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笑うことは多分、それまでも見たことがあったのかもしれないけど、覚えていないのか本当に見た事がないのか分からない。けれど俺が見たのはそういうのじゃなかった。
その日はたまたま放課後に学校にいて、何をしていたのかもう覚えていないけれど、中庭を横切っている途中に生物準備室の窓に視線が行ったのだ。そこに人影があったから。
白衣を着た人が居たから、先生がいるんだなぁとかぼーっと見ながら歩いていたら、そこにもう一人いることに気が付いた。マユズミだと気づいたのはその窓の外を通り過ぎてからだった。
目を細めて柔らかく微笑む表情に、無表情で教室にいる彼女が結びつかなくて。イメージが出来ない程、いつもとは違う普通の女の子の笑顔だった。
優しさと快活さと、どこか照れているあの感じ。マユズミも普通の女の子だったんだなぁ、なんて今思えば失礼なことを思っていた。
それからふと気づいて彼女の視線を何度か追ってみたことがある。無表情だと思っていた彼女は、窓の外を見てはほんの少し笑っていた。そしてその視線の先にはいつも同じ人物がいて。
あぁ、好きなんだな。
なんて、さすがに高校生にもなればなんとなくそんな直感が働くわけで。それが本当にそうだったか違ったかは分からないけど、本人にも相手にも誰にも言ったりはしなかった。
一方的な秘密の共有? は違うか。ただ綺麗だと思ってしまった彼女の表情を壊したくなかったのだと思う。
だってマユズミが柔らかく笑う表情が綺麗だってこと、俺と先生以外は知らなかっただろうから。
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