2 軍師初日
城までの道中で俺は色々な質問をした。そのせいで間違いなく世間知らずと思われた。だけどお陰で仲も深められ、
まぁそんなことはさておき、軍師として佐竹の家臣になったわけなんだが仕事が割り当てられるそうだ。
「早速だが夜一に仕事をしてもらう。
「はっ」
このように城に到着して直ぐに義重様にそう言われたのだ。
「
「はっ、お任せください。それじゃ夜一行くよ」
俺の返答を待たずして氏幹は歩きだした。
「あ、待ってくれ! では義重様、失礼いたします」
俺は義重様に一礼し、氏幹の後を追った。
その姿を見送りながら義重少し笑みをこぼした。
夜一、あの男には何かある。勘が果たして吉と出るか凶と出るか、楽しみだ。
◇◇
「部屋なんだけど、私の部屋近くに空き部屋あるからそこへ案内するね」
「わかった」
氏幹の後をついて行っていると忙しく働いている女中の方々とすれ違い、その度に視線が集まっていた。
最初は新参者だからかと思っていたが、よく見るとどうやら視線は首から下の衣服を見ているようだった。
少し考えればそうだ。基本的に戦国の世の衣服といえば和服だ。そんな中でシャツ、パーカー、ジーパンと現代の衣服を着ていれば奇抜な格好としか言えないだろう。
これは早々に衣服を着替えないとな。
それから少しして目的の部屋に着いた。
「この部屋でいいかな。あとそこの廊下を真っ直ぐ行った角部屋が私の部屋ね。何かあったら遠慮なく来ていいからね」
と、指で差しながら説明してくれた。
「ありがとう、助かるよ」
「あと義重様も言ってた仕事のことだけど、政光姉が教えてくれるから心配ないよ。あと服を気にしてるようだったから、着替えを運ばせておくね」
「おぉ、それは助かる」
かなり失礼だが、ちゃんと周りを見ていて何を考えているのかまで把握していることに驚いた。
「 さて、それじゃあ私も仕事があるし、政光姉にも伝えないとだからもう行くね」
「案内ありがとう。頑張ってくれ」
氏幹が笑顔で手を振りながら去り、俺はひとまず指定された部屋に入ることにした。
障子を開ける。すると部屋の中は七畳程で居心地がよく丁度いい広さだった。板張りのフローリングではなく畳の和室というのがとても新鮮で素晴らしい。
部屋の中央座椅子と机が置いており布団類は押入れに入っているようだ。あらかた部屋の確認を終えてたが、空き部屋だったというわりには埃ひとつなく掃除が行き届いていた。
それから俺は座椅子に腰をかけ一息をついていると障子越しに声をかけられた。
「枢木様はいらっしゃいますでしょうか?」
優しそうな声色だ。障子越しの影から察するに女中の方だろう。
俺は座椅子から立ち上がり障子を開けて招き入れることにした。
「いますよ、どうぞ」
「わざわざお手間をかけさせてしまい申し訳ありません。失礼いたします」
女中は一礼すると部屋へと入った。持ってきた書簡を机上に静かに置き、和服を手渡してきた。
「他に仕事の際に必要なものがあれば私共にお声掛けください。それから真壁様からの言伝を預かっております。渋江様が少し遅れるそうなので、来るまで書簡に目を通しておいてとのことです」
渋江殿というのは先程から名前が挙がっている政光殿の家名だ。城までの道中で義重様から重臣の方々の名前だったり色々教えてもらっている。
「言伝ありがとうございました」
「とんでもございません。それでは失礼いたします」
用が済むとまた一礼し、女中の方が障子を静かに閉めて部屋を後にした。
それにしても綺麗な方だった。義重様といい氏幹といい美人さんが多いな。
「さて、そしたらとりあえず着替えるか」
渡された和服は藍色だ。これが佐竹家の軍師の和服なのかわからないけど、正直かなり好きな色合いだ。背には家紋が入ってるみたいだ。
和服に手早く着替え、元から着ていた衣服は一旦押入れに綺麗に畳んで入れておくことにした。
そして着替えも済んだ俺は、言われたとおり書簡の中身を読んでみることにした。
「凶作が続いており、規定の年貢を納めるのが厳しいので納める量を減らしてほしい」
これって軍師が決めていいものなのか? 一個人の意見としてはないなら減らすしかないと思うがこれは…うん、渋江殿に聞くべきだな。
次の書簡に目を通す。
次は暴力事件……なんとまぁ複雑だなこれは。
内容はこうだ。Aの妻をBが寝取った。
理由はAが自分の妻に暴力を振るってて、それに耐えきれなくなったAの妻がBに相談し、その場の雰囲気で一夜を過ごしたと。
ふむ、これはAも悪いしBも悪いよな?
現代の日本だと法律があるからそれに従って判断すればいいんだろうけど、この時代にそんなものはないだろう。だから両者の意見を聞いて、過去の処罰を参考にしながら公平に判断するわけだ。
とりあえずAには棒叩き十回と村追放。Bは年貢の増加。Aの妻に関して、暴力を受けていたことを加味すれば正常な判断ができないと思われるため棒叩き一回とし、Aの土地を所有するものとする。尚、Aが許可なく村に立ち入った場合はいかなる理由であろうとその場で処断する。
こんな感じでどうだろうか。
その後も俺は書簡に目を通し、自己判断できる、できないものとで分けた。その間に書簡はどんどん運び込まれており、机上の全てに目を通し終わる頃には夕方になっていた。
俺は大きく伸びをすると同じ姿勢でいたこともあり凝り固まってしまった関節が鳴った。
「あれ、そういえば渋江殿が来なかったけど忙しかったのかな?」
そんな事を考えながら一通りできた書簡に不備がないか確認をする。書道を習っていたおかげで字は中々に上手く書けたと思う。本当はボールペンとか使いたいがそんな便利なものはない時代だから仕方ない。
「とりあえずこの書簡は義重様に持っていけばいいのかな?」
終わった書簡を全て持って行く事ができなかったので何個か書簡を持って義重様の部屋へと向かった。
丁度仕事が終わったのか、部屋を出ると氏幹とばったり会った。
「夜一、お疲れ様。その手に持ってる書簡はもう終わったやつ?」
「これはそうだな。とりあえず一通り目を通して処分等を決め終えたところだな」
「うわぁすごいね。私は座仕事が苦手でさ、本来一日で終わるような物も何日もかかる自信があるよ」
話を聞いた限りは氏幹は戦働きの方が向いているからな。反対に俺は内政とか頭を使う方が向いてるんだろう。間違っても槍とか刀とかを振り回して戦えるとは思えないし。
「氏幹は戦で活躍できるし、その武勇は義重様にとっても力になるだろ?」
「えへへ、なんか照れるからやめてよ。そんなに褒めても何もあげないよ?」
体をくねくねさせている。わかりやすいくらい氏幹は素直な性格だし可愛い。
でも戦場だと敵兵から鬼真壁って言われて恐れられてるからわからないものだよな。
「あ、そうそう。悪いんだけどさ、義重様の部屋まで案内してくれないか?」
「もちろんいいよ。まだ教えてなかったもんね」
「それは助かるよ、ありがとう氏幹」
「いーえ、でもなんで義重様?」
「渋江殿がいいと思ったんけど来てないから忙しいんだろうから義重様に聞こうかなと」
俺がそう言うと突然氏幹が立ち止まった。そして申し訳さそうな顔をして言った。
「ごめん、追加で言伝頼むの忘れてたよ。政光姉、あの後急遽城下へ行くことになったから今日行けなくなったんだよ」
「そうだったのか。まぁ別に問題なかったと言えばなかったから大丈夫だ」
氏幹の後ろをついていき、ある襖の部屋の前で止まった。どうやらここが義重様の部屋らしい。
「義重様、いらっしゃいますか?」
「……」
返事がない。どこかに行っているのだろうか。
「さては義重様……疲れて寝てるのかな? それじゃあ失礼します、義重様!」
まさかそんなわけないと思いつつ、氏幹が開けた部屋の中を見ると、丁寧に布団まで敷いて寝ている義重様がいた。当主が日暮れ前に寝ていていいのかと思ったが、それは口に出さない。
「誰だ、睡眠の邪魔する者は」
「わた……夜一です!」
「おい!」
氏幹が平気で人の名前を出したので、堪らずツッコミをいれてしまった。確かに案内してもらったのはありがたいけど、開けたのは氏幹だ。
「……夜一、仕事は終わったのか?」
義重は目をこすりつつ、重そうな瞼を開いた。よく見ると瞳が綺麗な緑色をしていることがわかる。
ここは日本だけど日本じゃないんだな。仮に性別が女だというだけならまだありえるけど、銀髪に緑目ってなると、間違いなく別次元だ。日本人に緑目はありえないもんな。
「聞いてるのか?」
「あ、すみません! 仕事は終わりました。それで自己判断ができない書簡について相談と提出先について質問をしに参りました」
「……まずは終わった書簡を見せてくれるか?」
そう言うと手の仕草で義重様は俺を隣りに座るように促した。そこは布団の上であり、躊躇したのだが「早く」と急かされたので素直に隣に座る。
「お隣失礼します。この書簡内容のこれについて判断を仰ぎたいのです」
義重様に相談すると数分で問題が解決した。しかも、丁寧にこういう場合はこうとわかりやすく説明してくれたおかげで理解できた。
「夜一、そろそろ夕餉の時間だ。食べに行こう」
「はっ」
俺と氏幹は義重の後ろをついて行き食堂へと向かった。ちなみに氏幹はいつの間にか姿はなく、食堂につくと既に夕餉を食べていた。
生き残るために軍師になったけど、軍師の才能があったようです 八咫丸 @yatahiko
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。生き残るために軍師になったけど、軍師の才能があったようですの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます