第21話他愛のない会話
フリージアが聖王になったあと、一度だけフリージアが仕事以外で俺に会いに来た。というか、俺のところまで忍んで宿舎にやってきたのだ。
俺もフリージアも十八歳になっていて、実家である城に戻ったフリージアとは反対に俺は実家を出て騎士の独身寮みたいな扱いになってくる宿舎に住んでいた。
といってもまめにルシャとは会っていたし、休みのたびに叔父さんや叔母さんの様子は見に行っていたので、生活が前と変わったところはあまりない。しかし、男ばかりの宿舎は工房と店の役割もかねていた叔父さんの家とは違って、どこか汗のすえた臭いがこもっているような気がする。自分も汗をかく仕事帰りならば気にならないのだが、休日にこの臭いを嗅ぐのは気がめいる。だから、俺は休みの日は叔父さん家に逃げているのだ。
そんな宿舎に古代魔法で俺以外には別人に見えるとはいえ、聖王様が来るとは誰も思わないだろう。フリージアがやってきたとき、宿舎にいた同僚はフリージアを俺の恋人だと勘違いした。俺にはフリージアがちゃんと同い年の男に見えるが、他人には古代魔法の効力で女性に見えるのだ。まぁ、古代魔法の効果持続時間は信用が置けないから、俺は同僚に適当な返事をしてすぐにフリージアを部屋に引っ張り込んだが。
「テサレシスには、君が弱みだとしられている」
フリージアは、俺の部屋でそう切り出した。
たしかに、俺がフリージアの魔力を半分もって行ってしまっているが弱みと言われるとへこむ。
「いや、魔力うんぬんかんぬんまではさすがに知られていない」
フリージアは、あわてて言葉を付け足した。
「僕が気軽に話を出来る人間は、君一人なんだ」
「リズさんのほうが、一緒にいる時間が長いだろうが」
リズは、彼女が若いときからフリージアの護衛を担当している。フリージアと話した時間をカウントするならば、リズのほうが俺よりも長いだろう。
「彼女には、魔力の話はできない。皆、僕が持っている魔力は僕の分で全部だと思っている」
「そうだな……」
「テサレシスは、君が僕の友人だと思っている。だから、この先――僕に対して君を人質につかうような交渉をしてくるかもしれない」
聖王になれ、と言われたときを思い出した。
あの時、何も言われていないが俺はまさに人質のような状態であった。
「あの時は……ごめん。おまえ、聖王になんてなりたくなかったんだよな」
俺の言葉に、フリージアはため息をつく。
「あれは、もういい。それに、拒否していたのはガラじゃないからって理由だし」
おい、そんな理由で王様からの要請を拒否していたのかよ。
最近思うのだが、こいつって千回も転生しているせいで人間としての常識から外れているような気がする。いや、フリージアの前世って大本は竜だから、人間としての常識はずれはこいつにとっては正常な状態なのだろうか。俺がちょっと悩んでいると、フリージアは真剣な顔をして俺に詰め寄っていた。
「でも、もしも次があったら――……一緒に戦って欲しい」
フリージアは、そう言った。
「そのつもりだ、馬鹿野郎」
俺とフリージアは、拳を付き合わせた。
「あと、聞きたかったことがあったんだけど、おまえって大本の前世が竜だってことは知っていたのか?」
俺の問いかけに、フリージアは頭をきょとんとする。
そして、「うーん」と唸った。
「明らかに、人間じゃなない視点の記憶はあるんだ。でも、竜としての一番大切な記憶はたぶんエルのほうに行ってしまったんだろう。ただ、知識として前世が竜だったという記憶はある。だから、僕の前世とか前世の前世とかは自覚があったんだと思う。あるいは、もっと古い前世とか」
そうか、俺には一言も言わなかったんだな。
いや、言われても対処できないけど。
「それに、僕は人間として千回も転生してしまった。正直、竜の自覚はもうないに等しい」
「……どうして、竜に千回転生しなかったんだろうな」
「きっと、この世界にしか竜はいなかったんだ。俺が転生しなくちゃいけないのは、ここ以外の世界だったから」
そうか、俺はぼんやりと自分の前世を思った。
この世界は、日本とぜんぜん違う。
俺が十八歳のころは高校生で、勉強と部活とゲームが人生の全てだった。いつかは大人になるはずなのに、働くなんてイメージできない現代っ子だった。
「アクションズ・ガンとかのゲームやりたいなー……。めっちゃ流行って、2とか3とか続きが出てたよな」
「僕は4しかやったことない」
むしろ、俺は4をやったことないよ。
「4って、どういうストーリーになったんだ。あのゲームって3で完結してたような感じがしたけど」
「敵がいっぱい出てきたことしか覚えてないな」
そりゃあ、シューティングゲームなんだから敵はいっぱい出てくるだろうさ。
フリージアのやつ、前世はおもいっきり気を抜いて生きてきたんだな。
「ここにアクションズ・ガンがあったら、鍛えなおしてやるのに。俺が、初代をどれだけやりこんだか見せてやる」
「……初代って、僕が前世で小学生だった時点でもう店で売ってないような骨董品だったような」
「ちょっと後から生まれたからって、簡単に初代を骨董品扱いするな」
なんとも、馬鹿らしい会話だった。
聖王と聖騎士の会話ではなくて、小学生と大学生の馬鹿な会話だ。
だが、こんな会話を出来るのはフリージアしかしないのだ。
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