Day28 📖【真木柱】流された先のシアワセ

 皆さまこんにちは。今日も『源氏物語』ツアーにようこそ。早いもので今日を入れてあと3回の日程となってしまいました。実質的なトリップはあと2回です。

 今日のご案内は玉鬘十帖の完結編ですね。三十一帖【真木柱】の超訳です。このツアーでの玉鬘十帖のご紹介は二十二帖【玉鬘】と二十四帖【胡蝶】のみでしたが、三十帖【藤袴】まで主に玉鬘をめぐる物語は続いていました。


 玉鬘には多くの公達が結婚を申し込んできました。親代わりの源氏も玉鬘の幸せを考え、誰と結婚させたらいいか悩みます。身分的には源氏の異母弟である蛍兵部卿宮か髭黒大将あたりと考えます。

 ですが、源氏の豪邸六条院での華やかな暮らしと紫の上や花散里との関わりなどで玉鬘は女性として外見も内面も成長します。美しく魅力的な娘を見ていると源氏も自分の恋心が抑えられなくなり告白してしまいますが、一応自制し男女の仲にはなりません。その後も恋の歌を詠んだり、抱き寄せて触れたりはしますが、反面蛍兵部卿宮との仲を焚きつけたりもして、源氏自身も玉鬘をどう扱ったらいいのか悩みます。

 そこで尚侍ないしのかみという役職で宮中にお務めすることを源氏は思いつきました。尚侍と言えば、帝の寵愛をいただく可能性もある後宮の女官です。帝(源氏の子、冷泉帝)も源氏の養女が後宮に来ることを楽しみにするようになります。

 そしてようやく内大臣に玉鬘のことを話し、親子の対面が果たされます。

 玉鬘は源氏との恋人のようであってそうでない危うい関係を断ち切り、宮中に上がる決心をしました。これによって玉鬘に求婚していた公達はそろって失恋することになりました。

 

 ここまでが三十帖【藤袴】までのあらすじでした。それから【真木柱】後半に近江の君という姫が出てきますが、内大臣の娘です。長女の新弘徽殿女御は冷泉帝妃で次女の雲居の雁はいまだ独身で内大臣邸で暮らしています。「長く忘れていた娘がいる」と占い師にも言われて見つけ出した娘でかなり庶民的な性格の姫です。


 さて、ではではお待たせしました。


『源氏物語』に行くよっ!



 ✈︎✈︎✈︎

【超訳】源氏物語 episode31 翻弄された運命の行先     真木柱まきのはしら


 源氏 37~38歳 紫の上 29~30歳

 玉鬘 23~24歳 冷泉帝 19~20歳

 夕霧 16~17歳 髭黒 32~33歳


 ―― 大事件! 髭黒の侵入 ――

 玉鬘に晴天の霹靂ともいうべき事件が起きてしまったの。尚侍ないしのかみとして宮仕えに上がる予定の玉鬘のところに、どうしても玉鬘をあきらめきれない髭黒の大将が忍び込んできてしまったの。髭黒の味方をした玉鬘の女房がいたみたいね。夜中に無理矢理寝室に侵入してきてそのまま結ばれてしまうの。


 知らせを聞いた源氏はもちろん面白くなく残念に思うんだけど、済んでしまったことは仕方がないと髭黒との結婚を認めることにして婚礼の儀式を行うの。蛍兵部卿宮や冷泉帝もとっても残念がるの。帝は「色恋がらみじゃなくて仕事としてでいいから宮中に来てくれないか」なんて言うくらい未練たっぷりなんですって。

 けれども玉鬘の実の父の内大臣は、自分の娘が冷泉帝のお妃さま(新弘徽殿女御)なので娘同士が宮中で寵愛争いをしないですむことになって髭黒との結婚にほっとしたんですって。

 玉鬘はものすごく落ち込んでいるの。自分から望んだ結婚でないことは誰の目にもわかっていることだけれど、この結婚のこと(無理矢理襲われてしまったこと)を源氏にどう思われるかと思うとツラくて苦しかったみたい。

 


 ―― 玉鬘結婚の余波 ――

 玉鬘と源氏の仲を疑っている人は大勢いたんだけど、この結婚でそのウワサがデマだった証明がされたことになるのね。源氏は紫の上に「キミも疑ってたよね?」と茶化すの。添い寝だけで何もしなかった安全で愚かなオトコだったんだよって打ち明けたんですって。


 源氏は髭黒大将がいない時間をみはからって玉鬘のところに行くの。玉鬘はずっと病気のようにふさぎこんでいるんだけれど、源氏が来たので几帳の向こうに座ったの。源氏も今までの馴れ馴れしい態度は改めて父親らしく振舞うの。

 平凡な容姿の髭黒大将と比べるとやっぱり源氏は高雅で、玉鬘は自分のことが恥ずかしくて涙を流すの。

 少し痩せたような可憐な玉鬘を見ながら、髭黒に譲ってしまったことは善人過ぎたと源氏は後悔したんですって。


 ~ り立ちて 汲みは見ねども 渡り川 人のせとはた 契りざりしを ~

(キミとは一線は超えなかったけれど、まさか他の男との結婚を約束したわけでもなかったのにね)

 

 思いがけないことになってしまったね、と源氏は玉鬘に歌を詠んだの。


 ~ みつせ川 渡らぬさきに いかでなほ 涙のみをの 泡と消えなん ~

(三途の川を渡る前になんとかして泡のように消えてしまいたいの)


「俺が安全なオトコだったってキミもわかったろ?」

 源氏がそう言うの。帝からのお言葉もいただいているから形式だけでも尚侍として参内(宮中に行く)させようと思っているとも伝えたの。

 玉鬘はただただ泣いてばかりいて可哀想だったから、源氏は前みたいに抱き寄せたりすることはしなかったみたい。



 ―― 髭黒の策略 ――

 髭黒の大将は玉鬘に宮仕えをさせるつもりはなかったんだけど、それを利用して自宅に玉鬘を連れてこようと画策するの。そこで一度だけ出仕(宮中に行くこと)を許可することにして、そのあと自宅に迎え入れるためにリフォームを始めるの。

 そんな髭黒を見て自宅にいる妻は落ち込むの。髭黒の奥さんは式部卿宮(元兵部卿宮)という高貴な家柄なんだけど、ときどき物の怪が憑りついて狂気じみてしまう病で夫婦仲はうまくいっていなかったのね。玉鬘との結婚を聞いた式部卿宮も娘を実家に引き取ると怒るの。

 髭黒は今まで精神病で病んでいる妻を支えてきたことも評価してくれないのかとボヤき、妻は妻で愚痴を言いながら夫が玉鬘のところへ出かける支度の手伝いをしているの。

 すると、急に物の怪が憑りついたらしく、妻は暴れ出して髭黒に灰を投げつけるの。全身灰だらけで着物に焦げ穴までできてしまったんだけど、妻を落ち着けさせて物の怪を追い払うの。もうこんなのはうんざりだ、この妻とはもう一緒にいられない、早く玉鬘をここに連れて来たいってしみじみ思うのですって。

 玉鬘に会いに行くと、ほんの少し離れていたあいだにまた美しくなったと髭黒は惹かれるの。あまりに愛しいから髭黒はそのまま玉鬘のところに入り浸るようになるのよね。



 ―― 家族との別れ ――

 何日経っても奥さんの物の怪は消えなくて取り乱してばかりなの。それを見かねた父親の式部卿宮が娘と孫たちを引き取りにくるのね。

 奥さんもとうとうあきらめがついたらしくて実家に帰る決心をするの。子供たちの中に真木柱という娘がいたんだけど、髭黒に可愛がられていて、真木柱もお父さんを慕っているの。最後にもう一度お父さんに会いたいって思うんだけど、玉鬘のところに行っていて帰ってこないのね。そこで真木柱はお別れの歌を詠んで柱の割れ目に差し込んで住み慣れた家を離れたの。


 ~ 今はとて 宿れぬとも 馴れ来つる 真木の柱は われを忘るな ~

(これでもうこの家を離れるけれど、どうか柱だけは私を忘れないでね)


 家族が実家に行ってしまったと聞いた髭黒はあわてて自宅に戻るんだけどもう誰もいないの。残された真木柱の和歌を見て涙ぐんで式部卿宮邸に行って妻に会わせてくれと頼むんだけど、会わせてもらえないの。仕方なく息子たちだけを連れて自宅に戻ることにするの。(真木柱は女の子だからお母さんと暮らすことになるの)


 それ以来髭黒は妻に連絡してくることはなくなったの。酷い仕打ちをされたと式部卿宮は怒るのね。おまけにこんなことになったのは源氏の妻の紫の上が後ろで手を引いているからだなんてありもしない噂まで流したから紫の上はとっても傷ついたの。紫の上は式部卿宮の娘だけれど(髭黒の妻とは異母姉妹)、式部卿宮と源氏は仲が悪く、式部卿宮家で紫の上はよく思われていないの。



 ―― 玉鬘の出仕 ――

 突然髭黒に襲われて結婚することになった玉鬘はとっても落ち込んでいるの。そんな沈んだ気分が治ればと髭黒が玉鬘を宮仕えに行かせてあげるの。実の父が内大臣で養父が源氏の大臣ということで二人の大臣が後ろ盾で夫が大将なので、参内の儀式も華々しくて派手なのね。夕霧中将も世話役になっているの。でもそのまま宮中に居られても困るから日帰りという条件でね。源氏にも「少しの時間だけですからね」と念を押すんだけど、源氏は「まあまあそんなに急かさなくても」というから髭黒はハラハラしているの。

 宮中に参内した玉鬘のところに冷泉帝がいらっしゃるの。源氏にそっくりの美しいお顔の帝なの。


 ~ などてかく はひ合ひがたき 紫を 心に深く 思ひ初めけん ~

(一緒にはなれないあなたをどうしてこんなに深く想ってしまったのかな。これ以上深くはなれないのかな)


 帝はそんな歌を詠って「私の方が先に愛していたのに」なんておっしゃるの。玉鬘は困ってしまって返事はできないの。


 冷泉帝は髭黒と結婚してしまったことを残念だって言うんだけど、玉鬘は恥ずかしくて受け答えができないのね。髭黒は帝が玉鬘のところに行ったって聞いて心配で心配でならないの。そこで玉鬘の父親の内大臣に泣きついて玉鬘の退出のお許しをもらったの。

 来たばかりなのにもう帰ってしまう玉鬘に帝は残念がるの。けれどもこれで懲りてしまって来てくれなくなると困るからね、と帝は少し和歌をやりとりしてから玉鬘の退出を許可したの。



 ―― 髭黒の屋敷へ ――

 そして宮中からの帰りに髭黒は玉鬘を六条院には送らず自分の屋敷に連れてきてしまうの。突然の策略に源氏も怒るんだけど、すでに髭黒は玉鬘の夫だから何も言えないの。

 3月になって源氏は玉鬘に手紙を送るの。(義理の)親子の関係ではありながらそれを超えたような不思議な関係だったから玉鬘も源氏が懐かしいのね。今になって源氏が清い愛情を自分に注いでくれていたと玉鬘は気づき、源氏のことをとっても有難いと思ったみたいね。源氏も折に触れ玉鬘を恋しがるの。

 髭黒は実の親子でもないのにこんなに手紙をやりとりするのはヘンだって笑われてしまって玉鬘はがっかりしたみたい。


 実家に戻った髭黒の妻の病気はその後も治らないみたいなのね。それでも離婚したわけではなくて経済的には髭黒が援助していたの。けれども真木柱は父の髭黒に会うことはできなかったの。髭黒と一緒に暮らしている弟たちがたまに実家に来てお父さんや玉鬘の様子を話してくれるので、自分も男子だったらお父さんに会えたのにって残念がったんですって。


 11月に玉鬘は髭黒の子どもを産むの。男の子ね。髭黒はますます玉鬘を大事にするし、玉鬘のお父さんの内大臣も孫の誕生に大喜びするの。ただ内大臣の息子(柏木)たちは、もしもあのまま入内していたら帝の皇子を産んでいたんだなと思って少し残念な気持ちもあったみたいね。


 一方で宮仕えを希望していた近江の君はそわそわしていて、新弘徽殿女御は何かしでかすんじゃないかって心配なの。内大臣も人前には出るなって言っていたのに貴族たちが大勢で管弦の飲み会をしているときに源氏の息子の夕霧に向かって、

「奥さんがいないんならアタシがなってあげるわよ」

 なんて言っちゃうの。

「好きでもないヒトとは結婚しませんよ」

 って真面目な夕霧にあっけなく断られたんだけどね。







 ~ 今はとて 宿離れぬとも 馴れ来つる 真木の柱は われを忘るな ~

 真木柱が詠んだ歌





 第三十一帖 真木柱


 ✈︎✈︎✈︎

 以上が玉鬘完結編のご案内でした。

 宮中にお務めに行くはずが突然に髭黒と結婚することになってしまった玉鬘。そして強引に髭黒の屋敷に連れていかれてしまい、そうなってしまうと源氏と暮らした六条院や源氏のことがとっても懐かしく恋しく思えてきたのでしょうね。

 自分の意思とは関係なく運命に翻弄されているような玉鬘でしたが、髭黒との結婚や出産、そして夫人として生きていくことを受け入れることにしました。


 これこそ現代で言うなら刑事事件ですよね。いきなり部屋に乱入されて襲われてしまう。そして結婚することになってしまう。考えられません。

 当時は残念ながら有り得たことなんでしょうね。しかも乱入されるなんて従者の教育がなっていないとして女性の評判が落ちてしまうのです。「軽いオンナだ」とか「ガードが甘い」とか。どう見たって乱入した男性が悪いと思うのですけれどね。

 玉鬘もショックで泣き暮らしましたが、自身の「身の潔白」を証明するために髭黒と結婚し、子供を産んで、立派な大将夫人になります。

 ちょっと(いや、かなり?)モヤモヤとする玉鬘のお話でした。個人的には美貌の帝との美男美女カップルを見たかったんですけれどね……。


 今日も『源氏物語』Day28へのご参加ありがとうございます。

 

 明日がご旅行としては最後のご案内となります。

 胸キュンハツコイのその後のお話です。

 ワタシ的には源氏物語前半のハイライトとご紹介したいエピソードです。

 どうぞあの幼なじみ同士のふたりの恋の行方を見届けにいらしてください。


 皆さんで『源氏物語』に行きましょう!


 ✨明日の予定

 Day29 【藤裏葉】初恋の実るとき

 集合時間、集合場所:(気持ち的には)霧立つ夕暮れ、雲居の空にて

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