第14話 放たれた悪意Ⅳ

 突然沙由莉が沖縄にSランクの一人がいることをカミングアウトする。

「え? 何?」

絶対零度アブソリュート・ゼロ酒井さかい深月みつきがいるの」

「ええええええええええ!?」

 驚いてしまい、声を上げてしまう。だが、直ぐにゴホンと咳払いしてから正気を保つ。

「……どんな人なの?」

 彰吾の発言を聞いた二人は顔を合わせて、悩み始める。

 むしろ、悩む程の人物なのか。と思う彰吾。

「何というか……」

「クールですねよ、凛花」

「そうねぇ……クールなのも有るし感情豊かな人では無いみたいな……」

「基本、無表情ですからね」

 軽く教えてくれる二人だが、全くどんな人物なのか彰吾は想像が出来ない。

 一度彰吾としては会ってみたいとは思うが、そうはいかないだろう。

 なぜなら、

「あ、基本深月は男の人とは話しませんし、人に興味を殆ど持たない人物ですよ」

 沙由莉が教えてくれたからである。

 話していると、暑くなってきたのか凛花が髪を纏め始めた。

「あ、沙由莉ゴム持ってる?」

「髪留めの?」

「うん」

「待ってね……」

 凛花に聞かれ、確か持っていたと思った沙由莉はカバンの中を漁る。

「あった、ハイ」

 カバンの中に髪留めのゴム入っていたので、凛花に渡す。

 凛花はそれを受け取ると、髪留め様のゴムを口に加えて後ろ髪を纏めた。

 その後、一つにしてからゴムで止める。

「これで、少しは首周りが涼しくなる~」

 ポニーテールにした凛花を見た彰吾は、唖然とする。

 それに気づいた凛花。

「あっらぁ~? どうしたんですか~? 彰吾さぁ~ん?」

 挑発的な発言をしながら彰吾に言う凛花。

「いや、結構可愛いな。と思ってな」

 彰吾は自分の思ったことをそのまま口にだして、凛花に伝えた。

 まさかの発言に、鳩に豆鉄砲食らったかの様に、唖然としている凛花。

「ど、どうした?」

 唖然としたまま、黙り込む凛花に彰吾は話を掛ける。

「い、いえ、案外そういうことは普通に言える人なんだな。と驚いてました」

「それは、それで酷くないか……?」

「いやまぁ、彰吾さんは鋭いくせに他が鈍いので」

「は、はぁ……」

 話していると、沙由莉がズゾゾ!っとストローを吸って音を鳴らす。

 音を聞いた二人は同時に沙由莉の方を向く。

 沙由莉の方を見ると、沙由莉が二人を睨んでいた。

「あー沙由莉? どうしたのかなぁー……?」

 アハハ……と乾いた笑みを浮べながら言う凛花。

 そんな凛花を睨む沙由莉。

「あッ……! ハイ……黙ります、静かにします、ごめんなさい……」

 睨まれた瞬間、凛花が圧倒された。

 そんな光景をみた彰吾は驚愕しかなかった。

 あの何時も沙由莉を笑う凛花がここまで圧倒されて、黙り込むのが彰吾には信じがたい光景であったから。

 驚いている彰吾に沙由莉は、

「彰吾さん、後でお昼ご飯食べに行きましょう?」

 満面の笑で言う沙由莉。

 しかし、彰吾はこの後自由時間になっていた為、俊とお昼ご飯でも食べようと思っていた。

「あー……ごめ――」

「行きましょうね?」

 断ろうとした瞬間、沙由莉の顔は笑っているが、その笑顔から何か邪悪な気配を感じる彰吾。

「本来なら、一日好き放題件は一日ですよね?」

「そ、そうだな……でも、な? この後――」

「――行きますよね?」

 目をうっすら開いて彰吾を捉える。その目は、完全に怒っていた。

 見られた瞬間背筋が凍り、冷や汗をかき始めた彰吾。

 このままでは、殺される……と思った彰吾は、

「い、いきます……」

 折れる他、選択肢は無かった。

「では、これ飲み終わった後に軽く歩き回ってから、少し遅めになりますが、お昼ご飯にしましょう」

 満面の笑みで言う沙由莉に、彰吾と凛花はアハハ……と乾いた笑みを浮かべるしか無かった。

 その後、彰吾は俊に行けなくなった事を電話で伝えると。

「テメェ何か、生きた状態で魚の様に捌かれて死ねッ!!!!」

 と言って、電話をきられた彰吾。

 裁くに捌くか……ふむ、さすが俊。抜かり無いな……とアホな事を思う彰吾であった。

 そして、何言ってるんだ?とも思う彰吾だった。

 喫茶店を出てから、沙由莉の言うとおり軽く歩くことにする。

 歩くと言っても、凛花が観光できていない為、凛花を含めた三人で観光をすることになった。

 観光をしていると、何やら人が集まっている場所を見つける三人。

「なんだ?」

「誰かいるのでしょうか?」

「さぁ? まぁ、行ってみましょ」

 そう言うと三人は人が集まっている場所へ向かう。

 何故、こんなに人が集まっているんだ? と思う彰吾だが、すぐに分かった。

「はい。分かりました。では、ショートケーキ一つにスマイルですね?」

 昨日のイベントで最速で捕まったイケメン俳優の勇吾が喫茶店で働いている。

 勇吾に注文した女性客はケーキとスマイルを注文したらしい。

 女性客にスマイルの注文を受けた勇吾はその女性客にスマイルをする。

 その瞬間、

「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 女性客達が騒ぎ出す。スマイルを間近で見た女性客は、あまりの嬉しさに気絶していた。

「誰か、この人を介抱よろしくお願いしますー」

 勇吾が他の店員に言うと、他の店員がその女性客を抱えて裏へ連れて行く。

 その光景を見ていた三人、彰吾は驚き、沙由莉は何かを考え、凛花は引いていた。

「……すげぇな。こりゃあ、最速で捕まっても何も言えないな……」

「最速で捕まったどうこうよりも、私はあの人絶対に裏の顔あって怖いな……って思います」

「あ、確かにそれはあるかも。後は、ちょっと引く……」

「……」

 沙由莉と凛花の発言に、アハハ……と乾いた笑みを浮べながら二人を見る彰吾。

 こういう時、男とは違って女性は違う観点で人を見ているからこそ、怖いと思う彰吾であった。

「ま、まぁ、とりあえず行こうか」

「はい、行きましょう」

「そうですねぇ」

 三人はその場を去り、少し歩くと彰吾のスマホから着信が来た。

『彰吾さん、宮下さんか電話です』

「お、サンキュ。アリス」

 彰吾は電話に出る。

「もしもし、何だ?」

『あのイベントで手に入れた食べ放題券。俺達の泊まってるホテルの近くにバイキングで使うから』

「おー……すまん。ありがと」

『東堂ちゃんと久能様連れてこなかったらマジで殺す……』

「わ、分かったから、あと少ししたら行くから……」

 真面目言う俊に戸惑う彰吾であった。

『あいよ。近くまで来たら教えてくれ』

「分かった」

 そう言って彰吾は電話を切り、スマホをズボンのポケットにしまおうとする。

「今さっきの声は何ですか? アリスとか言ってた様な……」

 先程の着信相手を教えてくれたアリスと呼ばれる存在が分からない沙由莉は彰吾に聞く。

 彰吾はスマホの電源ボタンを押して、画面をつける。

「これがアリス。そういえば、初めて見るのか? 二人は」

『はい、マスター。私自身このお二人にお会いすのは初めてです』

 彰吾のスマホの画面に赤毛の可愛らしい女の子が、彰吾と会話しているのを見て驚く二人。

『マスター、大分二人は驚いている様です』

「だな」

 ハッと我に帰る二人は、彰吾の持っているスマホをまじまじと見る。

「……どういう事でこの子と出会ったんですか? バグですか……?」

 バグですか?と言われた瞬間、アリスは『バグ!? バグなんかじゃ――』と文句を言いそうになったので、音量を最速でゼロにする彰吾。

「大機械祭の時にね、強化アーマーの中にいたんだよ。元々――」

 これが、強化アーマーを製作した草壁絵里の作ったAIなどを説明した。

 そして、二人が納得した所で彰吾は音量を有る程度もどすと、

『マスタァアアアアアアアアアア!!』

 と叫んでいた。

「聞こえてるよ。後聞いてたろ?」

『……はい』

「自己紹介してくれ」

『了解です』

 アリスは画面の奥の方へ行き、全身が見える様にしてから。

『初めまして、東堂沙由莉さん、久能凛花さん。私はAIのアリスです。現在は天月彰吾さんがマスターです。以後お見知りおきを』

 丁寧に挨拶をするアリスに「おぉ……!!」と興味津々で見つめる二人。

「あ!」

 ふと、何かを思い出したかの様に抜けた声を上げる沙由莉。

「どうした? 沙由莉」

 気になった彰吾は沙由莉に聞く。

「いえ、海上都市の伝説に画面に嫁キャラ?が動く、という伝説があるので、もしかしてアリスちゃんがそうなのかな?と思いまして」

『いえ、それは私ではございません』

「へー、そうなんだ。アリスちゃんかなって、私も思ったけど」

 凛花が、違うんだ。と言いながらアリスを見る。

 正直、彰吾もアリスが伝説の一つかと思って草壁絵里に聞いた。

 すると、

「アリスを作ったのは、その伝説を聞いてからだねぇ~」

 と答えた。なぜ、アリスを作ったのか? と聞くと、

「面白そうだし、AIなのに姿があるって凄いでしょ!」

 嬉しそうに答えた草壁絵里であったのだ。

 アリスは自身が作られたのは伝説が広まってからだと、二人に説明していた。

「でも、アリスちゃんならやれないこともないよね?」

 何やら物騒な事を言う沙由莉。

『はい、可能です。しかし、私自身したくはないので』

「なんでなんで?」

 興味津々に聞く凛花。

 いや、むしろ何でそこに食いつくのかな? と思う彰吾。

『私は主人をサポートするために作られたので、そのようないたずら地味た事は出来ないです。今は、マスターのスマホの中にいるだけでも楽しいですので、そういう願望は無いです』

「「おお……!」」

 何故か二人とも息を合わせて言う。

 一体何処に感動したのか分からない彰吾であった。

 最終的に、アリスは彰吾のスマホから沙由莉と凛花のスマホに移動してガールズトークに花を咲かせている。

「アリスちゃんって、凄いですね!」

『一応、恋を抱くことも出来るように感情プログラムが組み込まれているんですよ』

「それだったら、もう私達のどっちかを主人にしてよー」

 と、凛花が言うと、

『すみません、それは出来ません』

 ペコリと頭を下げながら言うアリス。

「どうして?」

『私が認めたマスターは彰吾さんだけですので、マスターを変えるつもりはないので……ごめんなさい……』

 それを聞いた二人は顔を合わせて、ニコっと笑う。

「大丈夫、今のは冗談だから。でも、少しぐらいならこういう移動とか、お話は良いですよね?」

 沙由莉が少し不安げに言う。

『はい! それは勿論です! お買い物リストとか、オススメ商品、服など教えますから!』

 嬉しそうに言うアリスと沙由莉、凛花の三人を見た彰吾は微笑む。

「アリス、今日ぐらいはそっちに居てもいいぞ? いつでも戻ってこれるんだろ?」

『え? 良いのですか? マスター』

「あぁ、男についていてもあれだしな。たまには女子のところにでも行ってきな?」

 優しく言う彰吾にアリスは、嬉しくなり彰吾のスマホに戻る。

『マスター大好きです!!』

 言いながら、画面いっぱいにハートのデコレーションを表示させるアリス。

「わーった! わーったから、画面直してくれ!」

『はい! では、行ってきます!!』

 画面を元通りにしてから、画面端に向かって走るとアリスは沙由莉のスマホへ移動した。

 画面端でアリスが手だけ出して、手を降っている。

 可愛い……と見ている沙由莉を見ながら、凛花が彰吾に近付く。

「あれってどうやって移動してるんですか?」

「ん? あー、詳しくは聞いてないけど……確か、電波で飛んでるみたいな事言ってた様な気がする」

「なるほど。さて、疑問は解決したから、行きましょうか彰吾さん」

 有る程度観光したので、俊のいるバイキングのある大きなデパートに来ていた。

 彰吾はアリスが沙由莉と凛花の所へ行ってから完全に蚊帳の外になっている。

 しかし、そんな中でもアリス、沙由莉、凛花は彰吾を飽きさせないようにと話を振っていた。

 扱いは雑だが、それでも今目の前ではしゃいでる三人を見た彰吾は、まぁいいか。と思った。

 とりあえず、彰吾は近くに来たので俊に一本電話を入れておいた。

「今、近くにいるから後30分位だな」

『分かった。買いもんか?』

「ああ、それで時間掛かる」

『分かった、場所はメールしておく』

「すまん、ありがとな。んじゃ」

 そう言って彰吾は電話を切って前にいる沙由莉と凛花の後ろを付いていく。

「あ、彰吾さん。少し待ってて下さい。三人でお買い物に行ってきます」

 電話を終えてから、数分後に沙由莉が後ろにいる彰吾に言う。

 彰吾は辺りを見渡すと、

「んじゃ、あそこの椅子に座って待ってるから、行って来なよ」

「はい!」

 沙由莉と凛花、アリスの三人はそのまま買い物に行った。

 一人になった彰吾は暇になり、横に長いイスに座りながらスマホを取り出してニュースを見る。

 ニュースの所を見ていると、そこにSランクの人物。と書かれた記事を見つける彰吾。

 気になり、そのまま記事にタッチして内容を見る。

「えっと……なになに?」

 現在Sランクに到達している人間は56人、我が国内にいるSランクは8人。

 一つの国にSランクが8人もいるのはここ、日本しか無い。

 さすが日本と言えよう。

 そして、次に多いのがアメリカだ。アメリカには4人のSランクがいる。

 4人も入れば、大分事件は起きづらいのだが、そこはアメリカ。

 Sランクが4人居ても、足りないらしい。

 細かな事件、事故が多いからだ。

 さて、そんな中、日本は治安が良いとも言えるだろう。

 しかし、先月起きた大規模なテロ行為。大機械祭の最中に起きた悪夢。

 犯罪組織が暴れ回ったのこと、このことに対して軍は「詳しいことは言えませんが、今後このようなテロ行為は我々が許しません」などと、言っており、正直本当に大丈夫か?とも思う。

「これ、結構グイグイ行くなぁ……」

 記事を読みながらも、そんな事を呟く彰吾。

 彰吾はまた、記事に目を通す。

 だが、あの事件の中Sランク三人がこの事件に立ち上がった。

 爆弾師ボマーの事、東堂沙由莉。

 彼女は真面目で、とにかく犯罪者が嫌い。

 何より、彼女にはファンクラブが作られる程可愛く、とてもいい子なのだ。

 と書いてある記事の近くに沙由莉が笑っている写真が載せられていた。

「確かに、普通に可愛いもんな」

 そんな事を言いながらも、記事に目を通す。




 同時刻、買い物の最中。

「クシュンッ」

 可愛らしくくしゃみをする沙由莉。

「寒い?」

「いえ、大丈夫です」

 心配そうに見つめる凛花に、笑顔で返す沙由莉。

『店内は24°です。大丈夫ですか? 沙由莉さん』

「うん、平気だよ。ありがと、アリス」

「誰か噂でもしたんじゃないの~?」

 笑顔でアリスにも返すと、凛花が茶化してくる。

「んー……まぁでも、買い物しましょう」

 噂なんか気にせず、三人はまた買い物の続きを始めた。




 次は、東堂沙由莉と同じ学園で生徒会長をしている。

 雷光ライトニングの事、久能凛花。

 彼女は誰からでも慕われる存在で、気兼ねなく話せる女性。

 そして性格も良く、凛々しく、清純な子で彼女にしたいランキング堂々の一位を取っている。

 何より、あの久能一成の子でかなりのお嬢様。

 しかし、そんな彼女はタイムセールなど近所のスーパーでの買い物をしており、そんな親近感が沸く彼女に魅了された男は数知れない。

 そんな、素晴らしい彼女を射止めた者は羨ましがられるだろう。

「……」

 その記事を読んだ彰吾は目でも疲れているんじゃないかと思い。

 一度目をとしてから、もう一度読み返す。

 だが、そこには先程読んだ記事か書かれていた。

「おぉう……これ書いた人絶対あの人の事知らないだろ……」

 執筆者に言うように、呟く彰吾。




 同時刻、買い物の最中。

「クシュっ」

 小さく、可愛いくしゃみをした凛花。

 そのくしゃみを見た沙由莉は、

「噂でもされたんじゃないですか~?」

「……ろくでも無い人ですよ。多分、男の人ですね……」

 そう言いながら、辺りをジロっと見る凛花。

 すると、見とれていた男性達が直ぐに我に帰り、凛花から視線をそらした。

「……さっさと買い物すませましょう」

 と言って、買い物の続きを始めた三人であった。




 最後に、完全要塞パーフェクト・フォートレスの一宮真。

 彼は顔立ちが良く、雑誌などに掲載される事が多い。

 何より、彼が居なかったらどれだけの人への被害が出たか分からない程、彼の能力で救われた人が多いだろう。

 この件は確かに彰吾も思っていた。

 もし、あの場に一宮真が居なかったら、テロリスト集団に人質にされ、最悪自爆、何人かは殺されていた。とまで、言われている。

 彰吾はそのまま、記事に目を通し続ける。

 そして、彼はこの夏にやる協高祭きょうこうさいに出るらしい。

「ほぉーう、出るんだ。んじゃ、録画して見るかな」

 協力高校体育戦祭きょうりょくこうこうたいいくせんさいを協高祭、と呼ぶ。

 これは、1校から5校が普通の高校と協力して出ると言う大会。

 もちろん、協力した普通の高校は学校の宣伝にもなるし、生徒獲得の為、毎年毎年1校から5校に協力申請を送るほど。

 なお、一度組んだ高校ともまた組み直しても良い事になっている。

「再来週から協高祭の下準備が始まるのか、楽しみだな」

 そんな事を思い、彰吾は記事を読み続ける。

 今回の事件に関わらなかったが、日本には8人のSランクが居るため、紹介しておこう。

 だが、Sランクの情報はあくまで通り名だけで、主に分かるのはどの学校にいるのか、性別のみしか分からない。

 それだけだが、紹介しよう。

 絶対零度アブソリュート・ゼロの酒井深月、1校に在学中、女性。

 存在認識エグサススタンス遠野とうの悠次ゆうじ、5校に在学中、男性。

 光子光線フォトン・ビーム高津碁たかつき真也しんや、軍に所属、男性。

 精神操作スプリット・アプリション三枝さえぐさ加奈かな、2校に在学中、女性。

 観測者アブゾーヴァー近藤こんどう紗奈江さなえ、3校に在学中、女性。

 因みに、近藤紗奈江だけは有る程度公開されている。

 彼女は天体観測をしているそうだ。

 あくまで、これだけの情報だが。

 さて、これが日本にいる8人のSランクである。

 通り名だけでは、何が何だか分からないが、Sランク能力者と言う事を忘れない。

 我々の予想を遥かに超える能力を彼らは保有しているのだから。

 そして、記事を読み終えた彰吾。

「なーんか、良くわからないな」

 読み終えた彰吾は一言呟く。

 呟いてから背もたれに背中を預けていると、辺が少し騒ぎ出す。

「え? 何あの子?」「綺麗……」「モデルさん?」

 と通行人の女性たちが言い出す。

「おい、いけよ」「いや、あれは無理だって!」「ナンパしてこいよ!」

 などと、男性が言う。

 何かと思い、彰吾は辺りを見渡す。

 すると、たった一人の女性を見つける。

 しかし、その女性は他とは違い、何かオーラを纏っている様にも見えた彰吾。

 あれが、今の話題の中心人物か……と思う彰吾だった。

 見ていると、その話題の女性と目が合う。

 目が合って数秒後、その女性が彰吾の方へ歩く。

 彰吾の前まで来た女性の顔を見る。

 肌が白く、髪は黒髪のショート、ノースリーブの服にペンダントをぶら下げ、ジーパンを履いた美人がそこにいる。

 綺麗だなぁ……と彰吾が思っていると、

「すみません。ここに行きたいのですが」

 表情を変えず、淡々と言って彰吾に地図を見せて目的地に指を指す美人女性。

「え? あぁ、ここは……、この通路を真っ直ぐ行ったところを左に曲がるとあります」

 地図を見せて貰った彰吾は、目的地の場所を丁寧に教える。

「ありがとうございます。助かりました。では、失礼します」

 ペコリと、頭を軽く下げて彰吾にお礼を言う美人女性はその場を去ろうとする。

 だが、美人女性は何かを思い出したのか、彰吾の元へ戻る。

「すみません。お名前よろしいでしょうか?」

「あ、はい。天月彰吾です」

「天月彰吾さんですね。分かりました。覚えて置きます。あと、こちらお渡ししておきます。では」

 美人女性が電話番号の書いた髪を彰吾に渡してその場を去った。

 とりあえず、彰吾は貰った紙をポケットにしまう。

 そんな光景を見ていた通行人は彰吾を睨む。主に男性が。

「彰吾さーん、お待たせしましたー」

 睨まれている中、最悪なタイミングで帰ってきた沙由莉、凛花、アリス。

「さて、宮下さんのいるバイキングに行きましょう!」

 おー! と言わんばかりに片腕を突き上げる沙由莉。

 それを見た凛花はフフと微笑み、アリスは彰吾のスマホに帰ってきてからクスクスと笑う。

 そして、視線が痛い彰吾であった。

 歩いて数分した所に、俊がいるであろうバイキングのあるお店にやってきた。

 店に入ると、店員が「何名様ですか?」と聞いてくる。

「すみません、宮下という者の連れで……」

「なるほど! こちらです!」

 何故か嬉しそうに言う店員に連れられ、彰吾と沙由莉、凛花はついて行く。

 着いた席のテーブルにはこれでもか! と言うぐらいの料理の品が並べられていた。

 それを一人で黙々と食べている俊。

 俊は彰吾達が着たのに気付き、口の中にある食べ物を水で流し込む。

「ぷは! 東堂さん! 久能さん! どうぞどうぞ! お座りください!!」

 言われた二人は「失礼します」と行って椅子に座る。

 だが、

「おい、俺の席は?」

 彰吾の席だけ無かったのだ。

 椅子は全部で四つあるが、余ったイスの上にカバンが置かれており彰吾が座れない。

「あ? 空気椅子でもしてろ」

「いや、それは……」

「一位を取ってぇ、俺はぁー一人で遅飯食うことになってぇ! それで、一人は女性とデート? はっはぁ~ん、いい御身分ですねぇ~?」

 と挑発的な笑を浮べながら煽るように言う俊。

 だが、彰吾は言われても仕方がない。約束を破ったことには変わりがない。

「すまん」

 と正直に謝る彰吾。

「……まぁ、座れよ」

 謝る彰吾を見てから椅子の上にある荷物を退かして彰吾が座れる様にする俊。

「悪い、ありがと」

「とりあえず、何か頼め。あ、俺がここは頼む様になっていて一人一品。俺は三品頼める。変なシステムだ」

「一位を取ったっていう特典か?」

「多分な」

 それを聞いた彰吾は自分の分の品を注文する為、メニューを見る。

「宮下さん、今回は彰吾さんをお借りして申し訳ないです」

 沙由莉が急に謝り始めた。

「いやいや! いーんです! あ、それよりも決まりました!?」

「あ、はい。私はこれを」

「私はこれでお願いしますね」

「あ、じゃあお――」

「すみませーん! エビフライとハンバーグお願いしますー」

 沙由莉と凛花が決まったことろで、彰吾も決まったので言おうとしたら、俊に遮られてしまった。

「あー……俊、俺これ」

 彰吾がメニュー表の品に指を指して伝える。

 それを見た俊は、




 ニコッと笑い。




「自分で頼め」



 と満面の笑みで言った。

 この野郎……と思う彰吾。

 その後、結局俊が注文してくれた為何とか、四人で食事を済ますことが出来た。

 そして、現在の時刻15時12分。

 明後日には帰国しなければならないので、有る程度荷物のまとめに入る為に四人は帰ろうとする。

「キャッ!」

 すると、沙由莉と凛花の間を通ろうとした人が沙由莉にぶつかりその場に転ける。

「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です……」

 そういうと沙由莉は手を差し伸べ、転けた人はその手を掴んで起き上がる。

 転けた人はパンパンと服を叩き、砂を落とす。

 砂を落とした後、転けた人が頭を下げて一礼してからその場を去る時に、




 凛花の頬に触れた。




 その瞬間、転けた人の口元がニコォと笑い。




 沙由莉と凛花が、




 倒れた。





 つづく。

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