第16話 放たれた悪意Ⅵ

 彰吾、俊、深月の三人は指定されたデパート屋上に着き、最後の一人の協力者。

 ファントム部隊からの協力者を三人は探す。

 だが、辺りを見渡したがそれらしき人物がいない。

 本当に来るのか? と思った瞬間に彰吾と俊は何かを察知して上を見上げる。

 上、即ち上空を見上げる二人、それを見てから深月が上空を見上げた。

 するとそこには、

「ペ……ペイルライダー……!?」

 深月が驚きながら言う。

 ペイルライダーはゆっくりと降りていくのを三人はまじまじと見る。

 屋上に着地をしたペイルライダーを見た彰吾。

「あ!! 大機械祭の時の!!」

 思わず、声を上げながらペイルライダーに指を指してしまう彰吾。

 ペイルライダーがゆっくり歩いて近づいてくる。

 何故か深月はペイルライダーが近づく事に、ジリジリと後ろに下がりつつ、戦闘態勢を取る。

 それが気になった俊。

「……そんなにすげぇの?」

「凄いってもんじゃない……! 軍の中でも実力だけならNo.2です……!」

「ってか、軍人かよ! そして、No.2かよ!」

 凄い奴が出てきたなぁ……と思う俊であった。

 そしてペイルライダーは彰吾の前まで来て止まる。

「あの時は言えなかったが……協力を感謝する。君のおかげで閉じ込められた人達が速く救助された」

 敬礼してから感謝の言葉を言うペイルライダー。

 彰吾は顔も見えない相手で、強化アーマーらしき物を着ているペイルライダーに言われ驚く。

「そして、今回は君達に協力させて頂こう。後――」

 優しく三人に言ってから、突然声のトーンが変わったペイルライダー。

 ペイルライダーの後ろの辺にある自動販売機にデヴァイドを向ける。

「そこでコソコソ隠れてないで出てこい」

 すると、自動販売機の陰からフードを深く被った人物が表れた。

「どーも、ちゃんと来たね。そして……」

 ニヤァ……とフードを深く被った人物が笑う。

「狙撃班も来てたんだ。まぁ、始末したけど」

 ペイルライダーは一応警察に連絡し、狙撃班、突撃班を既に配置していた。

 だが、その狙撃班を一つ潰されたペイルライダー。

「……突撃班も、この様子じゃあやられたな……」

 ボソっとつぶやきながら握り拳を作るペイルライダーであった。

「潰したよ? もぅ、雑魚だった。ほんとつまらない。これだから、無能力者ノンスキルは嫌い」

 吐き捨てるように言うフードを深く被った人物。

 ペイルライダーはデヴァイドのトリガーに指を掛ける。

「撃たない方がいいよ? 私が死んだら本当に解毒薬なくなるから」

「なら、足か腕を消す……!」

「あーもう、無理」

 デヴァイドを向けられながらもヤレヤレと言ったように両手を横に広げて言う。

「だって、もう君ら飛んだもん」

 言った瞬間、下に落ちる四人。

 床があるはずなのにも関わらず、落ちた四人は何がなんだかわからないでいた。

 が、彰吾は落ちたときに上を見上げる。

 彰吾達がいた場所がぽっかり穴が空いていて、何か端の方に黒いモヤみたいな物があった。

 そして、彰吾達四人は何処か分からない真っ暗な空間へ落とされた。

 それも落とされた際にバラバラで。

 落ちたことを確認したフードを深く被った人物は手に持っていた機械のボタンを押す。

 押すと、彰吾達の居た床の穴が消える。

 フードを下げ、電話を取り出してどこかへ掛けた。

「あ、もしもし? 任務完了。んじゃ――」

 またも、ニヤっと笑う。

「ゲームの始まりだ……!」




 穴に落とされ、真っ暗な空間を数秒後、何処か分からぬ場所へつながった。

 深月は繋がった瞬間に自分の状況を把握する。

 目の前に映る景色は床。

 このままでは、顔から落ちて大事故になる。そう思った深月は空中で半回転してから足を地面に向けて体勢を整える。

 そのまま深月は上手く着地をした。

 すぐに辺りを見渡す深月。だが、そこは少し広めの個室にいた。

「何処ここ……」

 見渡した際に正面に扉があった。しかし、直ぐにその扉には行かずに、辺りを調べる。

 少し広い位の個室の為、すぐに調べはついた。

「何も無い、か……あるのは小さい通気口ぐらいですね」

 仕方ないので、扉の方へ歩く深月。

 扉に手を掛け、ドアノブを回して扉を開ける。

 扉を開けると、次の部屋は大きい空間の部屋に出た。

 すると、正面に男が立っている。

「よう、歓迎するぜぇ? 絶対零度アブソリュート・ゼロさんよぉ」

 ぶっきらぼうに話す男に興味の欠片も沸かない深月。

 だが、沙由莉と凛花を助ける為仕方なく、

「貴方みたいな男と話したくはありませんが、二人を助ける為に仕方なく聞きます。解毒薬はどこですか?」

「あぁ、あれか。あれはなぁ……」

 そう言いながら男は親指で後ろにある扉に指を指す。

「あの扉の奥だ」

「そうですか。では、退いてください。怪我しない内に」

「おぉう、良い度胸してるなぁ」

 ヘッヘッヘとゲスな笑い方をする男。

「怪我ぁするのはぁ……」

 男は戦闘態勢に入り、それを見た深月は身構える。

「どっちかなぁ!!」

 言いながら、腕を振り上げると床が凹みながら高速で深月に迫る。

 深月はそれを横に避けた。

 避けた後に深月は手のひらを男に向ける。

「――!?」

「オラァ!!」

 男はすぐに深月に攻撃をした。

 深月はまた横に避けて、攻撃から逃げて直ぐに態勢を立て直す。

 攻撃を避けた深月は、手のひらを天井に向け、意識して能力を発動させる。

 すると、深月の手に凍りの柱が出来る。

「……」

「おぉ? すげぇな」

「何がですか?」

「実はこの部屋はお前を倒す為に作られた部屋何だよ」

「……そうですか」

「ヘッヘッヘ、何で上手く能力が発動しないか分かんねぇだろ?」

「そうですね」

「教えてやるよ。この部屋は乾燥仕切ってんだ。で、床には熱が通って居て、少しだが普通の床と違って温度を持ってる」

 深月は男の話を真面目に聞く。

「で、お前の能力は空気中の水分を凍らせて、相手を一瞬で凍結させる能力。床何かの凍結は表面の水分を凍らせているんだろう?」

「……」

「だよなぁ、言い返せないよなぁ。言い当てられてなぁ……アッハッハッハ!!」

 深月自身、能力を当てられた。で動揺しているのでは無かった。

 この男をどう、倒すか。それだけを考えていた。

 そのせいで無言になっている。

 能力の説明の半分辺りから深月は、頭の中でシュミレートしてたので、その中でも一番有効そうな行動に移る。

 深月は男に向かって走り出す。

「お? 向かってくんのかぁ?」

 男は攻撃態勢に入るが、深月は真っ直ぐ男に向かって走る。

「その心意気は受け取ったぜぇ……けどなぁ!!」

 男は手を縦と横に振り払う。

「これならどうだ!!」

「別にそれは……」

 目には見えないが、衝撃波的な物が深月に迫ってくる。

 だが、深月はそれを避けようとはせずに、そのまま直進。

 深月は両腕を正面に向け、防御の構えをした。

 そして、深月は腕に氷を発生させて氷の壁を作り、飛んできた何かを受け止めた。

「こうすれば、問題ありません」

 言うと、腕に付いていた氷が砕けて地面に落ちる。

 深月はそのままの勢いで男に近づく。

「そうかぁ……なら、これはどうだ?」

 男は深月に手を差し出してから、指だけを上に向け動かした。

 深月はまた、両腕に氷を発生させようとする。

 だが、

「――!」

 深月は正面から温風を感じた。その瞬間、氷を発生させる事が出来なかった。

 ニヤっと笑った男はそのまま、手を横に振り払う。

 振り払われた瞬間に深月の腕が切れる。

 腕を切られ、肩から下の腕の部分の服も切られた。

 綺麗に真横に切られ、腕からは軽く流血する。

 そのままもう一度、男が腕を振り払った瞬間に深月は突撃を止めて直ぐに横に避ける。

 直ぐに横へ避けた為、態勢を崩してしまいコケる。

 コケると、正面にいる男の方からヒューと口笛の音が聞こえた。

「はぁー! そんな歳してるクセに、黒のパンツとか、ませてんなぁ……。いや、もしかして俺を誘ってんのかぁ?」

 すぐに深月はスカートを押さえて男に見せない様にする。

「ああ、そうそう。俺の名前言ってなかったな? 俺は、ノレド。ノレド・レーン」

 ノレドが名乗ると、深月は立ち上がりノレドを睨む。

 睨む深月に、ノレドは深月をじっくり見る。

「……何見てるんですか? 気持ち悪いです」

「いや、よく見ると顔立ちも良いし、スタイルも良いな」

「……」

「よし、俺の女にして、可愛がってやる」

「気持ち悪いです。消えて下さい」

「そう、つれない事いうなッ……て!」

 男は思いっ切り腕を振り、何かを飛ばす。

 それを見た深月は避けようとしたが、軽く服に当たり、右の胸元辺りの布が吹き飛ぶ。

 するとノレドは、

「おいおい! マジかよ!! ブラまで黒とはなぁ!! 本当に俺を誘ってんじゃんか! いいぜぇ……ここで俺が女にしてやる……!」

 言いながら、歩いて深月に近付き出すノレド。

「クッ!」

 深月は右胸元の布を左手で抑えながら、床に手を付けて瞬時に氷の壁を作り、これ以上近づけさせないようにする。

 三重程氷壁を作ってから深月はその場に、ペタンとお尻を着いてふぅ……と息をつく。

 安心した深月だが、氷壁は半透明で向かい側が見えていた。

 見えていた分、ノレドに驚愕する。

 既に深月が作り出した氷壁を二枚程突破していた。

 床にお尻を付いている深月を見たノレドは最後の一枚になった氷壁の向かい側からニヤァ……と笑う。

 笑ったノレドは直ぐに最後の氷壁を突破して深月の前に表れる。

「もう終わりかよ。あと、さっきみたいに床でお尻付けてた方が体位的には、やりやすいと思ったんだがな」

 深月はノレドが氷壁を突破する前に立ち上がり、ノレドを迎え撃つ態勢を取っていた。

 ノレドはヘッヘッヘとゲスな笑い方をしながら、深月に近づく。

 近付き出したノレドに深月は数歩後ろに下がるが、すぐに壁に追いやられ下げるに下がれずにいた。

 クッ! と悔しげな表情を浮かべる深月。

 それを見たノレドは興奮したのか、ハァハァと息が荒くなっている。

「抵抗する女を犯して、グチャグチャの泣き顔みてから、終わったあとの絶望の表情を見るのが俺は堪らねぇんだ……!!」

 その言葉を聞いた深月は背筋がゾゾゾと凍りつき、ノレドに向かって右手の平を向ける。

 向けられた瞬間にノレドの目が見開くと、温風を感じる深月。

 またしても、能力の発動を遅らされてノレドに向けていた右手を掴まれた。

「はな! 離して!!」

 手を掴まれた深月はすぐに暴れ出して、ノレドから逃げようとする。

 だが、ノレドはニヤニヤと笑い壁際に追い詰められた深月の顔の横に手を当てた。

 そして、掴まれた右手は壁に押し付けられ、ノレドは右手を深月の顔の横に置いて逃がさない様にする。

 そのまま、身体を密着させるノレドは深月の首筋に顔を近づけた。

 近づけたノレドはそのままスゥっと息を吸う。

「ひうッ!」

 いきなり、首元で息を吸われその空気がくすぐったかったのか、抜けた声が出る。

「あぁ……良い匂いだぁ……」

「は、離して! 離してくだ、さいッ!!」

 深月の言葉なんか構わずにノレドは深月の匂いを嗅ぎ続ける。

「い、いやッ! や……やめ、やめて!」

「そういやぁ……」

 臭いを嗅ぐのを止めたノレドは深月の耳元で囁く。

 そしてノレドは顔を服の方に向け、

「ここ見せてくれよ」

「え?」

 その瞬間に、壁に手を付けていた右手で深月の服の胸元辺りを掴んで一気に下に引っ張る。

 引っ張ると、ノレドに服を少し破かれていたせいで簡単に胸元から下まで破かれた。

 破かれると、黒の下着と綺麗な白い肌があらわになる。

「イヤァあああああああ!!」

 それに気づいた深月は叫ぶ。だが、叫んだ深月を見たノレドはまたも興奮する。

「ハァハァ……! いいね……いいねぇ!! 興奮するよ!!」

 興奮し始めたノレドはその綺麗な肌見てから、深月の首筋舐める。

「美味しい……美味しいぞ!! アッハッハッ――!?」

 舐めたノレドはそのまま笑っていると、腹部に痛みが走る。

 突然腹部に痛みが走り、数歩後ろに下がながらお腹を抑えるノレド。

 何が起きたのか、ノレドは深月を見る。

 そこには、左手に氷の棒状な物を持っている深月がいた。

 歯を食いしばり、深月を睨むノレド。そんなノレドに深月は近付いて棒状の氷でノレドの顔を思いっ切り振りかぶった。

 振りかぶった棒状の氷はノレドの顔に当たると粉々に砕けて倒れた。

 深月は胸元を押さえて、倒れたノレドを見てから先へ進む。

 先へ進む為に少し早足で向かう深月。

「はぁ、はぁ……待ってて沙由莉、凛花……!」

 呟きながら深月の作ってそれをノレドが突破した時に出来た穴を抜けてドアへ近付こうとした。

 だが、

「――!!」

 扉はもうすぐそこだっていう所で、突然背中から衝撃が走る。

 それもただ背中に衝撃が走ったのではなく、肝臓の辺に激痛が走った。

 何が起きたか分からず、深月は背中から受けた衝撃に耐えられずそのままコケる。

「カッ……ぁ……」

 そして、数秒息が出来ないだけでなく、肝臓の辺りに激痛が走り続けていた。

 何も考える事が出来ずにいた、その時に、

「いってぇな……! クソアマァ!!」

 声を荒らげながら、倒れている深月を見下ろすノレドがそこに立っていた。

 その表情は先程とは違い、殺意に満ちている。

 ノレドは深月に倒され少し気絶していたが、すぐに目を覚まして深月背面から容赦無く肝臓の辺にひじ打ちを入れたのだ。

「大人しくしてりゃ、あんまり痛い目に済んだのによぉ!!」

 そう言ってノレドは思いっ切り深月の腹部に蹴りを入れる。

「カハッ……!」

 腹部を蹴られた深月は目を見開き、口を大きく開けてそのまま動けないでいた。

「もう抵抗出来ないようにボコボコにしてから、犯す。その後、裏ルートで売りさばいてやるよ」

 苦しくて動けない深月の前髪を鷲掴みにして、顔を上げるノレド。

「オラ! 立てよ!!」

 荒々しく言いながら、深月を立たせるノレド。

 前髪を掴んだまま深月の顔を数回叩く。

「テメェから受けた痛みはこんなもんじゃねぇ……! きっちり返させて貰うぜぇ?」

 そう言ってノレドは深月の履いているスカートに手を掛ける。

「……」

 スカートに手をかけられているのに、無言の深月。

「あ? もぅ抵抗しません。ってか? 最初からそうしとけよなぁ!!」

 もう一度ノレドは深月の顔を叩く。

「ヘヘヘ……んじゃ、返させて貰うぜぇ」

 スカートに手を掛けようとしたノレド。

 だが、何か違和感を覚えた。

「あ? 何だ? 何で、さっきから右手が――!!」

 深月の前髪を掴んでいたノレドの手が離れる。

「うわ! うわぁああああ!!!! な、なんだよ!! 何なんだよ!!」

 深月は何事も無かったかの様に立ち続け、ノレドは数歩下がって自分の右手を見ている。

「何で……」

 ノレドは左手で右手首を掴んで、自分の右手を見続ける。

「何で俺の右手が凍ってるんだよッ!!」

 ノレドの右手が完全に凍結して、氷が張り付いている。

「テメェかぁ……!」

「……」

 先程から無言の深月を睨みながら言うノレド。

 無言の深月を見て更に怒りのボルテージが上がっていく。

「この俺様の手を、凍らさたのはァァァァ!!」

「そうよ」

 先程からずっと無言だった深月が口を開く。

「もういい、殺す。テメェの弱点は知ってんだよ!!」

 凍ってない左手を振り上げて、何かで攻撃をするノレド。

 すぐにノレドは左手を深月に向ける。

 温風を感じた深月だが、それを避けようとはせず、一瞬で氷壁を作りノレドの攻撃を防ぐ。

「なッ……!?」

 あまりの出来事に驚愕するノレド。

「な、何でだ!! お前の能力は半減している筈だ!!」

「……そうですか」

「お前の能力は空気中の水分を凍らせて、相手を一瞬で凍結させる能力の筈だ!!」

「それが?」

「この部屋は乾燥しているしそれに、床にも熱が伝わっている! お前が能力を発動する時は俺が温風を送る事で凍結に時間を掛からせていた筈だ!! なのにどうして!!」

「……そもそも、その能力事態が間違いなんですよ」

「は?」

 何を言っているのか分からず、抜けた声を出すノレド。

「何言ってんだ……! お前……!!」

「私は一言もそれが私の能力とは言ってません」

「黙ってたじゃねぇかぁ!!」

「あれは、既に間違っていたので興味の欠片も無く、あれからどう動こうか考えていただけです」

「じゃ、じゃあ……お前の能力は……?」

「空気中の水分を凍らせて、相手を一瞬で凍結させる能力。では、ありません。確かにそれの方が楽なのでその様にして使ってましたが」

「その様にしてだと……!?」

 深月の言っている事、全てに驚くノレド。

「こんな密閉された空間でやりたくはないのですが……」

 深月が言った瞬間に、辺りが凍りつき始める。

 アニメなどで氷魔法使いがやるように、辺りがゆっくりと凍り付く。

 そして、ノレドの足が凍り付き動けなくなる。

「なッ!? やめ! た、助けてくれぇ!!」

「本来私の能力は……」

 深月の足元以外が凍りつき、ノレドの膝まで凍結が進行している。

 ゆっくりと、ゆっくりとノレドの身体を氷が蝕んで行く。

「し、死にたくない!! 頼む、助けてくれ!!」

 完全に動けなくなり、胸元まで凍結されたノレド。

「あぁ、あ、あ、あああああああああ!!」

 最後の断末魔を部屋に響かせた数秒後に無音になった。

 そして、ふぅ……と息を吐くと息が白くなる。

「私の能力は分子運動をほぼ停止させる能力よ。でも、これをこんな空間でやると温度も下げる事になるから自滅行為になるからしたくないの」

 説明をした深月はノレドの方を見る。

「既に完全凍結ですか……説明した意味無いですね。さて、行きましょ――」

 歩き出そうとした瞬間、深月の体が突然軽くなり倒れる。

 一瞬何が起きて倒れているのか分からずにいたが、すぐに分かった。

「あー、流石にあれだけ乾燥した場所に、熱のあった場所、温風の中やったのと、ダメージで結構来てたんですね……」

 と、冷静に分析して言ってみたが、

「……寒いです」

 なりふり構わず深月は能力を使い一気に辺りを凍らせたせいで、部屋の温度まで下げてしまった。

 幸い深月の立っている半径30m以内は凍結させない事に成功をしていた深月。

「良かった……ここだけは、凍結させてなくて……」

 だが、深月はボロボロになった服装なだけじゃなく、元々薄着であった為寒さを凌げない。

 能力を使い、体力、ダメージも受けていた深月の体温はみるみる下がり眠くなってきた。

「ね、眠いですね……。このまま、目と瞑れば気持ちよく寝れそうです……」

 あぁ、沙由莉、凛花。ごめんなさい。と思い目を瞑った深月。

 瞑った数秒後、突然正面の扉が壊された。

「うわ! さむ!! 何だ、この部屋!!」

 どこか聞き覚えのある声が深月の耳に届いた。

「って、おい! 酒井! 大丈夫か!!」

 倒れている深月に駆け寄る誰か。

 深月は上体を起こされ、誰だか確認する。

「……げっ……」

「げっ……じゃねぇよ」

 駆け寄った人物が誰のか確認した深月は、顔をみた瞬間に声が出た。

「気安く私に触らないで下さい……、天月さんなら全然嬉しかったんですが……宮下さんですと……はぁ……」

「はいはい、彰吾なら嬉しいですよねぇーすみませんねぇー彰吾じゃなく、俺でー」

 と、言って気を落としてから、俊は着ていた上着を深月の肩に置く。

「とりあえず、薄いがそれで今は我慢してくれ」

「……」

 まさかの行動にキョトンとする深月。

「んだよ?」

「いえ、宮下さんがそんな事出来る人間だとは……」

「お前は俺をどんな目で見ていたんだよ……」

 ハァ……と一つため息を付いてから、

「酒井、先に言っておく。悪い」

「え?――キャッ!」

 俊が深月に言ってから、倒れて動けなさそうな深月を抱き上げた。

 何が起きているのか分からず、呆然としている深月。

「んじゃ、行くぞ」

「え? あ! はい……」

 凍った床を歩き出す俊、俊に抱きかかえられている深月である。

 現状で言えば、お姫様抱っこでそんな平気な事をする俊の顔を見つめる深月。

 視線に気づいたのか、俊が深月を見る。

「ん? どうした?」

 深月は急いで、俊から目を反らしてから横に顔を向ける。

「べ、別に何でも無いです」

「そうか。まぁ、あれだ……何つーか……」

 何か言いたげな顔をしている俊。

「助けられて良かったな。って素直に俺は思う」

 ぎこちない笑顔で深月に言う俊。

 その安心させる様に笑顔で言おうとした俊だが、苦手であった為ぎこちなくなってしまった。

 だが、それを見た深月は顔を赤らめる。

「何か顔赤く無いか?」

 俊に言われてから、我に帰り目を合わせない様に顔を横に向ける。

「さ、寒いだけです!!」

「そうか、悪かった酒井」

「……深月で良いです……」

「は?」

 何が深月で良いですなのか分からず、言葉を漏らしてしまう俊。

「わ、私の事は! み、深月で良いです……」

「お、おう……」

 何処か恥ずかしそうに言う深月に少したじろぐ俊。

「そ、それと……!」

 まだ、何か言うことでもあるのか? と思う俊。

「助けてくれて、ありがとうございました……。正直ダメだと思いました……」

「……何だ。言えんじゃん」

「はい?」

「お礼」

「ちゃんと言えますけど? 相手が貴方なら言わない可能性が大きだけで」

「はぁー、助けて貰ってそれいぅ?」

 ヤレヤレと言わんばかりのため息を付き始める俊。だが、

「でも! それでも……ありがとうございました」

「……」

 フッ……と鼻で笑う声が聞こえ、ムッとして俊の顔を見る深月。

 タイミングがピッタリであったのか、俊が笑いながら深月を見ていた。

「あいよ。また、何かあったら助けられるなら助けてやるよ」

 その笑顔に今度は完全に顔を真っ赤にする深月。

「顔、赤いぞ?」

「寒いんです!」

「確かにな」

「早くこの部屋から出て下さい俊!」

「ああ……ん? 今俊って」

 ハッ! と思う深月は顔を真っ赤にしながらアワアワと動揺していた。

「しゅ、俊が私を深月と呼ぶんですから、それでは私が不公平なので、私も! ……俊と呼びます……」

 呼びますの部分だけ顔を赤らめ、恥ずかしそうに言う深月。

 それを見て、

「フフフ……あいよ。よろしくな、深月」

 深月はお姫様だっこされながらその部屋を出るのであった。




 つづく

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