第15話 魂の樹

「まず、翔太。この世界がどれだけ魔法を重視しているか分かってるか?」


 翔太はその質問に少し戸惑ったが、しっかりと考えて答える。


「生活において必須、なんじゃないかな。色んなことができそうだし。上手く使える人が上の立場になっていくだろうし」


 その答えにロレンはため息をつく。


「まぁ、まだ頭がそんなお花畑なのは無理もない。……いいか。今この世界は停戦中なんだ」


「……停戦って……! 戦争が起きてたのか?」


「あぁ、そうさ。お前がここに来る随分前にな。とは言ってもおよそ30年前のことでそんな昔じゃねぇ。……ここで俺が言いたいのは、何で戦争が起きたのか、だ。この世界には、お前の知ってる通りオーガン王国と、さっき会った奴らのミラルフォーン王国、まぁあとは小さい国が点在しているが、今言った二国が三大王国に入っている。もう一つの国が魔国だ。この国が桁違いにこの世界で権力を持っている。オーガン、ミラルフォーンの総戦力をもってしても奴らには太刀打ちできないんだ。いや、魔国以外の国を全部合わせても無理だな。それを、過去の戦争で世界は痛いほど思い知らされてきた。……それでも、オーガン、ミラルフォーンなどの国のトップ達は、魔国をまた攻めようと画策している」


「……!? 一体、なぜ?」


「魔国がある“樹”を持っているんだ」


「……樹?」


「そう。名前は、“魂の樹”。その樹は幹の中に大量のマナを秘めていて、周りにいる者はその恩恵を受けられる。その樹を魔国は独占しているんだ。それを、他の国は必死に奪おうとしている」


「そんな……。独占なんかせずに、皆に平等に分け与えりゃいいのに」


「あぁ、ごもっともだ。魔国にいる、魔族って奴らは凄く強欲なんだよ。自分らだけ良ければいい。そんな考えなんだ」


 ここで、翔太はあることに気付く。


「ちょっと待てよ……? その樹って、マナの恩恵を受けられるんだよな? マナはこの世界じゃ生命力……ってことは、奴ら、ほぼほぼ不死身の体なんじゃ……」


「良いところに気が付いたな。正解だ。だから奴らは戦争も強いんだ。放ってくる魔法一つ一つの火力が、その生命力にあやかってるから大きすぎるんだ。俺は文献で奴らの使う魔法を知ったが……身の毛もよだつ程だよ」


 ロレンは魔国の存在を説明し終えると、次にミラルフォーン王国について話し始めた。


「さっきの、ミラルフォーンっていう国は、魔国を除いて世界一魔法が強い国だ。その中の今、討伐隊ってのと俺らは会ったんだが、他にもその組織みたいなのはあってな」


「……というと?」


「オーガンにもあるんだ。まず、今言った討伐隊、そして開拓隊、それと技術隊だ。開拓隊から説明したら分かりやすいな。開拓隊は、魔国の領土、もしくは『無国地』と呼ばれる場所の開拓、遠征をし、情報収集をするのがメイン。戦闘の腕も要されはするが、本当に強力な敵が出てきたときは討伐隊の出番になる。討伐隊は、その開拓の際に出てきた敵、具体的には魔獣だな。もしくは魔族。ちなみに、魔獣は魔族よりは強くはないんだ。討伐隊はそういう奴らを討伐する。そして技術隊は、この二つの組織を後ろから援助する。魔法使いたちが真の実力を引き出せるよう、杖を作ったりなんだりしてサポートするんだ。さっきのミラルフォーンの奴らが着ていたあのメタルボディスーツ、あれも技術隊の仕事だな」


「その三つの組織全部……魔国を討つためにあるのか」


「その通りだ」


 翔太は、自分が元いた世界よりも遥かに熾烈な戦争がある所に来たのだと痛感する。魔法がどのような価値を持っているのか、そしてそれを使う人の評価がどのようにされるのか、そんな想像をすると翔太は胸が痛くなった。


 ロレンは説明を続ける。


「さっきチョロッと言ったんだが、この深蒼の森は『無国地』に指定されている。この世界の領土は、全てがどこかの国に属している訳じゃない。何でかって言うと、これもまた戦争が絡んでいて、他の国と領土を奪い合う争いをするよりも、皆で団結して魔国を倒すために協力しようという気風があるからなんだ。だから、こんな風に無国地が存在する。オーガンの人も、ミラルフォーンの人も入れるのがこの深蒼の森なんだ」


 翔太は今のこの世界の情勢を受け入れると、次はあのラディア・カーレットという青年の話に話題を移す。


「さっきの、討伐隊隊長、ラディアって人……? 彼は相当な実力なんだな」


「……あぁ。俺らとは比べものにならねぇ。まず、奴は魔眼持ちだったしな」


「魔眼……?」


「奴の眼、赤かったろ? この世界では魔眼って言うんだ。周りにあるマナの流れ、それだけじゃなく人の体内に眠るマナの流れまで……全てが見える眼だ」


 翔太がじっとロレンを見た。ロレンは翔太が何を知りたいのか気付く。


「お前の眼は赤くなってねぇよ。大体あれはマナの量が生まれつき多くないと駄目で、ほぼ遺伝的なものなんだよ」


「はぁ……そうなのか」


 翔太は肩を落とし落胆する。ロレンはあらかた話を終えたとして、自分の膝を叩き立ち上がった。


「そろそろ行くか。とっととキノコ見つけて帰るぞ」


「あっ! ロレン、もう一つ聞きたいことが……」


「何だ?」


「ミラルフォーンの奴らが連れていた、あの少女は誰だったんだ?」


「少女?……そんなの居たか……?」


 突如、木の枝が軋む大きな音がした。ロレンは会話を中断して、すぐにその音のした方に身構える。


「おい、翔太、何か来るぞ。備えろ」

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