異常少女
夕霧
異常少女_innocent
1.甘党のJKと猫舌の僕
「恐ろしい」という言葉の意味を、しっかりと理解している人間がこの世に何人いるのだろうか。僕は殆どいないと思っている。寧ろ、本当に恐ろしいと感じる事なんて、無いと思っていた。
でも、今僕は確信している。僕は、今「恐ろしい」を体感している。
安っぽいサイコホラー映画の展開の様だ。B級映画は嫌いじゃないが特段好きでもない。
血生臭い部屋で、
「お兄さん、遊ぼうよ。」
某日、駅ビルのカフェにて。
「最近行方不明になってる人多くない?」
僕の目の前の女子高生、
「そうなの?今知ったけど。」
ものすごい指の速さで彼女は先程撮った、手元の飲み物の写真をSNSにアップしている。僕に言葉を返す余裕なんか無いんじゃないかと思う程だ。だが、彼女は指の速度を落とさずに、僕に返事をした。
「私の言い方が悪いけど、行方不明だけじゃなくて、もう見つかってる人もいるみたいだよ。まぁ、亡くなって、だけどさ。みんな“お人形事件”って呼んでる。」
「お人形事件?」僕はそのへんてこなネーミングを復唱してから、失笑を零した。事件現場に人形でも置いてあったのだろうか。だとしたら馬鹿げているし、そして小説などのネタとしてはありふれている。
「僕をおちょくっている様にしか聞こえないんだけど。何だよ、その“お人形事件”って」
彼女は楽しそうな笑みを浮かべると、演説でもするようにその事件についての説明をしてくれた。そう、この時の彼女の話し方はまさしく“熱弁”というのにふさわしいと僕は思う。
「変死体がたくさん見つかってるの。それが、皆糸で縫い付けられて表情を変えられたものだったり、関節をおかしな方向に曲げられていたり、…あと、死体同士で目玉とか鼻とか、手足を挿げ替えられていたり。面白いと思わない?何でこうしようと思ったんだろうね。快楽殺人になるのかなぁ、だとしたら相当グロテスクな趣味だよね。」
ぬるくなった珈琲を大きめのひと口、喉に流し込む。あまり熱い珈琲は僕は飲めない。珈琲に限らないが。彼女の手元の飲み物に乗ったホイップクリームは既にしぼんでいる。隣の席の少し気品のある婦人は彼女と僕に気持ちの悪い物を見るような視線を突き刺してきた。
「…興味深いね。その事件の
「変態。」@紗由理。
「変態。」@隣の上品な婦人の心の中の声より。
わかっていても直球に言われるのはどこか胸が痛む。上品な婦人は声には出していないが、確実にそう思っただろう。紗由理の事を見て小さく頷いていた。
「酷いな」
自嘲気味に笑った。
「…で。今回の依頼、兼情報はこれなんだよね。」
彼女が前のめりになって小声で話す。彼女の携帯から僕の携帯にLINEが一通。
先程の「お人形事件」の詳細な情報と、報酬、そして代金が簡潔に書かれたとても女子高生が書いたとは思えない文面だ。
そう。彼女_松下紗由理は僕、「
彼女の友人や家族が事件に巻き込まれたわけではない。そして、僕も探偵じゃない。
ただの殺人事件マニアと探偵に似た動きをしている社会不適合者、といった感じだ。
彼女は、とても優秀だ。そして大人びている。容姿だけ。すらりと高い背と端整な顔立ちは中肉中背、そして童顔の僕とは大違いだ。れっきとした成人男性である僕だが、きっと彼女と僕の年齢だけを言えば大体の人が彼女が成人で僕を高校生と間違えるだろう。
そんな彼女の情報は詳細である分、値も張る訳だ。…おかしい。いつもなら20万はとんでいくところが今日は10万で良いらしい。僕は型落ちの黒いスマホを手に首を傾げた。
「…ごっめーん、今日のあんまり良くなくてさ。だから10人で良いよ。」
僕の考えている事を察した彼女は顔の前で手を合わせ、僕に謝罪の意を見せた。普通の依頼人に対してはこんな事は言わない。だが、彼女には文句を言ってやろう。
「依頼するならちゃんと情報を集めてからにしてよ。どうするんだよ、
「別に良いでしょ、報酬は弾むからさ。」
そう言い捨てると彼女は、僕と、彼女の分の飲料代を置いて帰ってしまった。
まったく。人の話も聞かないで帰ってしまって。
異常少女 夕霧 @mist_girl
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