コンタクト

現在、存在が確定し、コンタクトに成功しているのは、台風(ハリケーンを含む)と内陸部、直下型の大規模地震の二つ。


政府は、これらの知性体と交渉をし、少しでも被害を減らせないものかと考えた。


そこで枝川のような自然生命とのコンタクトを可能にする人間、自然生命体交渉士制度が作られたのである。


枝川は、日本国内でもわずかにしか、いない気象交渉士の資格を持った人物。

そして枝川は、さらに貴重な地震交渉士の資格をも有する人物で、日本では、6名しかいない交渉士の中の1人だった。


十分に発達し知生体として生きている、台風21号の雲の中には、すでに《反応浮き》66基が浮かべてあり、すべて正常に作動していた。


専用のプラグスーツを着て異様な大きさのヘッドセットを頭部に装着。

特殊な反応液剤を注入されトランス状態を維持させられながらもなんとか自分の意志で大きく深呼吸した枝川は、装置を目覚めさせる。

脳へ直結させたいくつもの電極弁を少しずつ時間差で開かせながら交渉を開始した。


「大きく…大きく…  素晴らしい…  美しい…」



枝川は、そう、ゆっくり、3度同じメッセージを繰り返し、台風21号へ話しかける。


相手の返事を待つ。


専用機に搭載されている気圧計に生命体特有の微量な揺らぎが検出され始めた。


しばらくして枝川の脳にも知生体と思われる独特の震わせる波動が送られてきた。


「私は…  大きく…  大きく… 素晴らしい…  私は… 美しい…」


よし!!


台風からの返事が来た。



枝川は、何回かやり取りを成功させた。

そして本題に入る。


今回の使命の一つは、人柱ひとばしらを1名にしてもらえるように交渉すること。

精神を研ぎすまし、人としての精神を極限までにピュアにし、対話を交わしてゆく。


このときの精神の状態が気象交渉士の資格を持った人物の中でも最高のスキルを持つ枝川独自の交渉力なのだ。


今回の台風21号の規模から言えば最低、2名の犠牲ひとばしらが必要なのだが、何とか枝川の粘り強い交渉のおかげで話がまとまった。

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