第百四十二話 千年魔力vs超広域絶対殲滅破壊兵器・上


――タイガさん、グランドジャスティス降臨ですっっっ!


 と、ライラの絶叫と共に地上に降臨した、全長三百メートルの鋼鉄の大巨人グランドジャスティス。

 ゲームの中では幾度となく見上げたが、実際に具現化した実物を初めて目の当たりにして、その迫力ある偉容と神々しいまでの迫力に、俺は思わず感動で打ち震えていた。


「おおっ、すげえっ……! これが実際のグランドジャスティス……! なんてカッコイイんだ、くそ!」


 グランドジャスティスは、ゲーム内で各レベル毎に五十ミッションクリアをする度に、報酬として貰えるボーナスウェポンにおいて、最高レベルのヘルモード最終五十ミッション達成のボーナスウェポンだった。

 俺はアルティメットストライカーで全三百ミッションを達成した時に入手しており、当然最高難易度の一番最後に手にすることが出来る兵器なので、その破壊力も別格だ。


 超弩級人型鏖殺おうさつ兵器の名が示す通り、全長は三百メートルと超巨大で、全体のデザインは勇者シリーズのスーパーロボットがモチーフらしい。

 そして鏖殺おうさつとは皆殺しを意味していて何やら物騒だが、ビームや火器の類いは一切装備しておらず、唯一の武器は特大の戦槌ウォーハンマーだけと言う潔さだった。


 この特大の戦槌ウォーハンマーで、マップ上に湧いた改造生物の群れをモグラ叩きの要領で叩き潰すところに、ゲーム「ジャスティス防衛隊」が世間でおバカゲームと評価されてしまう理由の一つだったりするが、見た目の間抜けさに反して戦槌ウォーハンマーの威力は絶大で、胸がスカッとする破壊力と爽快感はかなり癖になる程だ。

 そしてその事を俺と同じくらいに理解しているミナセも、先ほどから軽くハイ状態になっていた。


「くうーっ、まさかグランドジャスティスの実物を生で拝める日が来るとは……! でも、虎の子のグランドジャティスを出したからと言って、本当にあの化け物ウラノスを倒せるの!? あいつは私たちの渾身の攻撃だけでなく、妖精族とエルフ族の攻撃を受けても倒せなかったのよ!? 正直に言って、いくらグランドジャスティスのパワーでも勝てる気がしない……」


 さすがと言うべきか。

 ミナセはグランドジャティスを見てただ盛り上がるだけでなく、きちんと冷静にウラノスとの戦力差を推し量っていたらしい。

 勿論それが出来るのも、ミナセが全兵科で三百ミッションクリアを達成した、トリプルケイトエピデンドラム保持者だからだろう。


「やっぱりミナセもそう思うのか!? 俺だってグランドジャスティスだけでウラノスを倒せるとは微塵も思ってないよ」


 俺はそう答えると、ひとまずはグランドジャスティスの掌へと飛び乗った。

 ミナセが俺の後に続く。

 そして俺たちを乗せた巨大な掌がエレベーターのように上昇していく。


「とりあえず俺がグランドジャスティスでウラノスと戦っている間、ミナセにはボディガードを頼む」


「それは全然構わないけれど、一体何をする気なの? 勝算はあるの?」


 と、尋ねるミナセだったが、すぐに何を思いついたらしく眉根を寄せた。


「でもグランドジャスティスでも勝ち目が無いとしたら……残るはボーナスウェポン全種コンプリート特典の……。まさか――!?」


「ああ、その通り。ザ・ハンドレッドを使う」


 俺たちを乗せた掌が頭部に到着したので、俺は頭頂部へと飛び移った。

 その後ろを非難めいた声を上げながらミナセがついて来る。


「――ちょっとタイガ正気なの!? ザ・ハンドレッドの設定上の正式名称は超広域絶対殲滅破壊兵器って知ってる!? 要はマップ殲滅兵器なのに、そんな物騒なものをこんな所で使えば、王都は勿論グランドジャスティスだって無事では済まないのよ! そうなったらマシューや村の子供たちだって……! そんな事…私は絶対に許さない……っ!」


 と、ハイパーコンバットチェインガンの銃口を向けるミナセ。

 その怒りを孕んだ瞳で睨みつけてくる顔を見れば、すぐに真剣だとわかる。


「たく……、それがつい少し前まで死にたいと嘆いてた奴の顔かよ。元気を取り戻したのは嬉しいけど、最後までこちらの話も聞いてくれ。別に俺はヤケを起こした爆弾魔でも放火魔でもないからな。至って冷静で正気だ」


「で、でも、ザ・ハンドレッドは使うつもりなんでしょ?」


「ああ、勿論。というか使わざるを得ない。もうそれしか手が残されていないから。でも時間が惜しいから詳細は出撃の準備をしながら話すよ」


 俺は頭頂部の中央に突き出して見える、グランドジャスティスの操縦席マスタースレーブに向かうと、アルティメットストライカーを装着した状態でお立ち台の上に立った。

 すると床からせり出して来た五つの機械式アームが、カシャンカシャンカチッカチッと小気味いい音を立てながら、ABCアーマードバトルコンバットスーツの胴体と両腕両脚に接続されていく。


 何故グランドジャスティスの操縦席マスタースレーブが、こんな頭の天辺の、それも剥き出しの状態で設置されているかと言えば、ABCアーマードバトルコンバットスーツを着用した状態で運用する事が前提だからだ。


「――俺はウラノスと戦っていて、一つ気付いたことがある。はっきりとした確証がある訳でもないけど、あいつが見せた恐ろしいまでのタフさを説明するには、これしかないと思うんだ。ミナセが俺にも魔法が使えると教えてくれた時に、体に刻まれている魔方陣が吸い込む魔力に上限は無いと言っただろ? その言葉がヒントになったんだ。ウラノスがあそこまでタフで打たれ強いのは、一つは吸い込む魔力量が異常に大きい筈だ。そして二つ目が肝心なんだが、ヤツの体は恐らく魔法石のように魔力を貯め込んでおけると思う。それもほぼ無尽蔵に」


「無尽蔵って――! そんなのもう不死身ってことでしょ!?」


「しかしそうじゃなければ、あの不死身とも言えるタフさと再生能力の説明がつかないんだよ。きっとヤツは地下遺跡の最下層に封印されている千年もの間、ずっとこの世界への復讐と反撃を夢見て魔力を貯め込んでいたんだ」


「そんな…千年分の魔力だなんて……!」


「その千年分の魔力がある限り、ウラノスは文字通り不死身なんだよ。ヤツにとっては俺たちの今までの攻撃は蚊に刺された程度だったんだ。こちらの力量を推し量る様に魔力を温存しつつ、こちらの攻撃力が上回れば魔力を放出し防御を固める……。そんないたちごっこを繰り返していても、いつかはこっちが精も根も尽き果てていた筈だ。だからこそ――」


「ザ・ハンドレッドの出番――!」


 ミナセも覚悟を決めたように頷いた。


「ああ。ヤツを倒すには千年分の魔力を一気に吐き出させるしかない。勿論こんな所でザ・ハンドレッドを使えば街も人も全滅だ。だからグランドジャスティスでウラノスを海に引きずり込む……!」


「そうか! 水中ならザ・ハンドレッドの衝撃も多少は緩和されるかも!? うーん、だいじょうぶかなぁ……」


 ミナセの歯切れが悪く、腕を組んで考え込んでしまうのも無理はない。

 それだけコンプリート特典武器の威力を身をもって知っているからだ。

 しかしそれは俺も同じで、ザ・ハンドレッドの衝撃を海水だけで食い止められるとは思っていなかった。

 当然その対策も既に頭にあってこそのこの作戦だ。

 俺は黄金聖竜を見た。

 黄金聖竜はグランドジャスティスが降臨した当初から、頭部より少し高い位置でホバリングをしていて、ずっと俺とミナセのやり取りを見守っていたのだ。

 俺は心の中で黄金聖竜に話しかけた。


『聖竜様、ずっと俺たちの会話は聞こえていたんでしょ? そんな訳なんで協力してもらっていいですか? あと妖精族とエルフ族の協力も絶対に必要なので、聖竜様から頼んでもらっていいですか?』


――それはやぶさかではないが、それよりも私はこの場に少年が居てくれたことに心から感謝しているよ。ウラノスの体内に宿る千年分の魔力……。それは非常に興味深い推察だ。もしそれが事実ならば、世界各地に眠るウラノスの他の肉体も、更に封印を強化する必要に迫られる。それで少年よ、本当に目の前のウラノスを倒すことが出来るのか……?


『正直に言って、やってみなけりゃわかりません。今から作戦の内容を頭に思い描くので、それを読み取ってもらって妖精族とエルフ族にも伝えてください。あ――それからエマリィの事をよろしくお願いします!』


 俺は聖竜の背中でずっと心配そうな顔を浮かべて、こちらを見下ろしているエマリィにサムズアップをした。

 聖竜との会話が聞こえていないエマリィは唐突のサムズアップに戸惑っていたが、最後はエールを送るみたいにサムズアップを返してくれた。


「――それじゃあ勇気も貰った事だしドカンと行きますかっ! ミナセ、援護をよろしく!」


 俺の動きがスレーブアームを介して、全長三百メートルの大巨人へと伝わる。

 重厚な見た目に反してスムーズな動きで両腕が太ももへ伸びると、ガシャンと音を立てて格納口スロットが開放して二つの細長い棒が飛び出した。

 グランドジャスティスの両腕が鋼鉄製の二本の棒を掴むと、ABCアーマードバトルコンバットスーツの掌に感触が再現されて、更に立体映像ホログラフィで構築された棒が掌の中に出現した。


 俺がその二つの棒の端と端を引っ付けると一本の棒へと変わる。更にその先端からメカニカルな駆動音が響き渡ると、樽を横にしたような大きな槌が出現した。

 俺の身長を優に超えるその戦槌ウォーハンマーの実物は、柄の部分だけで三百メートルもあり、槌の打撃面の直径は百メートルもある巨大なものだ。

 俺は立体映像ホログラフィ戦槌ウォーハンマーを掲げると、頭の上で思いきり回した。

 その動きをトレースしたグランドジャスティスが、同じように頭上で巨大な戦槌ウォーハンマーを振り回す。

 ブンブンと轟音が頭の上で唸り、剥き出しの操縦席は強烈な風圧に容赦なく煽られる。


「せいやっ!」


 俺の一声と共に振り下ろされた戦槌ウォーハンマーが、ウラノスの肉団子のような巨体を打擲した。

 最後の戦いの火蓋が切って落とされた――

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