デタッチ

二階堂くらげ

001

 部屋に帰り着いた僕を出迎えるのはいつも、もう一人の僕だ。


 僕は二人になった。非常に奇妙な話だけれど、何かの比喩ではなく本当に二人になったのだ。声も見た目も何もかもがそっくりの、もう一人の自分。いつからだろうか、どうしてだろうか、僕には思い出すことができないけれど、それこそが僕が二人になることに「成功」した証明だ。


 ある日僕は願って、それは辛いことを忘れたいとか、そんなどこにでもあるような普通の悩みだったと思う。それが、黒魔術か、心霊現象か、異星のテクノロジーか何かで叶ってしまい、僕は二人になった。もう一人の僕、差し当たっては彼――は、一人だった頃の僕が手放したいと思った全てを持って僕から乖離していった。だから僕は自分がどうして二人になってしまったのか、どうやって二人になったのかを思い出すことができない。そしてつまりそれは、もう一人の僕は全て知っているということを意味していて、逆にもしかしたらそれしか知らないかもしれない。


 僕が彼について何かを思うことは特になかった。彼はいつも僕の部屋に居て、外に出たところは見たことが無い。それどころか生活リズムが反転して夜中に起きているらしく僕は彼が起きているところすらほとんど見ない。大体は寝苦しそうに布団にくるまって壁の方を向いている。僕はそれを邪魔だと思ったことも羨ましいと思ったことも一度もなかった。

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