第百二十五話 覚醒の空想科学兵器群
グランドホーネットが、ヴォルティスに両断されて数十分後――
ライラは甲板で体育座りで放心していた。
ツインテールの髪も、アイドル風衣装もずぶ濡れのまま、空を見つめたままブツブツと独り言を呟いている。
同じく何とか無事だったオクセンシェルナを始めに、ピピンとピノ、アルファン、メイド三姉妹の次女ユイ、チルル達は、ライラの落ち込んだ姿に掛ける言葉が見当たらず遠巻きに見守るだけだった。
丁度艦橋を境に前後に両断されたグランドホーネットだったが、艦橋より前の部分は既に海中に没してしまっていた。
しかし艦橋から後ろは今も辛うじて海面に浮いていた。
艦が真っ二つに切断されたのにも関わらず、艦後部が浮いていられるのには二つ理由がある。
一つは機関部が無傷だったことだ。
幸か不幸か、ヴォルティスは魔法戦艦の構造と原理を知らなかったらしく、機関部には一切手を付けなかった。
グランドホーネットは魔法によって具現化された魔法の産物であり、機関部にある魔法石が破壊されない限りは、具現化の状態が維持されるのだ。
そして二つ目は、ステラヘイム軍の兵士の中に居た防御魔法の使い手たちに、切断面に魔法防壁を張ってもらって海水の侵入を防いでいたのだ。
これが艦後部が今も海面に浮いていられる理由だった。
もっともそれでも浸水は完全には防ぎきれていないので、徐々にではあるが艦後部も沈みつつあるのが現状だった。
「魔法石さえあれば私のグランドホーネットは魔法石さえあれば私のグランドホーネットは魔法石さえあれば私のグランドホーネットは魔法石さえあれば私のグランドホーネットは魔法石さえあれば私のグランドホーネットは」
と、念仏のように唱えているライラ。
その濁りきって病みかけの昏い瞳が、ふと西の空に一つの影を見つけた。
その瞬間――
「ライラちゃんの復活キタアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
と、仁王立ちで絶叫するライラ。
そして上空で着陸態勢に入ったスマグラーアルカトラズのコンテナから、八号とアルマスの顔が見えると、今度はチルルが素っ頓狂な声を上げた。
「――アルマスなの!?」
スマグラーアルカトラズが甲板に着陸すると、我先にと駆け出すライラとチルル。
「ま、魔法石は!? 無線で言っていた遺跡にあった魔法石はどこですかっ!?」
ライラは八号の胸倉を掴んで血走った目で問い質す。
その横では久しぶりの再会を果たしたアルマスとチルルが熱い抱擁を交わしている。
「ラ、ライラちゃんさん、苦しい……! 落ち着いてください、大丈夫です。ほら、ちゃんとここに」
八号は
するとライラを始めにオクセンシェルナとアルファン、ユイ、が見事な結晶に感嘆の声を漏らした。
「こ、このサイズが全部で十個も……!? ふひゃひゃ、勝つる! これで我が軍は勝つる! あのガングロ三白眼オヤジ待ってろよぉ、ライラちゃんのリベンジオーシャンブローを顔面に叩き込んでやるからなぁ!」
と、ライラが愛しそうに魔法石に頬をすりすりと擦り付けた。
その足元ではピピンが魔法石には関心を示さず、ずっと台座の方を興味深そうにあれこれと確認している。
「ピピン、この台座がどうかしたんですか?」
「ライラちゃんが知らないのも無理もないと思うけど、この台座の金属はたぶん――
ピピンは何やら神妙な顔でそう答えた。
その表情と言葉の響きに、ライラも思わず真顔になった。
「
「そうだよ。古代四種族のピピンだって見たのは久しぶりだもの。この金属は魔力を増幅する特徴があるから重宝されているの。上手に精製された
「ご、五十倍!?」
その数値を聞いて、ライラは思わず腰を抜かす。
「そ、そうか。ステラヘイム王室の宝物庫で見つけた謎の古代金属版……。タイガさんも魔力を増幅する性質があるらしいと言っていた。それじゃ、あの金属板も?
するとライラは我に返ったように立ち上がった。
「――て、今はそんなこと考えてる場合じゃない! 八ちゃん、今すぐ機関室へ行って魔法石と台座をセットしてください。ダッシュで! ライラちゃんは司令室でシステム再起動をしますから!」
「り、了解!」
ライラの剣幕に圧倒されつつ駆け出す八号。
その後ろ姿を追うようにピピンが慌てて飛んでいく。
「あ、ピピンはミナセさんの
「うん……」
と、ピピンに呼ばれて無表情のまま走り出すピノ。
そしてライラは一目散に艦橋を駆け上がる。
最上階の司令室へ駆け込んで、しばらくすると八号から待望の入電が。
――こちら八号。ピピンちゃんが半分で事足りると言うので、取り合えず魔法石と台座を五個だけセッティングしてみました。どうですか!?
「半分の五個……? ピピン、本当にそれで大丈夫なんでしょうね……!?」
ライラは疑心暗鬼のまま、コントロールパネルの起動レバーを手前に倒した。
ヴウォン!
と、遠くの方で何かのエネルギー波が共振を起こしたようなハウリング音が鳴り響いた。
その音は一瞬で消え去ると、今度は艦底部から、
フォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!
と言う高周波が聞こえて来たかと思えば、司令室の床や壁の至る所から赤や青、黄、緑色をした鮮やかな光の粒子が立ち上った。
「これは魔力――?」
ライラが目を見開いている後ろでは、アルマスが興奮した様子で両手で光の粒子を捕まえようと躍起になっていた。
「はは、凄い、
「見て! 天井が塞がっていく……!」
チルルのその一言に、ライラを始めとする一同が天井を見上げた。
ヴォルティスによって剥ぎ取られた天井は、今や光の粒子が集まって新たな天井を形成しつつあった。
そしてライラは何かを思いついたように、前方の窓の向こうを注視した。
すると、ザバァーンと波を噴き出しながら浮上してきたのは、海の底に沈んでいた艦前部だった。
まるで巨大な穴あきチーズのように、所々が具現化が解除されて消失していたが、そこにも光の粒子が群がって急速に修復が進んでいた。
「自己修復……? いいえ、グランドホーネットにそんな機能はありません。それじゃこの現象は――?」
そこでライラはコントロールパネルのエネルギーフローメーターが、ぐんぐんと上昇していることに気が付いた。
その数値は既に異世界で具現化してから初めて目にする値だった。
しかもまだ上昇は止む気配がない。
「魔法石とオリハルコンのセットが五つでこの数値!? つまりグランドホーネットのこの状況は自己修復なんかではなく、魔力が満たされたことによる再具現化ということ!?」
そのライラの推察を後押しするかのように、エネルギーフローメーターが遂にフル状態に達すると、
ライラの興奮も頂点に達した。
「キ、キタコレ! コンパクトフュージョンリアクター改め、魔法環状列石ユニットによりエネルギーフローメーター怒涛の極点突破キターーーーーーー!!!」
しかもフル状態に達したエネルギーフローメーターは、それでもまだ勢いが衰えないと言わんばかりに眩しい程の光を発するではないか。
そしてまるでそれに呼応したかのように、コントロールパネルのモニターには幾つもの文字列が嵐のように映し出された。
・【追加】輸送ドローン・スマグラーアルカトラズ 二機→四機
・【新規】スマグクラーアルカトラズ用支援兵器ユニット 空爆システムAからF一基ずつ
・【追加】
・【新規】特殊戦闘車輛・ガントラッカー 三台
・【新規】特殊可変戦闘車両・ガンバイカー 五台
・【新規】VRコンバットドローン・ジャベリン 十機
・【追加】艦砲システム・百三十ミリコンバット砲 甲板後部に一基→甲板前後に一基ずつ
・【新規】艦艇用近接防御システム・全自動八砲身バルカン前後甲板に二基ずつ
・【現状】超音速巡行ミサイルレーヴァテイン 五発
・【新規】艦艇用対地・対空・対潜三十連装ミサイルシステム 各一基ずつ
・【追加】艦艇用LAWS-Land And Water Sky-ハイパードライブシステム 水陸→水陸空
・【新規】GJシステム
・【新規】隊員用銃火器 迫撃砲 二十丁 アサルトライフル 二十丁 バズーカー 二十丁 手榴弾(通常) 百発 手榴弾(火炎) 百発 手榴弾(電撃) 手榴弾(催涙) 百発 各弾薬千発
その文字列を見て、ライラも思わず息を呑む。
そして――
「グランドホーネット完全具現化DEATH!」
と、拳を天に突き上げて叫んだ。
すると入電音の後にタイガの声が天井のスピーカーから流れて来た。
――ライラ。こっちは今、王都に着いたところだ。グランドホーネットの様子はどうだ!?
「タイガさん! ビッグニュースです! 八ちゃんが持ってきてくれた魔法石のおかげでグランドホーネット完全復活アーンド完全具現化です! 装備も完全状態ですよ! もうバンバン! バンバン後方支援完璧できます! だから無理難題なんでもバッチコイですよ。どんなオーダーでもどんどんください。この全国オペレーターランキングナンバーワンの皆のアイドルライラちゃんが、すべてパーフェクトに叶えて見せましょう!」
ライラの勢いに、スピーカーの向こうでタイガの苦笑する声が聞こえてくる。
そして声のトーンが一段下がって真剣モードの声音が流れて来た。
――わかった。それじゃ俺とエマリィは今から王都へ乗り込む。街の状況が分かり次第、無線で指示を出すから待機しててくれ。いっちょ
「ライラちゃんかしこまり!」
ライラはヘッドセットに向かって気合いの返答。
その直後、王都上空に向かって伸びる黄金の架け橋を見付けて武者震いをした。
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