第百三十三話 迎え撃つ者ーインターセプターー
ヴォルティスを倒した後で、俺は無線でライラを呼び出そうとした。
これから俺は黄金聖竜と戦っている筈の
マキナはゲーム内のラスボスで、どうやら俺と共に異世界転移してこちらの世界で具現化していたらしい。
マキナのゲーム内での役割は、改造生物を駆使した世界征服だったが、サウンザンドロル領の大騒動や、今回の連合王国の事件を見るに、どうやらこの異世界でもゲーム内での目的を愚直に遂行しようとしているようだった。
俺を召喚した何者かが、一体何の目的でマキナまで召喚したのか知る由もないが(そもそも故意ではなく偶然の可能性もある)、とにかくマキナを止めるのは俺の役目にほかならない。
その為にすぐにでも黄金聖竜の元へ戻る必要があったのだが、せっかく救出したユリアナやヨーグル陛下にアルテオン殿下を、こんな戦火真っ只中に置き去りにする訳にもいかない。
それでライラを無線で呼び出し、スマグラーアルカトラズを迎えに来させようとしたのだが――
崩壊した観客席の向こう側から、何かが近付いてくる気配を感じて振り返った。
すると瓦礫の裏から、ひょっこりと姿を現したのは――
ゴルザの乗る
「――ゴルっちか! グッドタイミング!」
俺は思わず歓喜のガッツポーズを取った。
コクピットからはゴルザが顔を出し、後部の荷室からはイーロンとテルマの二人が飛び降りたかと思えば、一目散にユリアナとヨーグル陛下の元へと駆け寄った。
「ユリアナ様――! それにヨーグル陛下、ご無事で何よりです……! ここからは私とテルマがこの命に変えてでもお二人様を守り通してみせます故!」
「うわーん、ユリアナ様ぁ! 自分チョー心配したっす! 生きた心地がチョーしなかったっすよぉーっ! 甘えていい!? チョー甘えていいっすかぁ!?」
感情をぐっと噛み殺して神妙な顔を浮かべているイーロンと、妹のようにユリアナに抱き着いて甘えるテルマ。
このまま王室のVIP達はゴルザ達に任せて、俺は早速黄金聖竜の元へと思ったのも束の間、無線の着信を報せる電子音が鳴り響いた。
それも俺だけでなく、イーロン達の
――こちらグランドホーネットよりライラちゃん! オープンチャンネルで全無線機に呼びかけています!
「それはマジなのか、ライラ……!? お前、この状況でよく成分解析にかけることを思いついたな。いや、本当に見直したよ……」
俺は心底感心していたので、その事をライラに告げると、聞き覚えのある声がスピーカーから流れて来た。
――タイガ、それを思いついたのはライラじゃなくてこの私だからね。そこのところは間違えないでね。
「その声は……ミナセか! という事は
――はい、お陰様で。いろいろと迷惑をかけたけれど、生き返ると言う選択へ導いてくれたことに本当に感謝しているよ……
「ミナセ……。そうか、そうか……」
思わず鼻の奥がつんとするが、スピーカーの向こうのミナセの照れ笑いに助けられた。
――と、感謝のお礼はまた改めてって事で! いま私は地上に降りていて、
正直言うと、大勢の市民を守りながらだと荷が重いの。
「巨大プラントがまだ居やがったのか……。でも、ごめん。どうやら俺が異世界転移した時に、マキナがこっちで具現化したようなんだ。マキナの野郎は今、
――マキナ!? マキナってラスボスの人工知能マキナのこと!? ああ、それは確かに一大事ね。わかった。
ありがとう、と礼を述べるも、やたらに威勢のいい声がスピーカーから流れて来て俺の声を掻き消した。
――カピタンよ、話は聞かせてもらったぞ! カピタンはそのままマキナと言う者の元へ向かうがよい! 妾と八号、そしてハイネスを筆頭にしたルード軍勇士が
「ハティ! わかった、頼りにしてるぜ。いつもみたいに大暴れしてくれ!」
やはりこういう時にイケイケドンドンのハティが居てくれると、それだけで心強い。
俺の気力とモチベーションも限界まで盛り上がる。
「よし、それじゃあライラ、俺が居る地点へスマグラーアルカトラズを回してくれ。陛下と姫王子たちを回収する」
――ライラちゃんかしこまり!
と、無線を終えるや否や、ユリアナとアルテオンが思いつめた顔で詰め寄って来た。
「――タイガ殿! 私は地上に残って連合王国の民を助けたいと思います。どうか父上を説得していだけないでしょうか!? タイガ殿の口添えがあれば父上も納得すると思うのです……!」
「ヴォルティスも父も居なくなった今、連合王国の民を導くのは私の役目でございます。只今の無線でハイネスを始めとする私の兵たちがまだ無事である事が知れました。私はこのまま彼らと合流して陣頭に立たなければなりません。タイガ殿のこれまでのご尽力には感謝しておりますが、これ以上甘えている訳にもいきません。私はこのままハイネス達に合流したいと思います。どうか我儘をお許しください」
「姫王子様……。それにアルテオン殿下も……」
二つの国の姫様と王子様から頭を下げられると、さすがの俺も言葉が出ない。
ただアルテオンに関しては、正直に言って好きにしてもらって構わないと言うのが本音だ。
それは別に彼の事をどうでもいいと思っているとかではなく、彼の地位や立場を考えれば気持ちは十分理解できるし、俺が同じ立場だったらやはり同じように行動していただろうと言う共感からだ。
問題はユリアナの方。
俺はステラヘイム王国に属しているので、俺の姫様と言う事になる。
そんな自分の上司にあたる人間をおいそれと危険に晒す訳にもいかない。
ましてや姫王子に与えていた
勿論肌着を着ているので直接は見えないのだが、絹製らしき肌着は汗でぴったりと肌に密着しているせいで、その下に隠れている筈のふくよかすぎる秘密の膨らみが、はっきりくっきりと柔らかそうなラインと共に浮き上がっているのだ。
それはまるで小窓からこっそりと覗いているみたいで、いつにも増してやらしさが増しているので質が悪い。
いや、ほんとにけしからん。
こんな状態で戦地に送り出すのは、水着姿で満員電車に乗れと言っている等しい。
そんな勿体ない――いや、そんな羨ましい――これも違う、そんな腹立たしい――とにかくエマリィ一筋を誓っている俺でさえも、そんな事はとにかくしたくなかった。
それにユリアナとアルテオンの背後に立っているヨーグル陛下は、先ほどから一生懸命百面相を浮かべている。
「このおっさん、こんな時に何を遊んどるんじゃボケ」と一瞬殺意が湧いたが、どうやら俺に何かを伝えようとしているらしい。
そんな回りくどい腹芸などせずに、一国の主君として、一人の父親として威厳ある態度を示せばいいのに。
親バカなのか、ユリアナの頑固さを身に染みてわかっているからなのか、大事な娘の説得を俺に任すってのは一体どうなのよ。
「と、とりあえずアルテオン殿下はともかくユリアナ様は一旦グランドホーネットへ戻りましょうよ。
俺の言葉にヨーグル陛下が力いっぱいに頷いているのがウザい。
しかし当のユリアナは戸惑いの顔を浮かべながらも、決意は微塵も揺らがなかったようだ。
「補修に三十分も……。ならば尚の事私は地上へ残りましょう。その時間があればどれだけの民を救ってあげられるでしょうか。
そこまで言われたら、もうこちらも何も言い返せません。
更にイーロンから、
「ユリアナ様には私の
と、提言されればお手上げです。
「う、うん、まあ、それならば……」
俺が渋々と了承する。
ユリアナ達の後ろで、ヨーグル陛下が涙目で悔しそうに地団駄を踏んでいたが、それは見て見ぬふりをした。
そして陛下を迎えに来たスマグラーアルカトラズが降下してくるのを見上げていると、突然辺り一帯が黒い影に包まれた。
「タイガ――!?」
背中のエマリィが上擦った声を上げた。
何事かと振り返る間もなく、激しい衝撃音が沸き起こり地面が激しく揺れた。
立ち込める砂煙に周囲の視界が遮られて、何が起きたのかまったく把握出来ない。
「ぜ、全員一箇所に集まろう……!」
砂煙に咳き込みながら、俺の元へ集まって来るユリアナや陛下たち。
上空からゆっくりと下降してくるスマグラーアルカトラズの
「これは――!?」
見覚えのある
あの男か女か大人か子供かわからない独特の声だ。
――
「いや、その……」
俺は震えていた。
黄金聖竜の助けを求める言葉に。
何よりも砂煙が晴れて、露になった黄金聖竜の変わり果てた姿に。
特徴的だった全身を覆うきんきらに輝いていた金色の鱗が、所々鱗が剥がれ落ちているだけじゃなく、黒と赤茶色の斑に変色してしまっていたからだ。
どこからどう見ても瀕死の状態で、戦いの激しさが手に取る様に理解できた。
「黄金聖竜をここまで追いつめる敵と戦えって……? 望むところですよ、黄金聖竜! 勝った暁には一緒にマイケルベイコールするって事で!!!」
俺は震えていた。
しかしそれは
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