異世界でハイテク機器を使って冒険します
@taniken999
プロローグ
技術世界 平瀬市郊外 朝
ドタドタ...
「...んふ~ん」
ドタドタ...
「あっ、もう...」
ドタドタ...バァーン!!!
「修司兄ちゃん!起きて!」
「おっぱい...」
パッと目が覚めた。
目の前に美女がいた。
ショートカットのきれいな黒髪に、やや幼さを残しつつも大人びた姿。
「ここも天国か...」
こいつは一体何を言ってんだと言わんばかりの顔で、妹がこちらを見ていた。
ここは平瀬市塚崎区。
市内中心部から地下鉄で20分程度の距離にあり、のどかな住宅街となっている。
平瀬市は他に3つの市と隣接しており、計4市で構成されている島である。
ある意味孤立都市と言った感じか...
ちなみにこれでも平瀬市は人口が100万人を超える大都市である。
僕は大江修司。
さっき変な寝言言って妹に引かれた奴である。
いや、引かれてはないよね?
ただ、いきなり変なことを兄が口走ったから、戸惑っただけだよね?ね?
僕は、両親と兄、妹の5人で暮らしている。
そして今起こしに来た妹が美奈である。
何でこんなに慌てているのか?
起きたばかりだと言うのに、これから昼飯を食べに行くらしい。
ん?って思うでしょ?
僕だってさ、最初、ん?って思ったもん。
まあ、そこは突っ込まずに聞いてくれ。
ちなみにまだ朝の5時...
「朝ごはん用意したから、すぐ食べちゃって。」
朝ごはんすら食べてないのに、なぜ昼ごはんを食べに行くために、こんなに急かされるのには訳がある。
今日食べに行くと言う昼飯は、なんと1週間に限定100食と言う幻のステーキらしい。
100食だよ!100食!
これには美奈もガチモード。
「陸人兄ちゃんも起きて!!!」
朝っぱらから元気だな...
特に食べ物ことになると、妹は熱が入るらしい。
朝5時半
僕たち3人兄弟は家を出発した。
両親はお留守番。
店の開店は12時半から。
これから7時間かけて昼飯を食べに行く。
はい?って思うでしょ?
ここもスルーで頼みます。
といっても距離的には地下鉄で25分、バスに乗り継いで30分程度の距離。
つまり僕たちは幻のステーキのために6時間並ぶのだ。
たかが昼ごはんのために、6時間待ち...
本当に妹の考えることは恐ろしい...
さて、地下鉄の出口を出ると、目の前には片側3車線の大通りがあった。
ここの通りは非常に賑わっており、たくさんの人が通行している...ハズだ。
人がまばらだ。
まあ、まだ朝だからね。
僕たちは地下鉄駅近くのバス乗り場へ移動、バスへ乗り込んだ。
大通りも比較的空いているせいか、バスはどんどん進んでいく。
バスに乗って数分、巨大な門が姿を現した。
凱旋門みたいな形をしている門だが、その大きさは桁違いである。
ビル10階分はあるだろうか。
門の中を片側3車線の大通りが通る。そこをバスが通行する。
長さは100メートル程度。
「さあ、メイティア王国に入ったわね。」
妹が呟く。
門を出るとそこも都会だった。
高層ビルが林立している。
しかし、ここは平瀬ではない。
じゃあここはどこなのか?それは───
「メイティア王国」である。
僕たちが入国したのはメイティア王国の首都、ケイネス。
実は、平瀬市とメイティア王国はひとつの世界地図では表すことができない。
というかそもそも世界地図の隅々を探しても見つかることはない。
つまり、この国は異世界なのである。
メイティア王国があるのは、魔術が発達した魔術世界。
対して、僕らが住む平瀬は技術が発展しているので、技術世界と呼ばれている。
そして、技術世界平瀬と、魔術世界メイティア王国を結ぶのがさっきの巨大な門。
「異世界交通路」
である。
この異世界交通路がいつできたのかは知らない。
ずっと昔からあるらしい。
人々はこの異世界交通路を使って、互いの世界を自由に行き交っている。
勿論、行き交うのは人間だけではない。
魔術世界の亜人や獣人、さらには技術と魔術までもが互いを行き交っている。
そのため、平瀬とメイティア王国を中心に、技術と魔術の両方を使った「融合術」というものが広まっている。
ケイネスの街並みを見る。
「メイティア王国の街並みって平瀬とあんまり変わらないよな。」
ふと兄が呟く。
実はそうなのだ。
平瀬とメイティア王国は、技術と魔術を互いに提供しあっている。
そのため、魔術世界にも関わらず、車やタクシー、バスがある。
他にも、携帯電話、家電量販店などもある。
本当に平瀬とあんまり変わらない。
あえて言うなら、こちらの方がいろんな種族がいること、魔術要素が平瀬よりもあること、共通語(日本語)以外の魔術世界の言葉を使っていること、あとは...それくらいしか思い付かない。
街を眺めていると、兄と妹の他愛のない会話が聞こえてくる。
「...実はさ俺、高校卒業したらこっちで働くつもりなんだ。」
「えっ、陸人兄ちゃんにそんな夢あるの。」
「正直魔術の方が面白そうじゃん。
高校とかすぐにでもやめて、魔術やりたい。」
そう、兄にはとあるものに憧れを抱いている。
それは、魔術世界の代名詞とも言われる職業、
「魔術師」である。
しかし、現実的にはかなり厳しいのである。
技術世界にいる以上、いくら異世界交通路があるとは言えど、僕らが魔術に触れる機会は少ないのだ。
それに、親もそれに関しては反対をしているのだ。
となれば、魔術に憧れを持ってしまうのは仕方がない。
「それでも中退してないってのがすごいよね。」
「でも、兄ちゃんは高校トップクラスの悪ガキで有名なんだよね。」
僕が会話に割り込むと殴られた。
そしてその勢いで手すりに頭をぶつけた。
痛ててて、
えっ?いきなり殴ったの?
だって本当じゃんか!
この前なんか...
そう思っていると、兄が口を開く。
「ったく、調子のってんじゃねーぞ。
本当に、お前は学年首席なんだからスゲーよな。
嫉妬してまうぜ。」
「別に大したことないよ。」
「そうやって謙遜するところがまたイラつく~。」
兄は若干機嫌が悪かった。
てか、何でいきなり殴られたんだろうか?
もしかして逆鱗に触れたか?
今度から気を付けよう。
色々会話をしているうちに、目的地に近いバス停に到着した。
ここから10分程度歩く。
辺りは閑散としている。
そして、目的地に着くと早速驚いた。
すでに20人程度が列を作っている。
開店までまだ5時間以上あると言うのに。
それでもこの行列。
(おっ、おっ、これは期待できそうだ。)
心のなかでそう思う。
実は僕もステーキでお腹を満たすために、お腹の準備をしてきたのだ。
何でもこの「肉物語」という店が出す肉は最高級のブランド肉である。
たぶん松阪牛の数倍は価値があるだろう。
肉のなかにはたっぷりの肉汁。一口噛めば肉汁が口一杯に広がる。
脂身はすごくあっさりしていて、いくらでも食べられてしまう。
そんなことを想像していると、口からよだれが出てきそうだ。
「ウフフフフ...」
何だ今の声?
ん?僕?
違う違う。だから、あれは寝言であって、僕は普段そんな変な声出しません!
そう自信を持っていたので、ふと横を見ると、口に人差し指を添え、目線を上に上げながらよだれを垂らしている美奈の姿があった。
彼女は妄想で昇天しかけている。
脳内彼氏と仲良くステーキを食べているのだろうか。
このままではまずい!
そんな妹を覚ますべく、顔の目の前で大きく手を叩いた。
それに驚き、ハッっと目を覚ました妹は転げて、尻餅をついた。
そして顔はちょっと悲しそうというか、残念そうというか...
「私のお肉ぅ~...」
ははぁん。やっぱり食べていたな。
食べ物には目がない妹である。
─1時間経過─
まだ8時にもなってないと言うのに人がくる。
ブルーシートを敷いている人や、椅子をおいて座っている人もいる。
その姿はまるで新型iPhone、あるいは福袋を手にいれるため、夜通し並んでいるかのようだ。
店はまだ空かない。
─2時間経過─
ちょっと疲れてきた。
僕は人間観察をすることにした。
数人後ろのカップルを見る。
カップルがイチャイチャしていた。
一発殴りてーとか思っていると、彼氏の方がバランスを崩し、転倒。
その際、前にいた男性の髪の毛を掴んでしまったようだ。
あとは言うまでもない。
男性の頭が輝いていた。
その後彼氏は悲鳴をあげていた。
─3時間経過─
ゲームに夢中だ。
─4時間経過─
無言を貫く。
─5時間経過─
「......。」
─さらに数十分後─
店から従業員が出てきた。
「肉物語、開店でーす。」
並んでいる人の顔が明るくなった。
すると、あのカップルがまたいちゃつき始めた。
以下略──
店の中からは美味しそうな匂いが漂ってくる。
さらに1時間程待った末、ようやく前の客が店に入った。
「肉肉肉肉肉肉肉肉~!!!」
!!!?
何なんだ!?ちょっと待て、今のはマジか?
妹が突然叫び出したのだ。
普段は今みたいに、テンションが崩壊することはないのに...
彼女の突然の言動に理解ができない。
すると兄が、
「お前ノリ悪いな。」
おい!そこかよ!っとツッコミを入れたくなったのと同時に少し傷付いた。
そんな感じでワクワクしていた。
しかし事件は起きた。
空が一瞬すごく明るくなった。
ドォーン...
爆発音が聞こえた。
音はそこそこある。
爆発があったのは、おそらく中心部の異世界交通路がある方からだ。
煙が上がっている。
こりゃヤバイな。
周囲の人たちがざわつき始めた。
だって、爆発音も大きかったし、何よりも空に上がる煙をハッキリと目に映るからね。
今の爆発で、美奈も少し不安そうな顔をしている。
それに対して、兄はヘラヘラしていた。
あー、もう嫌な予感がしかしない。
異世界交通路に何かあったのだろうか。
今の爆破で、僕らは大丈夫なのか?
という不安より、無事に肉が食えるのかという不安が頭を支配した。
結論─
発狂した。
停電が起きたらしい。
店も緊急で閉店するとのこと。
何でだよー!!!
今までの時間は何だったんだよ!
爆発のバカヤロー!
そして、僕らは肩を落としながら帰路についた。
途中、ステーキ弁当を買った。
肉が固かった。
大通りに着くと、人々が混乱していた。
泣く者、怒る者、怪我をしている者、倒れている者。
いきなり過ぎて、何がどうなっているのかはサッパリだが、おそらくさっきの爆発の被害だろう。
爆発事件の事態は僕らが思ってた以上に酷かった。
美奈はより心配そうな顔で僕に近づいてきた。
彼女は震えている。
被害の状況に怯えているのか、嫌な予感がしているのかは分からない。
でもやっぱり僕も嫌な予感がするのだ。
そして、兄はヘラヘラせず、無表情だ。
心臓の鼓動が早くなる。
さらに大通りをしばらく歩く。
「えっ......」
僕らは絶句した。
爆発による被害は尋常じゃないことを知った。
大都会のシンボルとも言える巨大な門。
それが粉々になって崩れていた。
無論、平瀬につながる大通りはなくなっていた。
捜査員が瓦礫の中を探すが、平瀬に続く空間は見当たらなかった。
異世界交通路が破壊された。
同時に、僕らは平瀬に帰れなくなった。
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