STAGE GEAR

綾崎サツキ

第1話 紅葉舞う神社にて





プロローグ



「別に、世界を救うとか、そういうのはおまけなんだよ。君といたい。ただそれだけでさ。あんなのを倒すのなんて、ついでで良いのさ。だって、世界がなくなっちゃったら君といられないんだもの」


 オレは、彼女をギュッと抱きしめる。これからのことを考えて震える彼女を少しでも安心させるため。大丈夫、なんとかなるって。


 これは、よくある転生したやつがなんだかんだ世界を救う物語じゃない。転生したやつが大好きな女の子と一緒に生きる物語なんだ。





第一章 紅葉舞う神社にて





 目が覚めるとそこは砂漠だった。体から落ちる砂のザーっという音を聞きながら、辺りを見渡す。


 見覚えのある建物などはなく、砂漠と、ぽつんぽつんと離れて建っている石で造られた家ばかりだ。しかも風化している。


 少なくとも、日本でないことは分かる。じゃあ、ここはどの国かと言われるとピンとこないが。


 ジリジリと太陽光に照らされ、暑くてたまらないので日陰に移動する。ひんやりして心地がいい。


 制服を脱ぎ、ばさばさして砂を払ってから腰に巻く。熱いので、ワイシャツの袖も捲くった。


 改めて、さっきまで自分が居た場所を見てみる。そこには人が軽く埋まっていた形跡とこの日陰まで伸びる足跡があった。砂を少しかぶって倒れていたオレの跡だ。


 それ以外には足跡も何もない。誰かが連れてきたなら、あってもいいはずだが……オレが軽く砂に埋もれていたってことは、時間がたっていて痕跡は全てなくなっている……?


 答えは出るはずもなく、オレは考えを振り払うように頭を左右に軽く振る。


 ポケットに入っているスマホを付けてみたが、想像通り圏外。あとはこの場所で使えるかわからない通貨の入った財布だけ。オレの名前、赤井紅と書かれた高校の学生証もあるが、どこまで通用するかわからない。


 どうやったら生きられるかなぁ、と思いつつ、まずは近くの家の中を見てみる。なにか、役に立つものでもあればいいんだけどな……と思いつつ、お邪魔する。


 食べ物関係は、元々期待してなかったが、それらしいものはない。砂を被った木製のテーブルが部屋の中心にあって、モノが置かれていた。


 黒い塊……銃だった。形的に短機関銃と言う分類だろうか? 種類までは詳しくないので分からない。


 使えるのかな? と疑問に思い手に取った。マガジンに弾が入っているのを確認し、戻す。そして入口の方まで行ってから、奥の壁に向かって引き金を引く。


 しかし、弾は出ず、引き金を引き切ることは出来なかった。引っかかるような感覚を残し、動かない。


 ああ、セーフティがかかっているのか、と思い銃の側面を見る。そこには、数字が書かれていて、それを動かした。


 数字を扱う国なのか、と思いつつ、改めて引き金を引くとバババと数発、銃弾を放ち壁に穴を開けた。


 その衝撃に耐えられず、よろけてオレは尻もちをついた。ちゃんと動くもんだなぁ。


 でも、銃があるってことは紛争、戦争地域ってことかな? でも、こういう銃よりアサルトライフルって奴の不が多いイメージだけど……? 素人なりの知識で少し考えてみたが、これもまた答えが出ない。


 ほかに予備のマガジンや地図、ナイフなどが置いてあったので、鞘と一緒に貰っておく。訓練を積んでいない素人がこう言うものを持っていても意味がないかもしれないが、紛争地域かもしれないところを丸腰で歩くよりはいいだろう。そう思ったのだ。


 ナイフをベルトに刺し、銃を手に持ったまま移動する。地図を広げて確認してみたが、目印になるものがなく、どうしようもなかった。


 地図の文字は読めなかったが、イラストでなんとなく理解できた。村が周りにいくつかあるようだが、この村のようになっているかもしれない……。近くに森のようなもじゃもじゃとしたイラストが描かれているので、そこに向かうことにした。緑があるなら水もあるだろう、と考えたのだ。


 外国の水を飲んだらお腹壊すらしいが……喉が渇いて仕方がない。


 少し高い場所を探して、オレは歩き出す。





 十分ほど歩いたところで砂丘が見えてきた。砂に足を取られ、上手く歩けなかったが、がんばって登る。


 ぜぇはぁと息を切らしながらも登りきったところで、オレは辺りを見回した。すると、森が見える。2、3キロ程度の距離だろう。そこそこの規模があるようだ。


 さっきまで森が見えなかったのは、自分のいた場所が盆地とでも言うべき、くぼんだ場所だったからだ。


 さらに遠くの方に不思議なモノを見つける。


「光の柱……?」


 思わず声に出してしまう。そうとしか形容出来ないものが、遠い山の向こうに見えたのだ。


 軌道エレベーターという単語が浮かんだが、そんなもの建造されてはいないし、自然現象かなにかだろうか? 


 その光の柱は雲を貫き、さらに先まで伸びているようだった。


 この距離からも、巨大に見える、ということはかなりの大きさだろう。……やはり、自然現象と決めつける様なものではなさそうだ。


 ……もしや、異世界にでも飛ばされたとか?


「そんな話を誰かにしたら、アニメの見すぎっていわれちゃいそうだ」


 オレは、森の方へ歩き出しながら呟いた。


 急斜面だったこともあり、ずさーっと滑り落ちるようにして降る。登りより楽ではあるが、ズボンのすそや、靴、そして腰のあたりから砂が入って来て、ちょっと気持ち悪い。


 でも滑り台のようで楽しかった。小学生のころに戻った気分だ。


 深刻な事態で気分は沈んでいたが、少し気が紛れた。男と言うのは単純なのだな、とつい自分自身でも思ってしまう。


 すると、大きな音が響き、振動が伝わる。


 紛争地域、という考えがありまず連想したのが、戦車だった。しかし無限軌道の音とはまた違うような……? 砂丘の向こうから響いてくるので、少しでも離れたくて、オレは全力で逃げ出した。


砂丘の影から飛び出したが、すぐにオレに影がかかる。砂丘の上に何かが乗った証拠だ。


 振り向き確認すると、そこには戦車などではなく、また違うなにかの影があった。


 太陽を背に立つ黒いシルエットは、八本の脚を持つものだ。……まるで蜘蛛のような――……。


 いや、まるでじゃないな、ありゃあ蜘蛛だ。巨大な黒い蜘蛛。


 オレの百七十cmの身長よりも高い脚に、胴体。体長も長そうだ。ただ大きいだけでなく、その蜘蛛の頭の上に異形のモノがついていた。人の上半身の影のような物体だ。真っ黒で、手のようなものがあり、頭のようなシルエットがある。


 蜘蛛自体もサイズだけでなく通常とは違っていた。全体的に固い石で覆われているような質感をしている。石か何かで出来ているようだ。


 ……なんて、観察している場合じゃあないな。オレは全力で走りだした。靴の中に入った砂がジャリジャリして気持ち悪いし、砂の上は走りにくいが、そんなことお構いなしにひたすら走る。


 後ろから、ギシャアアなんて叫び声のような音が響く。どこからそんな声出してんだ……? 気になってしまったが、命より大事なモノは無いので振り返らずに走った。


「ああ、これは異世界決定だ。死んだ覚えないけど異世界転生ってやつだ」


 ついつい言葉に出してしまう。声に出さなきゃ絶望しきってしまいそうだった。


 ああ、大抵異世界に行くときって、神さま女神さまがチート能力くれるんじゃなかったっけ? オレにはなしかよー……。


脚は遅い方だが、命が懸っているからか、それとも向こうの脚が遅いからか、追いつかれずに森まで辿りつける。足元が砂から土に急に変わり、先ほどまでの感触と違い力の入れ方を間違えて、転びそうになる。


 必死に態勢を整えようとすると、ヒュンという鞭のような風を切る音がした途端、木が折れ、倒れていく。


 あの怪物が、前足を振るったらしい。振り返って見てみると前脚を突き出して止まっていた。


 すると、影のような上半身がばっくり割れる。その中にはおびただしい数の歯が並んでいた。……口だったんだ、あれ。


 そこからぎしゃああああという声を出し、怒り狂ったように体当たりで木を押し倒しながら、進んできた。


 オレは、また前を向いて逃げ出す。どうにかできないか、とやっと恐怖心から脱し生きる方法を模索し始めると、手に持つ銃の存在を思い出す。


 とにかく、ないよりマシだと考え、上半身だけ後ろを向き銃弾を放つ。ダダダダと言う音を立て放たれたそれは、怪物に命中はするが、固い甲殻のようなものを貫けず、ダメージを負わせたようすは無かった。口に当ったものはぶすりと刺さってはいるモノのダメージらしいダメージには見えなかった。


 オレは、撃つのをすぐさま止めて、逃げることに専念する。銃を捨てるか迷ったが、まだ使う場面があるかもしれないと思ってしまい、放りだせずにいた。


 すると、視界に石段が見えてくる。目の前にあるのでそのまま駈けあがると、赤い鳥居を潜り、神社と思える場所に出た。中心に小さいが朱色のきれいな社がある。


 神聖な、というのは良く分からないが張り詰めていて、どこか背筋を正したくなる雰囲気があった。きちんと神さまが祀られている神社なのかもしれない。


 周囲の木々も、緑ではなく紅葉していた。季節がいきなりがらりと変わったみたいだ。そういえば、砂漠の時ほど熱くない。少し涼しいくらいだ。


 そんな雰囲気をぶち壊すように、実際、鳥居をぶち壊して怪物が迫ってくる。


……神社の周りは木製の壁に囲まれていて、よじ登ることはできるが、すぐに追いつかれてしまいそうだった。


戦うしかないのかな……?


 脚が、手が震える。あんな怪物現実味なんてない。でも、死への恐怖はここに確かに存在する。


 銃のストックを回し、きちんと構え、後退しながら怪物に引き金を引く。なれていない銃の反動に肩が外れそうなくらいの衝撃と痛みに耐えながら、連続で響く銃声で鼓膜を痛めながら、ひたすら怪物に撃つ。


 とはいえど、弾数はそもそも少ない。すぐに空になった。


 大きなダメージは無いが、気に障ったのが、大きな雄たけびを上げ、怪物は前脚を振り下ろした。


 直撃はしなかったが、敷き詰められている石が割れ、大小いくつもの破片が当り後ろに倒れる。


 大きな怪我ではないが、その破片で腕を切ってしまった。熱い感覚と共に、熱が滴り落ち、石を赤く濡らした。


「いっぐぅ……」


 思わず声をもらし、手で押さえる。銃はすでに手放していた。


 オレは這いあがるように、立ち上がり、背を向けて逃げ出す。


 ああ、だめだこれ、死ぬ。痛いし、あんな怪物になにも出来るわけがない。


 そもそも人間は武器がなければ弱い。猛獣ですら銃や人数差がなければ勝てないのに、あんな化け物にガキ一人で勝てるわけはないんだ。


 社の方に向かって逃げる。ここまで走って来た疲労と痛みで走ることはできず、体を引きずるように。


 瞬間、体が宙を舞う。背中に衝撃と痛みが走る。肺の中の空気がすべて吐き出され、落ち、転がる。


 かひゅぅという音が口から零れた気がした。頭も撃ちつけたのか、音が遠い。視界も安定せずぐらぐらする。


 息がまともに吸えず苦しい。痛い。


 げぼっげぼっという粘着質のある咳と共に少し意識がはっきりしてくる。


 ねちゃっと口の周りに気持ち悪い感触が伝わった。血を吐いたんだろう。浅い呼吸を繰り返しながら、あの怪物の重い足音を聞く。ゆっくり歩いているようだ。しとめたと思っているのだろう。


 逃げようかと思ったが、四肢が痛み起き上がれない。力が入らなかった。


 もうだめだなぁ、木造の天井を見上げながら考えた。


 死んだら、家族や友人が悲しむよなぁ。そもそも死んだこと分かるのかな? 行方不明とかになるのかなぁ。


 夢とかはとくになかったけど、もう少し生きてたかったな。あのゲームの新作やりたいし、まともな恋愛したいし。


 今月ピンチだからってチョコケーキ買うの渋るんじゃなかった。食べておけばよかった。


「あー……あ……死にたく、ないな」


 もう無理だ。力は入らない。立ち上がれたとして逃げ切れない。死ぬ以外道はない。可能性はないんだ。頭では理解しても、心は追いつかなかった。


 死ぬ覚悟などきめられなかった。体は必死に生きようともがく。無意識に、いや意識的に起き上がろうともがく。


 死ぬのは怖い。漠然とした恐怖だ。べつに、生きてなにかをしたいわけじゃあない。ただただ生きていたい。生きるだけでいいのに。


 死にたくない死にたくない、頭の中がその感情で満たされる。


 オレは、生きていたい。遺伝子を残したいとか、やりたいことがあるとか、そういう大きな理由がなくても生きていたんだ。


 かつん、と床を滑った手が何かにあたる。吹っ飛ばされた時に荒らされてしまった社の中に置いてあったものだろう。反射的に視線を向ける。


 それは、刀だった。鞘に収まった刀。いまさら、こんなもので……とは思ったが考え直す。杖代わりにすれば立てるかもしれない。



 次の瞬間、視界が真っ赤になる。



 そして次に体中に熱を感じた。ごうと言う音が響く。その赤に慣れてきたとき、やっと状況が理解できた。社が、オレが燃えているのだと。


「うわあ!」


 思わず、オレは飛びあがり、体を払う。だが、炎は消えなかった。


 ……起き上がれた? そう理解し、体の痛みがない事にも気付く。熱くはあるが死ぬほどではない。むしろ丁度いい温度のお風呂にはいった時のように心地よかった。


 しゅー……と警戒するような鳴き声が聞こえた。社のすぐ外で、炎を警戒しているあの怪物がいる。


「ああ……なんだか勝てそうな気がする」


 根拠はない。でも、体中の痛みがなっただけでなく、奥から力が湧いてくる気がするんだ。なんでもできる。……そう思えたんだ。


 燃える社を飛び出すと自然とオレの体を燃やした炎も消える。服が焼け焦げた跡はなかった。


刀を抜き、鞘を投げる。反りのない刀だった。直刀、というものだろうか。


 剣道をならっていたわけでもない。ゲームやアニメの見よう見まねでオレは構える。


 さっきはやりようがなかったが、ああいう甲殻がある奴は節を狙えばいいんだったか。


 すると、蜘蛛の怪物が前脚を突き出してくる。すさまじい勢いだが目で追い、そして避けることができた。


 自分の体じゃないようだ。そう思いながら刀を大きく振り上げ、まっすぐ振り下ろす。目の前にあった。蜘蛛の足を関節の部分から、切り離した。緑色の体液が飛び出し、地面を汚す。


 ギシャアアああああああと長い悲鳴が人の形をした口から発せられた。


 これなら勝てる……! オレは刀を正面に構えなおし、一歩ずつ踏み込んでいく。


 次に、横なぎに反対側の脚が振るわれた。オレはそれを刀で受け止める。重い衝撃だったが、さっきのように吹き飛ばされず、受け切った。


 とはいえ、手に痺れるくらいの衝撃だったので長く受け続けられないと判断し、刀を脚に潜りこませ、上に弾く。


 脚が持ち上がったせいで上を向き、丸見えになっている頭と胴体の関節めがけて走り、刀を突き刺した。


 ぐりぐりと切っ先を押し込む。緑色の体液がドロドロ流れ出て、怪物は苦しそうな声を上げる。


 刀が半分くらい突き刺さったところで、オレは刃のある方向、左に向かって一気に薙ぐ。


 蜘蛛の首が、半分くらいきれ、皮一枚で繋がっているような状態になる。そのまま、蜘蛛は全身の力が抜け、崩れ落ちた。


 オレは、潰される前に蜘蛛から離れる。


 そして、蜘蛛の姿を見た。残った脚で立ちあがろうと地面に突き立てるが、力が入らないのか、ずずずと土を掘るだけだった。


 ……まるでさっきのオレだな。


 刀を逆さに持ち、蜘蛛の頭部に突き立てた。すると、完全に動きが止まった。





 オレは、刀を引きぬくと、大きなカブを引きぬいたおじいさんのように尻もちをつく。


 刀がからんからんと地面に落ちた。


「ああ……生きてる……」


 致命傷かどうかはわからなかったが、大きな怪我は完全に癒え、残ったのは興奮と緊張と疲労感だけだった。


 大の字に寝そべる。怪物の側だが、このまま寝れそうだ。


 このまま、寝て起きたら夢だったことにならないかな……静かに瞼を閉じてしまう。


 すると、からからという小さな鉄の音が聞こえた。


 瞼を開け、音の方を見ると刀が小刻みに動いていた。やがて、すっと切っ先を下にして、起き上がる。


 異常現象に驚き、オレは起き上がり、警戒しながら刀に歩み寄る。


 ……傷が癒されたり、力が異常なほどあがったのはこの刀が魔法のアイテムだったとか……?


 完全に異世界と決めつけたオレには、ファンタジーなものにしか見えていなかった。


 刀の後ろに、いきなり炎が出火した。オレの背と同じくらいの高さがある。


 自然と刀が倒れる。炎の中にぼんやりと人の影か見えた。影は、ゆっくりと前に倒れてきて、炎の中から出てくる。


 赤い髪の毛の人だった。良く観察する前に、オレはとっさにその人を受け止める。


 甘い香りと、柔らかい感触がした。髪の長さのことも考えると女の子か……?


「う……ぅん……」


 そう、声が漏れ彼女は目を覚ましたようだ。オレの胸にうづめていた顔をゆっくりとあげる。


 オレの目と、彼女の目が合う。きれいな赤色の瞳だ。肌は白く、少し顔は幼い気がした。唇はぷっくりとしていて、目は大きくちょっとだけ強気な目つきだ。鼻は小さいが筋が通っている。かわいい女の子だ。


 目とはまた違う赤色の、少し毛先に癖のある長い髪は綺麗だった。まるで、赤いドレスのようだ。頭には手ぬぐい? 頭巾? 江戸時代の女性がしているようなものを被っていた。


 するとみるみる白い肌に朱がかかる。


「きゃ!」といって、軽くオレを押し彼女は離れた。


 ……目が覚めていきなり知らない男性に抱きしめられてちゃ、そりゃあびっくりするよな。 


 離れて見てみると、彼女は和風の服を着ていた。袖のない赤い羽織を着て、上着は薄い黄色の着物のようだった。しかし、縁を赤い糸で縁取っているスカートをはき、ひざ下くらいのロングブーツをはいている。


 ……現代のファッションとまぜこぜのような格好だ。


 スタイルはいいと思う。女性らしい起伏があり、脚はすらっとして長い。さらされている太ももも魅力的だ。


 と、生き残ったばかりだからつい女の子をまじまじと見てしまった……失礼なことだ。


 きれいだったり、可愛かったりする女の子を見るのは、男だから仕方ないとは言えど、さすがにまずい。


 まずは、誤解を解かないと、そう思っていると彼女の方から口を開く。


「起きたところ支えてもらったようですね……! ごめんなさい! そして初めまして!」


 笑顔が可愛いと思った。子犬のような、愛らしい笑顔だ。



「私は、貴方をこの世界に招いた者です! どうか、私と一緒に世界を救ってください!」



 笑顔から一転真剣な――……縋るような表情に変わる。


 ……対してオレは、微妙な顔をしていただろう。突然の発言にも、どこかのRPGのような言葉にも。


 これからも大変なことになりそうだ、と辛い気持ちになるのだった。

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