year peace

奏鈴乙音

Ⅰ.ごめんね何も言えなくて

 私は歌うことが好きです。

 音楽が好きです。

 でも私は


「 」

 喋ることができないのです。


 この物語は、こんな私が歌うことができるようになる物語。

 

私が通っている「美空高校」は、音楽の特化している日本でも珍しいタイプの学校です。ギター専門の「弦楽器科」、ドラム専門の「打楽器科」、歌専門の「声楽科」など他にも色々な科があります。ちなみに私は声楽科に通っています。


先生たちには「他のところにしたら?」とか「ほんとに声楽科でいいの?」とか色々言われましたが私は…っと自己紹介がまだでしたね。


私の名前は「響琴音」といいます。16歳の高校1年生です。

特技と趣味は歌うことです。と言っても声は出ませんが…

普段はこんな風に紙に字を書いて会話しています。


『私はたとえ話すことが出来なくても「歌」に関わりたいのです。』


自己紹介も済んだので、話を戻しますね。こんな感じで先生たちを説得して、私は声楽科に通っています。

            *

ある日の夕方、私が帰る準備していると、一人の少女に声を

かけられました。白と金が混じったストレートヘアーで左目が隠れている不思議な雰囲気の人です。


「響さん、こちらへ来てくれます?」

私は頷いて少女の元へ行きました。少女はスマホで動画を見ていました。バンドのライブの動画のようです。


「知っています?このバンド?」

少女は私にイヤホンを片方渡すと、私に動画を見せました。

そのバンドとは世界的に有名な「ETERNALSINGERS」


演奏していた曲は最近リリースされた「God knows…」

というらしいのです。


渇いた心で駆け抜ける

ごめんね何もできなくて


私はつい聴き入ってしまいました。こんなに素晴らしい曲は最近聴いたことがないですね…


私は動画を見終えると少女にこの気持ちを伝えることにしました。


『すごいですね!あのギター!ドラム!そして安定感のあるボーカル!こんな素晴らしい音楽、最近聴いたことないです!』


これを聞くと少女は笑いました。

「やっぱり。あなた歌が好きなのね。」


私は大きく頷いた、次の瞬間少女は衝撃の一言を放ちました。

「私の名前は鳴沢奏。響さん、私と一緒にバンドやらない?」

            *

『私とバンドって…本気ですか!?私声でないのに…』

「本気よ。あなたにボーカルをやってほしいの。」


そういうと、鳴沢さんは私にある動画を見せました。

『これ…私の…一体どこで…』

「過去にあった全国中学合唱コンクールの映像を調べたの。そしたら、あなたが歌ってるじゃない。綺麗な歌声ね。バンド向きだわ。」


鳴沢さんは続けます。

「ちなみにこれは三年前の映像よ。あなたボイトレすればきっと

歌えるようになるわ。」


私もそれはなんとなくわかっていました。「歌う」ことはできるようになるのではないかということは。それができるようになっても「話す」ことは不可能なのです。


でも私はこのバンドの話を受けることにしました。私の可能性を見出すために。


『バンドの話、受けさせてもらいます。私が最高のボーカルになってみせます。』


「そう言うと思ったわ。よろしくね。琴音。」

『よろしくね。カナちゃん。』


私はカナちゃんと握手をして、カナちゃんに言いました。


『ごめんね、何も言えなくて。』

「いいのよ、気にしないで。」

私たちは下校の鐘とともに教室を後にしました。


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