当たる。
恐る恐るドアを開ける。
次の瞬間
僕は尻餅をつき、後ろに下がった。
あまりの衝撃に声がでなかった。
目の前で人が倒れていたのだ。
微動だにしない。
すでに死んでいるのかもしれない。
僕はそう思って動いた。
恐怖から逃れるように蹴ったのだ、こう言いながら。
「兄ちゃんはよ部屋戻れや!風邪引くて!涎垂らすな!汚ないなぁ!」
すると兄は目を覚まし、寝ぼけたまま僕の前に立ちあがり、
「☆△♪◯%▼◇★*」
「響くわ!あと何言ってるかわからん。」
そう言いつつ、寝ぼけた兄を部屋に放り込んだ。
その後トイレから戻ったあと兄の部屋を覗くと、兄は床の上に倒れ込むように寝ていた。
「兄ちゃんお疲れです。あとちょっと頑張って。」
そう小言を言いながら、僕は再びベッドに戻って寝た。
─AM6:00─
昨日のような慌ただしさのない清々しい朝。
僕はベッドから下りて、背伸びをしながら朝日を浴びた。
(今日は遅刻せずに行けたかな。)
なーんて思っていると、ちょっと嫌な予感がしたので、兄の部屋を覗くと...
何ということでしょう!
兄が仰向けになって涎を垂らしながら気持ち良さそうにスヤスヤ寝ているではありませんか!
大江修司出撃!
これより、兄の夢を破壊しに行く。
一刻を争う事態だ!
至急行動せよ!
イエッサー!
目標3メートル先、厳重に警戒せよ!繰り返す、厳重に警戒せよ!
目標目の前!撃ち方始め!
そして僕は兄を蹴る。
「起きろぉーー!バイトはどうした!また遅刻だぞーーー!」
兄がフッと目を覚ます。
「よう修司。どうしたんだ?」
「兄ちゃん、時間」
「ん?」
そう言って、兄は時計を見る。
するとすぐに兄の表情は青ざめた。
「うぁーーーーーー!」
兄は血相を変えながら、急いで支度をして部屋を出ていった。
兄にとって忙しい日がまたやって来た。
まあ、僕らは気楽だけど。
あと4日で魔術師学校入学である。
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