トリクル・トリクル

 夏も終わりかけの、月の澄んだ夜だった。

 自らの四片に露を滴らせ、いつものように目の前の道を歩く人々を見ていた。人々の首に、耳に、指に。澄んだ月を映して光る、色とりどりの宝石。

 羨ましい。

 心の底から、彼らになりたいと願った。


「月を映したいと思ったの」

 彼女はのちにそう供述した。

 ”私は紫陽花だった”__その女は、自らの身の上をそう語った。

 確かに記録によれば、彼女の出自は不明だ。わかっているのは、彼女が嫁いだ宝石商は瞬く間に金に恵まれ、商売繁盛したこと。そして彼女がたびたび宝石を横領していたこと。

「でも、いくら身につけても、あの時見ていたようには映らなかった」

 すーっと伝った涙が、月光をうけて煌めいていた。



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6「歩く」「紫陽花」「宝石」

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