第百二十八話 進撃の空想科学兵器群・3
――八ちゃん、タイガさんの指示でゴルっちの方へ援護に回ってほしいそうです。出れますか?
と、ライラの無線が飛んで来た時、既に八号は特殊可変戦闘車輛ガンバイカーに跨って、搬出エレベーターで甲板上へ出るところだった。
「大丈夫。今からガンバイカーで出るところです。出てもいい?」
――OK! ドーンと行っちゃってください!
「了解! 八号、ガンバイカー部隊で出ます!」
八号はアクセルを思いきり捻った。
超電導モーターが甲高い唸り声を上げる。
後輪が激しいスキール音を上げて白煙を巻き上げた。
強烈な加速に前輪がふわりと浮き上がるが、力任せに押さえ込んで急加速。
そしてそのすぐ真後ろを、
五台の特殊バイクは八号を先頭に、そのまま甲板の先端まで加速し続けて行くと、逆Vの字のまま上昇中のグランドホーネットから飛び降りた。
高度約二百メートルからの降下だ。
しかし八号は落ち着いたもので、落下しながらガンバイカーのフロントスクリーンを確認する。
そこに映し出されているのは、ゴルザの位置を示す方角と距離だ。
「ゴルザさん、いま行きますから持ち堪えてくださいよ……!」
八号はガンバイカーの
バシュ! バシュ! バシュ!
と、ガンバイカーの車体から幾つもの圧縮空気のスラスターが射出されて、車体の向きを水平に保ちつつゴルザの居る方向へと向ける。
更に搭載AIが着陸地点を直下の道路へ定めると、更にスラスターが連続で起動して着陸地点へと導いていく。
そして着陸の瞬間に、車体真下のスラスターが一斉噴射。
落下速度を盛大に殺すとともに、ガンバイカーを無事に地面へと着陸させた。
とは言っても、着地の衝撃はそれなりにある。
八号の体が衝撃で振り落とされそうになったが、前傾姿勢で車体にピタリと体を密着させて何とか乗り切った。
そして間髪入れずにアクセル全開。
その後ろを無人の四台が一列になって続く。
着地した場所は路地裏という事もあって、人影は全くなかったが、すぐに前方に大通りが見えて来た。
通りを埋め尽くしているのは、頭に二本角を生やした
「モトデストロイヤー発射!」
八号の声に反応してヘッドライト下部の射出口が開閉し、二発の小型ミサイルが白煙を上げて飛び出した。
着弾。
黒煙と土煙が舞う中を、八号を先頭に大通りへ飛び出すガンバイカー部隊。
そしてドリフトで周囲に居た二本角の群集を弾き飛ばしながら、大通りを猛然と突き進んでいく。
八号の後ろに続く無人の四台も、同じような挙動でピタリと後ろに続いている。
「モトブレイカー発射!」
八号の声に反応してフロントフォークに設置されている四つの機銃が一斉掃射。
ズダダダダダダダダダダダダ!!!
と、前方を埋め尽くしている二本角の大群を一掃していく。
更に八号は左手のベビーギャングと、背中の
その間も右手のアクセルは一切緩めることなく、立ちはだかる二本角を容赦なく弾き飛ばしていた。
このまま八号が率いるガンバイカー部隊は、圧倒的な突進力と攻撃力で大通りを順調に驀進していくと思われた矢先――
八号の顔が強張った。
前方に見える十字路に、左右から二本角の大群が押し寄せて交差点の真ん中で合流したかと思えば、その人波がもつれ合い、重なり合って、みるみるうちに膨らんで無数の人で形成された肉の壁となって立ち塞がったからだ。
「――フォーメーション
八号の一喝に、後続の四台が即座に反応して急加速した。
そして八号の左右の真横に二台ずつ並んで横一列の陣形を取った。
「モトデストロイヤー一斉発射!」
一列に並走する五台のガンバイカーから、二発ずつ計十発の小型ミサイルが一斉に撃ち出された。
発射直後、八号は次の陣形を叫ぶ。
「――フォーメーション
無人バイク四台が加速して八号の前へ。
八号を守るかの様に二列縦隊となり、その後ろを八号が続く。
特殊可変戦闘車輛ガンバイカーには、予めプログラムされた
この
前方に立ち塞がる人肉の壁に、十発の小型ミサイルが着弾。
吹き飛ばされた二本角の死体が大量に宙を舞う。
その中を更にスピードを上げたガンバイカー部隊が、突風のように駆け抜けて行く。
人肉の壁を突破すると、陣形は再度八号を先頭にした縦一列の
すると、その上空をスマグラーアルカトラズが、四つのローターを轟かせて低空飛行で駆け抜けて行った。
通り過ぎていく際に、八号は中央のコンテナ部が空爆システムに換装されている事を見逃さなかった。
――あの方角は…ゴルザさんの方か。あと少し……!
八号は逸る気持ちを抑えて、スマグラーアルカトラズの軌跡を追いかけた。
大通りから交差する大通りへ。
立ちはだかる二本角の群れを弾き飛ばし、或いは避けて、限界速度ギリギリで強引に曲がっていく。
そしてすぐ様に路地を右折する。
背後を四台の無人バイクが追走し、その後を無数の人波が押し合い圧し合い絡み合って、まるで大蛇か人食いアメーバのように迫っていた。
八号の
最後尾の無人バイクのサイドバッグからは地雷型マキビシが無数にばら撒かれて、僅かながらに群体の進撃を遅らせていた。
そうして路地を二度ほど曲がると、一気に前方の視界が開けて来た。
「――!?」
八号はすぐ前方に魔法防壁が横たわっていて、それ以上先へは進めないことを瞬時に察した。
しかし八号は止まらない。
それどろこか、目前に迫る防壁に向かってアクセルを全開にした。
「――フォーメーション
八号が叫ぶ。
無人バイクが一斉に一列に並んだ。
と、同時に八号は前輪ブレーキだけで急制動。
無人バイクも八号の動きに
全ての荷重が前方へと押し寄せて、後輪が宙へと押し上げられた。
大型バイクはそのまま一回転して転倒すると思われたが――
「
バシュ! バシュ! バシュ! バシュ! バシュ!
と、スラスターが一斉起動して、急制動で浮き上がった勢いをそのままに、圧縮空気の噴流がバイクを押し上げていくと、まるで回転する独楽のように軽々と防壁を飛び越えて行くではないか。
しかも五台のバイクの挙動は一糸乱れぬ動きで
そして着地する瞬間、八号は新たな
「
ガシャガシャガシャガキーン!
と、ガンバイカーが瞬く間に姿を変えていく。
車体が中央で二つに折れて、後輪は左足へ前輪は右足へ、跨っていたシートは背中へ、モーターは腰へ、そして車体内部からせり出して来たナノマテリアル装甲が隙間を埋め尽くしていく。
一瞬にしてガンバイカーは大型バイクから、人型攻撃兵器へと変形してみせた。
これこそがガンバイカーが特殊可変戦闘車輛と名付けられた所以だった。
五台の人型ガンバイカーは地面に着地すると、八号を先頭に両足のタイヤをローラースケートのように駆使して滑るように移動を開始した。
そして前方に見えて来たのは、数百近い人間が折り重なって出来た巨大な人肉の山だった。
その全長三十メートルはある無数の人が折り重なって出来た山の上空には、スマグラーアルカトラズが所在なさげに滞空していた。
「スマグラーアルカトラズ? という事は、ゴルザさん達はこの山の中と言う事か!? ゴルザさん、八号です。大丈夫ですか!?」
――うっす。まだ何とか……。弾幕を張っても防ぎ切れずに、テルマさんが作ってくれたトーチカに逃げ込みました。しかし奴らの重みでトーチカもいつまで持つかわかりません……!
八号はゴルザの無線に安堵の表情を浮かべたものの、すぐに真顔に戻った。
八号達を追いかけて来た軍勢が、続々と魔法防壁を乗り越えてこの区画へ侵入していたからだ。
「ゴルザさん、
――うっす。やってみます!
「グランドホーネットへ要請! 自分の上空に居るスマグラーアルカトラズの空爆指揮権をこっちへ移してほしい」
――要請を確認。空爆指揮権が
と、ライラの声に似た艦橋指揮AIの合成音声が答える。
「ありがとう!
バイク型の時にフロントフォークに鎮座していた四つの機銃は、人型に変形すると腰の両側へと移動する。
五台の人型ガンバイカーの機銃が、一斉に火を噴いた。
ズダダダダダダダダダダダダ!!!
しかも全機同調中の無人機は八号機の動きを完全にトレースするので、五機×四で二十の火線は一箇所へ集中していた。
火線が集中しているのは人肉山の東側で、そこに張り付いている二本角達を上から下まで綺麗に掃討していく。
人肉の層は何重にも折り重なっていて、ある程度まで銃弾の嵐で削ぎ落すことに成功すると八号はマイクに向かって叫んだ。
「――ゴルザさん今だ!」
すかさずスマグラーアルカトラズにも
「空爆要請! レーザー照射地点へ全弾撃ち尽くせ!」
八号の人型ガンバイカーの両手の人差し指から二つの赤いレーザー光が照射された。
一つは目の前の人肉山へ。
もう一つは背後から迫りくる新たな軍勢へ。
上空のスマグラーアルカトラズのコンテナの壁が二面開放され、百三十ミリコンバット砲の二つの砲口が顔を覗かせた。
刹那――
ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン!
ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン! ズダァン!
速射モードの狂い咲きで人肉山が跡形も無く吹き飛び、こちらに迫っていた軍勢も爆発と共に吹き飛ばされて、後に残ったのは痘痕のようにボコボコに抉られた道路と肉片らしきものだけだった。
「ハッチよ、少し顔を見ない間に随分と逞しい姿になったではないか」
と、茶化すように
しかし口調の割に顔には疲労が色濃く見える。
「ハティさん、随分大変だったみたいですね……」
「なにイーロンとテルマに魔法石の魔力を分けてもらったからまだまだ動けるぞ? この先を少し行ったところにルード家の獣人たちが避難しておるのじゃ。彼らを助けてやりたい。ハッチよ、妾に力を貸してくれ」
「それは全然構わないですけども、イーロンさん達はどうするんですか?」
「宮仕えじゃからな。姫王子の方へ行ってもらうことにした」
そう話していると、イーロンとテルマを乗せた
「それじゃ妾たちも急ごうぞ」
「ハティさん、これに乗ってください。運転は自動で行いますから跨っているだけでいいですら」
八号は無人機を一つバイク型へ戻すと、そこにハティを乗せた。
そして二人はルード家の兵舎へと向かった。
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