第百三十六話 全範囲皆殺し魔法(腐食付与)を撃ち破れ!!!・2

ヴオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!


 俺たちの接近を知ってか知らずか、ウラノスからまた死の叫喚が沸き起こった。

 意識がざらりとした何かに包み込まれたような感触に震える。

 大地と空気が腐食して、体全体に無数の針が刺さったような痛みが駆け抜けていく。

 しかし即座に右腕から暖かい波動が発生して、それが全身をくまなく包み込むと、意識と肉体の不快感が霧のように消えて行った。

 黄金聖竜の魔法具ワイズマテリアが発動したのだ。


「エマリィ、大丈夫!?」


「――本当にダメだと思った時は肩を叩く! だから今はボクのことより攻撃に専念して!」


「わかった! でも決して無理はしないで!」


 エマリィの叱咤を受けて、俺は攻撃に集中した。

 まずは先ほどと同じように、ストライクバーストドリフターとアマテラスF-99とキュベレーオメガの飽和攻撃を。

 二発のストライクバーストドリフターが体内で炸裂して、またしてもウラノスの体が風船のように膨らんでいく。


 今度はそこへリロードが終了したばかりのアマテラスF-99全弾をぶち込む。

 装弾数全十二発が命中した場合のヒットポイントは、驚異の八万千四と言う破壊力が、膨張したウラノスの皮膚を食い千切った。

 更にそこへ無線で指示を出していたレーヴァティン第二波が、頭上から襲い掛かる。

 弾ける閃光。

 轟く轟音。

 渦巻く爆炎でウラノスの巨体は目視出来ないため、仕留めたのかどうかも確認出来ていなかったが、俺は追撃の手を緩めなかった。


 アマテラスとキュベレーオメガを放り出して、グレネードランチャー七つの大罪セブンス・シン二丁持ちトゥーハンドで装備。


ジュポポポポポポポッシュ!!!

ジュポポポポポポポッシュ!!!


 と、特徴的な射出音とと共に、七連発グレネード弾が合計十四発撃ち出された。

 大空に特大の弧を描きながら、約五百メートル先の爆炎の渦に吸い込まれて、更に爆炎の勢いを増す手助けをした。

 そして今度は七つの大罪セブンス・シンを投げ捨て、最上位アサルトライフルHARハイパーアサルトライフル-88をダブルで装備。

 一丁当たりの装弾数二百発。トータルヒットポイントは一万。

 それをダブルで間断なく撃ちこみ続けた。

 射程的にはギリギリと言ったところだったが、グランドホーネットからのミサイル攻撃も続いているので大丈夫の筈だ。


 とにかく今は攻撃を一秒でも途切れさせてなるものか、と引き金を引き続けた。

 そしてリロードタイムを抜けたストライクバーストドリフターを、再度ダブルで撃ち込んでやる。

 と、同時にHARハイパーアサルトライフル-88の二丁持ちトゥーハンドから、アマテラスの一丁持ちシングルハンドへスイッチ。


ズダダダダダダダダダダダダ!!!

ズダダダダダダダダダダダダ!!!


 途切れることのない弾幕。

 そして途切れることのない爆炎。

 その中へ二つのドリルミサイルが吸い込まれていく。

 その直後に、それは起きた。


ヴオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲ!!!


 ウラノスの絶叫が轟く。

 しかも先ほどよりも声音は力強く、地獄への扉が開いたような鬼気迫る迫力に溢れていた。

 

ビリビリビリビリッ!


 周囲の空気が震える。

 ウラノスを包んでいた爆炎が一瞬にして霧散すると、ウラノスを中心に放射状に伸びる「波」が発生した。

 それは音圧と呼ぶには力がありすぎ、念動力サイコキネシスと呼ぶには曖昧過ぎて確信が持てなかった。

 ただはっきりと言えるは、その「波」は確実に存在していて、放射状に伸びながら腐った大地の表層を削り、空気を押し出して嵐を発生させて、周囲一キロ圏内に居る全てを薙ぎ払っていたことだ。


 一瞬にして俺の体も吹き飛ばされた。

 体が地面を転がっていく。

 その衝撃でエマリィの体が背負い子から投げ飛ばされた。

 エマリィの小さな体はあっという間に、腐った大地の上を転がっていく。


「――エマリィ!」


 俺は立ち上がって追いかけようとするが、「波」はABCアーマードバトルコンバットスーツを着ていても垢らえない程に強力で、足元が覚束ない。

 エマリィは地面を転がりながらも、魔法防壁を何枚も張って吹き飛ばされるのを食い止めようとしているが、魔法防壁は展開した瞬間に悉く「波」によって打ち砕かれていた。

 そして魔法防壁が張られなくなり、ぐったりとしたエマリィの体がされるがままに地面を転がっていくのを見た時に、俺の中で何かが引き裂かれるのを感じた。


「エマリィ……!? エマリィ、嘘だろ、そんな……!?」


 しかし俺の体は「波」に邪魔されて、上手くエマリィの元へと辿り着けない。

 それでも圧力に抗って、一メートルでも数センチでも彼女の元へと近付こうと戦っていると、突然周囲の空気が穏やかになった。

 振り返ると、いつの間にか黄金聖竜の巨体が「波」から護る様に、俺とウラノスの間に立ちはだかってくれていたのだ。


「――黄金聖竜……!?」


 俺は礼を述べることも忘れて、エマリィの元へと駆け寄った。

 体が半分腐った大地に埋もれて倒れているエマリィを見つけて、声にならない声を上げて掘り出した。

 そして絶句。

 賢者のローブはボロボロになっていて、露出している顔や、金色だった髪はどす黒く変色していたからだ。


「まさか、腐食が……? でも……」


 思わずエマリィを抱きしめると、右腕に嵌めていた黄金聖竜の魔法具ワイズマテリアが、真っ二つに割れて地面を転がった。


「嘘だ……。魔法具ワイズマテリアが途中で効力を失っていたのか……。ウラノスの魔法が強力すぎて受け止められなかったんだ……」


 そこで初めて俺は自分自身もABCアーマードバトルコンバットスーツがどす黒く変色していることに気が付いた。

 更に装甲のほとんどが崩壊した挙句に、中のナノスーツもボロボロになって、生身の肉体が所々腐食していた。

 しかし今はそんな事よりも、腕の中で目を覚ます気配のないエマリィを思って胸が張り裂けそうだった。

 すると、頭の中で声が響いた。


――大丈夫。そのヒト族の少女はまだ生きている。早く私の背中に乗りなさい。私の鱗に触れていれば治癒と状態異常治癒が働くのですぐに回復するだろう。


 俺はその言葉を聞くと、エマリィを抱き抱えたまま無我夢中で黄金聖竜の背中によじ登った。

 そしてエマリィの全身が鱗に触れるように寝かせると――


「うーん……」


 と、息を吹き返したエマリィ。


「――エマリィ……!?」


 エマリィの肌と髪がみるみるうちに元の肌色と金髪に戻っていく。

 そしてエマリィが完全に目を覚まして上体を起こしたのを見た瞬間に、俺は自分の顔に握り拳を力一杯ぶち込んでいた。


「きゃっ! どうしたのタイガ!?」


「あああああああああああああっ、ここまで怖くて情けなくて頭に来たのは生まれて初めてだっ! 俺はもう少しで取り返しのつかない失敗をして、一生立ち直れないような心の傷を抱えて、負け犬のように運命を呪いながら生きるかもしれなかった……!」


「タイガ?」


「エマリィは理解できなくてもいい。これは俺の問題だから。俺の気持ちの問題……。俺はエマリィが好きだ。心から大好きだ。でも、あいつは…ウラノスはそんな俺の思いなんか関係なく、この世界を、目の前に立ちはだかる人間を殺そうとしている。だから戦わなきゃならない……。この思いを守るために、エマリィを守るために。でも、どこかで覚悟が出来ていなかった……。その事にたった今気付かされた……」


 俺はエマリィを抱き寄せると、そっとキスをした。

 エマリィはぽかんとしている。

 そんな彼女を更にぎゅっと抱きしめると、腕の中の体温が増したのがわかった。


「もしエマリィが死んでしまったら俺も死ぬ。だから、この命に誓ってもう一度お願いします。もう少し俺に力を貸してください」


「そんな、タイガ……。ボクは…ボクだってタイガの事が大好きで、力になりたいから……」


 そう言ってもらえるだけで勇気が湧き上がる。


「あと黄金聖竜――様も、いいですか?」


――ウラノスとの因縁は私の方が強いのだがね。よかろう、少年の頼みを聞くとしよう。それで私はどうしたらいいかね?


 と、愉快そうな声が頭の中で響く。


「この俺とエマリィと聖竜様のパーティーは、前衛が俺一人で行きます。二人は後衛でサポートを。 だから聖竜様はこのまま俺をウラノスの真ん前まで連れてってください!何故ならあの野郎は、俺がこの手でぶっ潰さないと気が済まないのでっ!」


 ウラノスは既に王都目前で、即死魔法の範囲が王都の一部にかかる位置にまで来ていた。

 俺はビッグバンタンクに換装する。

 背水の陣で臨むのは、兵種最強火力によるアクセルタイムだ。

 黄金聖竜がウラノスの上空で旋回を開始する。

 俺はウラノスの眼前に飛び降りた。

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