第百二十七話 進撃の空想科学兵器群・2

――ライラ! たった今王都へ突入した。巨大プラントを四体確認。更に叫ぶものスクリーマーの亜種も見える。既にあちこちに大量に湧いて、王都は大変なことになっている。直ちに五番ナンバーファイブのビーコン地点へ八号を回して、ゴルザの援護に当たらせてくれ。俺とエマリィは姫王子の救出に回る。陛下と殿下の無事も確認したが、一刻の猶予もない状況だ。これより緊急非常態勢レッドアラートだ。空想科学兵器群ウルトラガジェット全兵力を投入して状況に対応してくれ!


「ラ、ライラちゃんかしこまり!」


 と、タイガからの無線を終えると、ライラは即座にコントロールパネル上の警報ボタンを叩いた。

 艦内に警報が鳴り響き、緊急非常態勢レッドアラートへ突入したことを報せる機械音声も流れ出す。

 その物々しい雰囲気に、オクセンシェルナ達が戸惑いの顔を浮かべるのも無理はない。


「ライラちゃんよ、一体何が始まると言うのだ……?」


 しかしライラはそのオクセンシェルナの質問には答えずに、嬉々とした顔でヘッドセットのマイクに向かって注意を促した。


「今からグランドホーネット飛びまーすっ! 目標地点は王都上空! ちょっと傾くので甲板上に居る兵士さんたちは全員艦内に入るか、何かに掴まってくださいね! 本当に飛びますからねえ! 負傷している人には手を貸して速やかに安全な姿勢を取ってくださーい! じゃあ、行きますっ! 本当に行きますよ!? 飛びますよ!? 三、二、一、ゴ―ッ!」


 と、コントロールパネルのLAWS-Land And Water Sky-ハイパードライブシステムのダイアルをSKYにセット。


「――飛行翼ユニット展開!」


 ライラの声に反応して艦体中央から後方に掛けて巨大な主翼が、そして艦前部にやや小振りな安定翼の計四枚の飛行翼が展開する。


「――強襲揚陸司令室改め魔法戦艦グランドホーネット発進します!」


 と、ライラは操縦桿を手前に引く。

 すると、艦首が水しぶきを上げながら浮き上がった。

 その分海中に沈んだ艦後部だったが、ゴゴゴゴゴッと轟音が沸き起こると巨大な水柱が立ち上がった。

 そして全長三百メートルの巨体は驚くほどスムーズに海面から離れたかと思うと、そのまま王都上空を目指して駆け上がっていく。

 とは言っても、速度はあくまでも微速から半速程度の速さだ。

 巨体故により動きは遅く、重厚に感じるが、実際には地上から放たれた風船のように軽やかに何の抵抗もなく空中へと舞い上がっていた。


「グランドホーネット。一度は両断されていますからね。ここは慎重に、上空千メートルの地点まで上がったらそのまま滞空してください」


 ライラは艦橋指揮AIに向かって指示をすると、今度は八号を呼び出した。


「八ちゃん、タイガさんの指示でゴルっちの方へ援護に回ってほしいそうです。出れますか?」


――大丈夫。今からガンバイカーで出るところです。出てもいい?


「OK! ドーンと行っちゃってください!」


――了解! 八号、ガンバイカー部隊で出ます!


 直後、甲板の方から甲高いモーター音とタイヤのスキール音が聞こえてきた。

 ライラが窓の外に目を向けると、八号の乗った大型バイクが斜めに傾いている甲板を物凄い勢いで駆けあがって行く姿が見えた。

 その真後ろを自動操縦オートパイロットのガンバイカーが四台追走している。

 そして五台のガンバイカー部隊はそのまま逆Vの字型に甲板を飛び出して行き、王都に向かって降下していった。


「――い、今八号君が飛び降りて行ったぞ!? 大丈夫なのか!?」


 オクセンシェルナが素っ頓狂な声を上げて慌てふためいていたが、ライラはヘッドセットに向かって喋るので精一杯だ。


「ゴルっち! そちらの状況はどうですか!?」


――うっす……! 今ハティさんとイーロンさん、テルマさんと合流したところです! ただ…叫ぶものスクリーマーの亜種が物凄い数で、五番ナンバーファイブの火力と、テルマさんの土魔法だけでは防ぎきれませんっ……!


叫ぶものスクリーマーの亜種がそんなに……!? とにかく八ちゃんが今そちらに向かっていますから! それまでは何とか持ち堪えてください!」


――うっす、了解です……!


 すると、テルマの声が割り込んで来た。


――ライラ、ようやく無線がチョー繋がったっす! ユリアナ様の方にはタイガ殿が向かった事は、ゴルザにチョー聞いたっす。それで何か進展はあったすか!?


「テルマやん……! 無事だと信じてましたよ。ユリアナ様の方は続報はまだですが、タイガさんなら絶対に大丈夫です。今は自分たちのことだけに集中してください。とにかくグランドホーネットからも空爆を開始しますから、あと少しだけ乗り切ってください!」


 そして今度はイーロンの声がスピーカーから流れてきた。


――ライラ、マリとメイの二人は今、こっちで知り合ったマシューと言う少年と、彼の住む村の子供たちを引き連れて中央の迷宮セントラルダンジョンへ向かっている。全員年端の行かない子供たちばかりのグループだ。何とか探し出してしてそちらにも救援を送ってやれないだろうか!? どうか頼む!


「え…お姉ちゃんとメイが……!?」


 と、悲痛な声を上げたのは、メイド三姉妹の次女ユイだ。

 今年成人を迎えたばかりの十五歳で、しっかり者の姉と甘えん坊で人懐こい妹と比べると、控えめで大人しい印象のある少女だった。

 そんな少女が今にも泣きそうな怯えた表情を浮かべているのを見て、ライラはヘッドセットに向かって「任せてください」と言い切った。

 そしてスピーカーから艦橋指揮AIの機械音声が流れて、上空千メートルに達したことを告げると、

グランドホーネットがゆっくりと姿勢を水平に戻した。


「グランドホーネット。地上の様子をモニターに――」


 ライラの声に反応して司令室内の複数のモニターに、地上の様子が映し出された。

 その様子を見たオクセンシェルナ達から驚嘆の声が漏れる。

 王都のあちこちで火の手が上がり、逃げ惑う群集とそれに襲い掛かる群集で通りが埋め尽くされていたからだ。


「居ましたね、プラント!」


 モニターを食い入るように見つめていたライラは、モニターの一つにプラントを見つけると、画面を指でタッチしてプラントを囲むようにして円を描いた。


「グランドホーネット! この目標に対地ミサイルで攻撃を! ほかに残り三体居る筈です。見つけ次第速攻で叩いてください!」


 刹那。


シュババババババババーン!


 と、甲板から幾つもの白煙が連続で立ち上がって対地ミサイルが発射された。

 十数発のミサイル群はグランドホーネット上空で旋回。

 四つのグループに分かれてグランドホーネットの真横をすり抜けていく。

 そして四つのモニターが、地上で起きた四つの爆発を映し出した。

 それを確認したライラは間髪入れずに、天井に向かって更に指示を繰り出す。


「グランドホーネット! スマグラーアルカトラズを空爆システムBで射出。目標は五番ナンバーファイブビーコン地点へ。攻撃目標は五番ナンバーファイブパイロットに確認を。続いて戦術支援タクティカルサポートモジュールの五番ナンバーファイブを除く全ナンバーズを自動操縦オートパイロットで射出。王都を囲むように城壁の上に等間隔で展開。頭に二本角のある叫ぶものスクリーマー亜種を、一人足りとも街の外へ出さないように封じ込めてください! 続いてVRコンバットドローン・ジャベリンを六機射出!」


 と、マシンガンのように言い終えたライラは、今度はユイの手を掴んで傍らの壁までダッシュ。


「皆さんもこちらへ来てください!」


 オクセンシェルナ達も呼び寄せると、壁の棚から取り出したヘルメットを全員に手渡していく。


「今ここにはライラちゃんとユイ、オクセンシェルナさん、アルファンさん、アルマスさん、チルルさんの六人しか居ません。この六人で今から人探しをしてもらいます。探し出すのはユイの大事な姉妹であるマリとメイ、そしてマシューと言う少年とその友達です。ライラちゃん達ステラヘイム組はマリとメイの顔は知っていますが、マシューと言う少年たちの事は知りません。アルマスさんはどうですか?」


「わ、私はタイガさん達を山の別荘で出迎えた時に、マリさんとメイさんとも顔を合わせているので知っています。それにマシューや村の子供たちのことも良く……。あとチルルもマシューの事は知っているね?」


「ええ。マシューとは何度か顔を合わせているから……。でも私なんかが役に立つの?」


 と、アルマスとチルルは不安な顔を浮かべている。


「大丈夫です。詳しく説明している暇はないので省略しますけど、今からそのヘルメットを被ると、意識だけが王都へ飛んでいけるようになります。難しい操縦は一切必要ありません。全て自動操縦オートパイロットが担当します。攻撃も自動ですから、とにかくマリとメイ、マシュー、村の子供たちと、自分が知っている顔を探し出すことだけに集中してください。あ、あと、もしも左へ曲がりたい時は『左へ』、止まって欲しい時は『止まれ』と声に出せば、そう動いてくれますからね。じゃあ、今渡したヘルメットをよーいどんで被ってください。そうすると、皆さんの目の前には王都の街並みが見えてきます。はい、よーいどん!」


 ライラは全員が恐る恐るながらもヘルメットを被ったことを確認してから、自らもヘルメットを被った。

 そして次の瞬間。

 ライラ達六人の体は、王都上空に滞空しているVRコンバットドローン・ジャベリンの上にあった。

 六機浮かんでいるマルチコプター型ドローンは全長二メートル程のサイズで、各機の上にはそれぞれの立体映像が鎮座していた。


『こ、これは……!? 体が一瞬にして移動しよった……!』


『はは、なんてことだ……、こんな素晴らしい経験ができるなんて……!』


 オクセンシェルナとアルファンは子供のようにはしゃいでいる。その横ではアルマスとチルルがお互いの立体映像に手を伸ばして、触れられないことに不思議そうな顔を浮かべていた。

 そして一人心配そうな顔で足元に見える人波を注視しているユイ。


「実際の肉体はグランドホーネット司令室にあるので、危険なことは一切ありません。だから落ち着いて人探しに専念してください。あと会話は全て無線で出来るので、誰かや何かを見つけたら、とにかく何でもいいので声に出してください。後はライラちゃんの方で引き受けますから。では、皆さんよろしくお願いします!」


 ライラの掛け声を合図に、六機のVRドローンが一斉に街中へと散らばって行った。

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