第7話 魔女っ娘青木
ほうきをギュッと握りしめて、館の外へ出て来た俺とミオ。
出て来たのはいいんだけど、何をすりゃいいんだこれ?
「飛ばないの? 良一くん?」
ミオはコテンと首を傾けて無表情にそう呟いた。
口調が変わっても、表情はそのままかよ……なんか不思議そうな顔してくれるとか満面の笑みとか少し期待したんだけど……まあ、ミオはミオってことか。
ん、んん。待てよ……今回は仕方ないとして、次回試してみよう。
俺が彼女の姿を想像してニヤニヤしていたら、凍り付くような視線を感じる……。
「ど、童貞ちゃうわ!」
「何言ってるのかなあ。良一くんは……。さっきから気持ち悪い顔をして、どうやったら飛べるかとか考えてたの?」
「あ、うん。まあ、そういうことだよ。飛べた時のことを想像してさ……」
「ふうん」
その声は信じてねえだろ! まあ、嘘なんだけどね。
すっかり思考がそれてしまったんで、仕切り直すとしようじゃないか。
「ミオ、飛ぶ時はどうやったらいいんだろ?」
「目をつぶって、体の中からほうきに魔力を通すの。後は『飛べ』と念じるだけ」
「おお、呪文とかはないんだな」
「うん」
じゃあ、さっそくやってみるとしますかあ。
ほうきにまたがって、両手でほうきを掴む。うん、いわゆる魔女っ娘がほうきを持つスタイルだ。
俺がやると若干気持ち悪いかもしれん……。しかし、空を飛ぶことへの期待が見栄えを気にすることなんて一気に吹き飛ばすのだ。
『飛べ』
俺が心の中で念じると、ほうきがピクリと反応し、宙に浮いたではないか!
「お、おおおお。すげえええ」
ほうきがどんどん浮き上がってくるう。
「あ、ああああ。待って、待ってええええ」
ぬおおお。どうやったらこれ、制御できるの? どんどん高く舞い上がって行って、館の屋根を越える高さにまで浮いていってしまった!
「ミオおおお。これどうやったら動かせる?」
「慣れですね。イメージです」
ミオは澄ました顔であっさりとそう言ってのけた。
そ、そう言われてもおお。右だ右へ行ってくれええ。
「ぬあああ。回転するううう」
右回りにグルグルとおお。ならば、降りる降りるんだあ。
「ぬあああ。次はほうきが自由落下していくうう」
真っ逆さまに落ちる俺が地面にぶつかるのを覚悟した時、柔らな何かが受け止めてくれた。
「しっかりしてくださいね」
落ちていく俺を受け止めてくれたミオは、いつもの口調に戻ってハアとため息をつく。
「お、降ろして……この姿勢は少し恥ずかしい……」
「お似合いじゃないですか? お姫様?」
「言わないでえええ」
ミオはワタワタと暴れようとした俺を投げ捨てるように手を離す。
そ、そんなあ。
「むぐう」
頭から草むらに突っ込んでしまったじゃないか。
つ、次こそは、ちゃんと飛んでみせる!
――二時間後
どこからか出してきたパラソルセットの椅子に腰かけ優雅に紅茶を楽しむミオをよそに、俺はひたすら飛行訓練を行っていた。
ようやく制御できるようになってきた。ゆっくりとした速度なら思ったところに行ける。
もう少し練習すればなんとか!
――更に三時間後
ビーチチェアに寝そべるミオをよそに、俺はひたすら飛行訓練を続ける。
慣れてくれば自転車に乗るような感覚でほうきを操作することができるんだな。うんうん。
「ミオ、だいたい操作できるようになってきた」
「ふあああ、頑張ったね。良一くん」
あくびをしながら答えるミオに思うところがないわけではないけど、ずっと待たせていたことは事実なので……。
「でも、良一くん、屋根くらいの高さにまでしか飛ばないんだね」
「え、あ、ああ。そうか。確かに……」
俺はほうきにまたがり、屋根の上から更に高度をあげていく。
背の高い木を越えた辺りで問題が発生した!
そう、下を見てしまったのだ。
た、高い。高いってえええ。落ちたらただじゃあすまねえぞ、これ。
それに、よく考えてみたら、命綱も何もないし。意識だけで動かしているから何かで気がそれたら即落下だ。
最初から気が付いておけばよかった……こんなあぶねえものに乗っていられるかあああ。
魔女っ娘もタケコプ〇ーも楽しそうに空を飛ぶ姿が描写されているけど、俺には危険を顧みずに空を飛ぶことなんてできねえ。
あ、あと……さっきから足がすくんで大変なことになっているうう。
い、意識を乱すと……や、やべええ。
お、落ちるう!
「しっかりしてくださいね」
「あ、うん。ありがとう。でもやっぱりこの姿勢は……」
「ほうきくらいちゃんと操ってくださいね。お姫様」
「う、うう」
ダ、ダメだ。ほうきで空を飛ぶことは諦めよう。
飛べるのはいいが、この分だと落下して命を落としてしまうだろう。
◆◆◆
「良一くん、それで次は訓練所なの?」
「あ、ああ。やっぱ魔法と言えば火の玉を飛ばすことだろ?」
「魔法の使い方はさっきと同じね。じゃあ、頑張ってね」
空を飛ぶことをあきらめた俺は、館の中へ戻り訓練施設に来ていた。ここにはダミー人形があって、攻撃魔法を試すのに持って来いなのだ。
俺がニヤリとして、攻撃目標「ダミー人形」へ体を向ける……あれ、ミオが訓練所の外へと消えて行く。何しに行ったんだろ?
つい彼女の後ろ姿を追ってしまったが、ブルブルと首を左右に振り練習へと取り掛かる。
『炎よ!』
俺が念じると手から火柱が舞い上がる!
火柱は……。
「あ、熱い! 燃えるううう」
なんと、火柱は前へほとばしっていくのではなく、その場でとどまり俺の服を焼き始めたのだ!
――ザバア。
「全く、そんなことじゃないかと思ったわ……」
「あ、ありがとうミオ」
ミオがバケツに汲んだ水をぶっかけてくれた……。
だ、大丈夫かな……魔法。
激しく不安になってきたが、魔法を使えるように練習しないと。
出鼻からくじかれたが、前をキッとにらみつける俺なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます