第9話 冒険者訓練所
思わぬポイントの消費に真っ白になりながら帰宅した俺は、翌日からバイトに精を出す。
魔法世界での教訓から、自分に不得手なことをする時には周囲に声をかけたり、自分が得意なことをする時には率先してやったり……といつもと動きを変えてみるとスムーズに仕事が回る回る。
こんなちょっとしたことだけでも、仕事効率って変わるんだなあ。もちろん、全ての業務が高レベルでできることが至上なんだけど、フォローしてもらったりフォローする体制っていうのかなあ。
そんなものを自分が動いて作られていくってのは、大切なことなんだと気が付かされたんだ。
気が付いたことは良い、悪い事じゃあない。でもな、でもな。残り時間「百」からのカウントダウンは辛かったぜえ。
毎週のように体験版を行うべく喫茶店に行くことが楽しみだったのにい!
ミオとキャッキャウフフができるかどうか試してみたいところだけど、次もまた二週間お預けは辛すぎるから……しばらくお預けとしよう。
そうだな、逝く世界が決まったら学園物な世界で……ぐふふ。
仕事をしながら次はどんな世界にしようか考えていたけど、次回も練習にしておこうかなと思っている。
魔法はダメだったけど、格闘技や剣ならどうだ? 確かに俺は固まって何もできなかった。でも、訓練所みたいなところで一週間修行をすれば戦えるようになるかもしれない。
ビビッて動けなくなることさえ無くなれば、あとはチートなスキルで敵を捻ればいいだけだからな。
そんなわけで、次回は冒険者ギルドの訓練所という設定にしようかと思う。
冒険者になろうとしている人たちや、護身術を学びたい住民の皆さん向けの施設ってことにしようかな。
◆◆◆
「いらっしゃいませ。お久ぶりですね」
「あ、うん……」
ミオに促され、いつもの座席に座るとメニューを開く。
妄想した世界観で使えそうなスキルがないかなあと探してみるけど……今回は訓練のつもりだからなあ。
そのままの俺で行った方が良い気がする。
「コーヒーをお持ちしました」
「ミオ、次の世界についてだいたい決めたよ」
「そうですか。私も付いていくのですか?」
「いや、今回は俺一人で……」
「少し……残念です」
コーヒーを置きながらミオは目を伏せ、しんみりした声色でそう呟いた。
え、えええ。寂しがってる? 俺と居たいのかなあ。なんて思うほど、俺は純真じゃねえ。
これは……俺をからかっているんだぜ?
「ミオ……そうやって誘って俺を二週間働かせようとしているだろう?」
「……」
ピクリと眉が動くミオ。
やっぱり図星だったらしい。あ、仕事のことで思い出したことがある。前から少し気になっていたんだ。
「ミオ、コーヒーをいつもいただいているけどお代はいいのかな……今まで払ってなくてごめん。全部払うから」
「いえ、お代は必要ありません」
ミオは何かを我慢するように口元をギュッと引き締めているが、目に涙までたまってきているじゃあないか。
その時、カウンターから押し殺したような笑い声が漏れて来た。
すっかり忘れていたけど、喫茶店にはミオの他に老紳士なマスターもいるのだ。
「失礼。お代は必要ないよ。良一君。私たちはちゃんと対価を頂いているからね」
「俺、何もお渡ししてませんけど……」
はて……何のことだろう?
あ、ポイントを渡しているからそれにコーヒー代が含まれているってことなのかなあ。
「いつもおもしろいですし……」
「え?」
「なんでもありません」
ミオがボソッと何か呟いていたけど、よく聞こえなかった……。
更に突っ込んで問いただそうにも、彼女はもうこれ以上何も語りませんといった風に、口へ人差し指を当てているじゃあないか。
「ま、まあいいや。ミオ、次に逝きたい世界なんだけど――」
「かしこまりました。準備はよろりいですか?
「うん」
「では、目をつぶってください」
ミオはスカートを両手でつまむと、優雅に礼を行う。
◆◆◆
「それでは、体験版をお楽しみください」
ミオがお辞儀をすると共に、彼女の姿が不意に消え去り、止まっていた世界が動き出す。
ここは酒場と依頼所が一体となった冒険者ギルド。石と木で作られた二階建ての建物で、俺が向かうのは依頼所カウンターから右に出た訓練施設だ。
昼間ということもあり、人は飲んだくれな赤ら顔の冒険者が三人くらいグダッている程度だった。
「あのお、訓練を依頼した良一ですが」
依頼所カウンターにいる猫耳のお姉さんに話しかけると、彼女はパラパラと羊皮紙でできた冊子をめくりこちらに顔を向ける。
「確認いたしました。あちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
猫耳のお姉さんは立ち上がると、右を指さす。
設定をしていないのに、彼女はビキニみたいな衣装を着ていてぷるるんが揺れそうで目が釘付けにな、りかけた。
彼女に睨まれそうになったから、見ることができなかったのだ! ぐうう。
異世界の楽しみの一つ。何故か若い女の子は薄着。これは鉄板だなあ。何しろ設定しなくてもそうなるのだから。
そんなこんなで、右にある扉を抜けると木の柵でおおわれた広場に出てくる。
中央には先生らしき若い背の高い女の子とごついおっさんがいて、彼らの周囲には俺と同じ訓練生らしき人が数人。
「お、君で最後のようだな。全員揃った」
俺の姿を認めると、ごついおっさんが腕を組んで「うむうむ」と頷いた。
「キミはボクが見るから、よろしくネ」
訓練生の輪の中に加わろうとしていた俺に、背の高い女の子が挨拶してくる。
彼女は俺の肩をポンと軽くたたくと、マシュマロがその動きに合わせて少し揺れた。うほおお。
彼女は、ウェーブのかかった赤毛に赤色のビキニアーマーを着たむっちりぷるるんな二十歳過ぎくらいの切れ長の目をした美女だったのだあ。
これは期待が高まってきたあああ。細かい人物の容姿設定とかはできないんだけど、お約束とばかりにセクシー衣装な女の子が訓練してくれる。
さすが、異世界だぜえ!
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