ウルトラガジェット・ファンタジア ~異世界空想科学兵器英雄譚~
王様もしくは仁家
第一章 異世界のマイケル・ベイ
【新・改訂版】第1話 異世界はトラブルとともに
ふと目を開けると、そこは空中だった――
俺は今まで部屋に居たはずだったのに、突然耳を圧迫する程の大音量が
鳴り響いていた。
風を切る音だ。
更には呼吸もままならない激しい風圧に襲われて、顔の筋肉が千切れそうになって
いる。
どうやら激しい勢いで落下しているようだった。
「ふぁ――!? 一体どういうこと――!?」
俺の動揺は全身に伝わって、バランスが崩れた体は、ぐるんぐるんと空中でコマのように回転し始める。
地平線、青い空、緑の森、白い雲――
回転する視界に、次々と映し出される風景。
確かこういう時は、体を大の字に広げれば姿勢は安定した筈。
いつかテレビで見たスカイダイビングの知識を頼りに、思い切って両手両足を広げてみた。
しかしタイミングが悪かったのか、俺の体は仰向け状態になってしまう。
そしてその視界に飛び込んできたのは、遥か頭上で煌いている二つの太陽だった。
「ふ、二つ――!?」
そして、視界に飛び込んできた手足が青いことに気がつく。
それはとても見慣れた鮮やかな青色だ。
「これって……もしかしてナノスーツなのか!?」
ナノスーツとはゲーム内のアバターが着用しているパイロットスーツのことだ。
ならばこれもVRゲーム……!?
とは思ったものの、余りにも生々しい引力と重力と風圧に即、全否定する。
「んなわきゃねええええええええ!!!」
俺は空中で体をじたばたと捻ると、なんとかうつ伏せ状態に持っていった。
すると風圧をまともに受けてしまうので、呼吸するのも困難で、両目もまともに開けていられない。
というか、瞼が千切れそうだ。
それでも眼下に広がる地平線や海、山脈は何とか確認することができた。
そして真下に広がっている見覚えのない濃緑の大森林――
「いやいやいや! こんな地形はゲームのマップにないから……!」
ちょっと待て!
ゲームには存在しないマップなのに、何故俺はナノスーツを着ている!?
どういうこと!?
これはゲームなのか現実なのかはっきりしてくれ!
しかし、まるで激しい落下速度と風圧が、脳みそから思考能力を吹き飛ばしているみたいで、考えが一向にまとまらない。
しかもそうこうしているうちにも落下は続いているので、大森林はぐんぐん間近へと迫っている。
つい数秒前までは大地の一角が濃緑に塗り潰されただけにしか見えなかったのに、今じゃ木々の輪郭が一本一本はっきりと認識できる。
死ぬ――
真っ白な頭の中で、恐怖だけがはっきりと浮かび上がった。
「ボイスコマンドオーダー……」
俺は無意識のうちに、そう呟いていた。
ボイスコマンドオーダーとは、ゲーム内でメニュー画面を開くための音声コマンドだ。
ゲーム内に存在しない風景の筈なのに、ゲーム内の衣装を纏っているという違和感が、そう俺に呟かせたのかもしれない。
どちらにせよ、自分の胸元にメニュー画面のホログラフが浮かび上がったのを見た時には、藁にもすがる思いで「兵装」をタップしていた。
ゲーム内では三種類の
眼下には杉の木を連想させる巨木の先端が剣山のように迫っていた。
もう間に合わない――
そう諦めかけた時、周囲に光る粒子となって
ガチャンガチャンガシッカチャシャキーン!!!
と、小気味よい音とともに全身を包み込んでいく。
そして大森林に吸い込まれたのはほぼ同時だった。
「――ぐほうっ!」
激しい衝撃とともに、腹部が枝に打ち付けられた。
それでも落下は止まることなく、折れた枝とともに次の枝へ。
「くぁwせdrftgyふじこlp!」
バキッボキッゴンッ!
という音が鳴り響き、その度に体は二転三転と回転する。
体のあちこちをどこかに打ち付ける度に、鈍い衝撃が全身を駆け抜けた。
それに何よりも目が回って気持ち悪い。
そして最後には、
グァシャーン!!!
と、頭から地面へと叩きつけられた。
しかし重量感と激しい勢いを感じさせる音の割りに、生身の俺に伝わってきた衝撃は少し固いマットの上に着地した程度だった。
そのまま仰向けになって倒れこむ。
意味がわからないまま、とりあえずほっと胸を撫で下ろす。
シールドモニターの隅に映し出されているHPバーを見ると、五千のうち半分以上が減っていて、思わず乾いた笑いがこみ上げた。
「は、はは…とりあえずまだ生きているんだよな……?」
しかしどうにも現実感が乏しくて、なんの感動も湧いてこない。
もしこれでHPがゼロになっていたら、死んでいたと言うことだろうか……
それ以前に、そもそもこの体は生身でいいのか?
全身を確認するために立ち上がってみると、軽い疲労感とともに体が重く、これがHPが半分以上も削られた効果なのか、高度数千メートルから落下したためなのかはわからない。
とにかく特にABCスーツのおかげで怪我はしていないようだ。
すると、突然右方向から悲鳴が。
「きゃーーーーーーーっ!!!」
と、少し離れた木々の間を駆けていく人影が一つ。
顔はよく見えないが、金髪の編み上げツインテールの少女だ。
そして黒いローブに杖という井出立ち。
そのいかにも魔法使いっぽい少女は、何やら必死に後ろを気にしながら走っている。
すると少女が走ってきたのと同じ方向の木陰から、四足歩行の獣が勢いよく飛び出した。
しかもそれは体長が二メートルはある豹に似た肉食獣で、驚くべきことに頭が二つあってサーベルタイガーのような鋭い牙を生やしている。
その双頭の豹は一目散に少女を目掛けて突進すると飛び掛った。
少女の小さな背中に鋭い爪が襲い掛かろうとした瞬間。
突然空中に出現した金色に輝く壁が、双頭の豹の攻撃を防いだ。
壁にぶち当たって大地に転がる肉食獣の巨体。
よく見れば少女が右手を空中に向かって翳(かざ)している。
「うん!? 今のは魔法の防壁ってやつなのか……!?」
思わず唸る。
よく小説やマンガで見かける光景だ。
と、いう事は、どうやら俺は異世界転移したということなのか……?
その後も少女は双頭の豹の攻撃に合わせて、上手く魔法防壁を展開して怪物を寄せ付けないでいた。
思わずその手に汗握る攻防戦に見入ってしまっていたが、ふと胸元に広がっているホログラフが視界に飛び込んで来たときに、胸の奥で何か熱い塊のようなものが弾けた。
「の、吞気に眺めてる場合じゃないよな……! でも本当に行けるのか――!?」
神様に願い事でもするように「武器」をタップする。
武器は三つある兵科毎にそれぞれの特性にあった武器が振り分けられていて、アルティメットストライカーの武器メニューは「アサルトライフル」「ミサイル/ロケット砲」「グレネード」「ボーナスウェポン」の四つだ。
そしてその各項目にずらりと武器リストが並んでいる。
俺はリストをスクロールするのも煩わしくて「アサルトライフル」から
両方ともゲーム内では初期装備で、リストの一番上に名前を連ねていたからだ。
両手に光の粒子が集まってアサルトライフルとグレネードランチャーが実体化。
それと同時にシールドモニターには二つのリロードメーターが。
ゲーム内ではミッション中のリロードは無限だったので、転移してからもそれが有効だと信じたいところだったが、その確認はぶっつけ本番でチェックするしかないようだ。
俺は覚悟を決めて木陰から飛び出すと、HAR-22の銃口を双頭の豹に向けて引き金を引いた。
ダァン! ダァン! ダァン!
と、乾いた銃声が数発、森の中に鳴り響く。
少女に飛び掛ろうとしていた双頭の豹は、弾かれたように後方へ退く。
巨体に似合わぬ俊敏な動きだ。
「今のうちに俺の後ろへ――!」
俺は少女にそう呼びかけながら追撃の手を緩めない。
というか、今俺の口から飛び出した言葉は聞きなれない言語だった。思考は日本語なのに。
おかげで頭が少し混乱しかけるが、今はそんな場合ではないのでスルーすることに。
それに金髪の少女には俺の言葉はしっかりと届いたようで、こちらに向かって走ってくる姿を確認すると、再度HAR-22を発砲。
ズダダダダダダダダダダダッ!!!
引き金を深く押し込むことでHAR-22は連射モードへと切り替わって、怒涛のように弾丸の嵐をばら撒く。
それでも双頭の豹は機敏な動きで弾幕から逃げ回っていた。
「意外と俊敏なのは感心するけどさ――!」
アサルトライフルの制圧射撃で、豹が攻撃に転じないようにしっかりと牽制する。
と、同時に標的の動きを読んで、進行方向の少し先を狙う偏差射撃でグレネード弾を次々と撃ち込む。
双頭の豹が逃げる先々で一足早くグレネード弾が炸裂していった。
そうやって左右で爆発する包囲網によって、自ずと逃げる先は狭められて中央へ寄らざるをえなくなる。
アサルトライフルの弾幕が待ち構える中央へ――
そして運と体力が尽きて一度被弾すると、豹の動きは一気に鈍った。
そこをアサルトライフルで蜂の巣にされ、更にはグレネード弾も受けて盛大に肉片をばら撒くことに。
シールドモニターの隅では、リロードメーターがゼロ表示からフル表示になったことも確認できて、俺は満足感と万能感を噛み締めつつ金髪の少女を振り返った。
「あ、ありがとうございます……!」
木陰から半身だけ出して様子を伺っていた金髪ツインテの美少女は、キラキラとした目で俺を見上げていた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます